中学生編 第20話 合宿前の準備に忙しい
もうすぐ子供等の学校が夏休みに入るという事で、桜宮神社の禰宜さん――由利子の父の桜田正之氏――がラジオ体操のポスターを持って来た。十合炊きの炊飯器と共に。
「お世話になります。また今年もポスター貼らせて下さい。それとこれはお約束の炊飯器です。」
「ありがとうございます。態々持って来ていただいて恐縮です。」
「今年はうちの娘もお世話になるそうですし、よろしくお願いします。」
「いや、お手伝いしてもらうんでお世話になるのはこちらですよ。」
「おもりを押し付けて申し訳ありませんが、どうか良しなに。」
うーん、由利子は大学生、いや短大生だったかな?なんだからおもりって歳でも無いんだがな。そういや来春卒業の筈だが、就職は決まったのだろうか。
その日の午後の修道教室で勝陽も炊飯器を持って来た。
「先生、うちの母さんがこれ持ってけって。」
「おぉ、サンキュ。」
桜宮神社と玄田家の炊飯器、どちらも十合炊きだがこのクラスになるとかなりでかい。そして消費電力も大きい。えーと、1,280Wに1,360Wか。単純計算だと12.8Aと13.6Aで26.4Aの電流容量が必要になる。これにうちと竹内家の五合半の炊飯器が加わるんだろ? 五合半の消費電力は……うちのだと680Wだから6.8A、竹内家のがどれ位だか分からんが似た様なもんだろ。となると二台で13.6A、十合炊き二台と合わせて40.0A? 教室のブレーカーは30Aだからもたない。教室と居住区と場合によっては竹内家で分散して炊いてもらうしかないな。それか時間差で炊くか。炊き終わって保温モードに入れば消費電力はそれほど大したものではないからな。カレーの時は、少なくともガスコンロはうちのと竹内家ので分担しなければならないだろう。
夏休みに入って修道の子等は夏休みの宿題を持ち込む様になった。宿題は来週の合宿でもやれるが、それだけではやり終える訳は無いから少しでも済ませておこうという事だろう。なかなか真面目な子が多い。特に今年の夏から教室にはエアコンが設置されて快適になったからな。宿題も捗るだろう。簡単な問題を先に済ませて、難しいのや分からないものは合宿で上の者に聞きながらやるってのがお勧めだぞ。
「せんせー、夏休みの自由研究の相談にのってぇー。」
莉紗がそんな事を言い出した。
「自由研究か……国語とか算数とかの普通の宿題はいいのか?」
「そっちは時間かければ何とかなるけど、自由研究は時間がかかるから早目に決めときたいんだよ。」
「そうだなぁ……やっぱり定番は観察日記かな。植物とか、あるいは生物の、ってこれは飼育日記になるのかな。」
「うち、アパートだから植物植えたり動物飼ったりするの難しい。」
「うちの教室の庭使っていいぞ。月子の兄ちゃんの晃一知ってるだろ。あいつなんか小学生の時、俺が育ててたキュウリの観察をして自由研究にしてたぞ。キュウリは成長が早いから、夏休み期間中でかなりの変化が観察出来るんだ。生物の観察は、動物は無理でも昆虫とか魚とかなら飼えるんじゃないか? 何でもいいんだ。好きな生物なら頑張って観察しようとするだろ。ヤマトがもっと小さい内だったら成長記録日記とか面白かったんだろうけど。あとは……ミユキチの観察って訳にはいかんな。色んな所に縄張があるみたいだから人間が付いて行けない。でも猫の縄張を調べるなんてのもいいかもしれないな。おそらく小学生では誰もやった事が無いだろう。ミユキチに小型のGPS取付けて行動範囲を把握するとかなら出来そうだけど。」
「うー、ちょっと考える。ミユキチの動きを調べるのは難しそうだけど、他の生物なら何とかなるかも。」
何やら考え込む様にブツブツ言いながら莉紗は自分の席に戻っていった。あんなのでアドバイスになったのかな。何の観察するのか後で教えてもらおう。
七月最終の書道教室で検定書を提出、来週はいよいようちの合宿、及び白鳳の合同合宿だ。休む暇が無いが、その為にいつもは行き当たりばったりの準備に時間をかけた。後で楽をする為に頑張った。せめて合宿前日の日曜日はゆっくりして英気を養おう。




