中学生編 第18話 流しソーメン台とバーベキューコンロ
合宿の予定も決まったので参加者を募ろう。夏季合宿参加申込書を作成、塾生に配布する。午後のレクリエーションについて、例年は前日に内容が決まるが今年は既に予定としてスケジューリングされている。勿論「天候等の都合で内容が変更になる可能性もあります」の一文も忘れない。昼食についてはメニューも決まっているのだがこれはあえて申込書の予定には記載しなかった。これも都合により変更となる場合があるから、単に昼食としたのだ。
例年五日間の合宿が今年は合同合宿とかぶる為、四日間だけになる。一日分減ったお勉強タイムを補填する為、午後にも設ける事によって整合性をとった。本来の目的が夏休みの宿題対策なのだから、レクリエーションよりこちらを優先させるべきである。また、最終日は半日しかないのに参加費は同じ千円なのか、というクレーム?に対する言い訳も考えておいた。参加費千円は昼食費です。最終日は午前中だけとはいえ昼食を出しますので千円を徴収させていただきます。ご不満な方が多い様であれば、「昼食無しにして参加費は無料」とさせていただきますのでお申し出下さい。ここまで言えばさらに食い下がってくる保護者も居ないだろう。
今年は出来るだけ準備を周到にして効率よく合宿を進めなければならない。その為、参加申込みは一週間前で一旦、締切りとした。参加人数を早目に確定したかったからだ。これで食材の分量などが事前に把握出来る。尤も後からの参加を認めない訳では無い。例年通り前日までは受け付ける。但し、「追加人数によっては参加をお断りする場合があります」との一文も付け加えてある。これがあれば、最悪の場合は追加を拒否出来る。出来るだけするつもりは無いが、この一文によって参加者は締切りまでに申込みをしなければ、という心情になってくれるだろうという目論見があっての事だ。
さて準備万端という状態にする為に、今年の場合は雨樋で流しソーメンをするので、その流しソーメン用樋を事前に作成してしまおう。というか流しソーメンが初日の昼食になってしまったので、事前にやっておかないと間に合わなくなってしまう。早速ホームセンターで一間物の雨樋を四本買ってきた。樋の端っこを塞ぐ終端?の敷居、水を注入した勢いで反対方向に逆流しても水がこぼれない様に出来る。これは上流部のみに設置すればいいな。下流は水が流れ出る方向なんだから必要ない。雨樋をつなぐジョイントみたいなのもあるんだな。一間は約1.8mなので二本つなげれば二間3.6m、これを二組作って途中で折り返す、というかV字型に配置する。樋を支えるのはどうしよう。従来は竹を切り出した時に余った竹で支柱を作っていたが……今年も支柱だけは竹内家の竹林から貰って来ようか。支柱だけなら何年か使っても衛生的に問題はないだろう。婆ちゃんに断りを入れてから支柱用の竹だけ切り出してきた。樋にする訳では無いから太い物でなくていい。二間の両側と中心(つないだ部分)に支柱を組めば十分だな。それが二組で合計六つの支柱をヒモで括って適当に作る。高さをこれまた適当に調整して……これでいいな。あとは折り返し部分に桶を設置して水だまりを作る。これの台はいつもの様に脚立でいいや。テストの為、水を流してみる。竹の樋と違って水の流れが良い。というか良過ぎる。これはソーメンを取り損なうリスクが高まるな。仕方ない、傾斜を緩やかにして水流を抑えよう。
何とか雨樋を使った流しソーメン台を作る事が出来た。実際にソーメンを流してみるべきか……俺が流して俺が掬うのか? 何とかなるかな。掬えるかどうかのテストだけなんだから。ソーメンを二束湯がいて一束分を樋の最上流の部分から投入、すぐさま中流付近まで行って箸で掬う。よし、大丈夫だ。残った一束を折り返し部分から投入、また二本目の樋の中流に行って掬う。こっちもOK。
よく考えたらこの雨樋、ちゃんと洗ってなかった。ホームセンターで買って来てそのまま水流してソーメン流して、そのソーメンをそのまま食っちまったわ。まぁ、大丈夫だろうけど、本番前にはきちんと食器用洗剤とか使って洗っとこう。何にせよこれで流しソーメン台は目途がついた。あとはバーベキューコンロだな。これも物置から引っ張り出したり、玄田家に借りに、いや貰いに行かなくてはならん。あと炭も買って来なきゃな。そう言えば去年薪を大量に買って余ってるな。今年は飯盒炊飯しないから薪の使いどころが無い。薪をさらに細かく切ってバーベキューコンロにぶち込むか? 面倒くせぇー。薪は俺がぼっちキャンプ、もとい、ソロキャンプで消費しよう。とりあえずは玄田家にコンロと鉄板取りに行こう。誰か手伝い出来そうなのはと。一番いいのは勝陽なんだが今日は来てないんだよなぁ。そうなると……
「彩音、ちょっと手伝えや。」
「また私をいい様に使おうとする。」
「合宿で使うバーベキューコンロを取りに行くから車で一緒に玄田家へ行くぞ。」
「普通に行く事になってる。拒否権は?」
「そんなもんは無い。ほら、行くぞ。」
強引に彩音を連れていく事にする。もう中学生なんだからこれ位やってもらわなくちゃならん。いつもスキャナ貸してる対価を払って貰うぞ。と、その前に、玄田さんは家に居るのか? 少なくともアポは取らんといかんだろうな。
「美沙恵さん、こんにちは。先日の打ち合わせでお願いしたバーベキューコンロの件なんですが、今から取りに行ってもいいですか?」
「大丈夫よぉ。でも先生一人じゃキツいんじゃないですか。」
「暇そうにしてる中学生を一人連れて行くんで大丈夫ですよ。」
「別に暇じゃないんですけどぉ。」
「あとうちで貰うって件ですけど、旦那さんは納得してるんでしょうか。」
「あぁ、それも大丈夫。多分だけど厄介払い出来た位にしか思ってないから。」
「それならいいんですけど……では今から参ります。」
彩音を車に乗せ、玄田家へ向かう。
「スンスン、スン……」
「何をやっとるんだ、お前は。」
「女の匂いがないか探ってます。」
「また訳分らん事を……そんなもん居る訳無いだろ。」
「去年の静さんの件とかがあるじゃないですか。」
「仮に女の影があったとしてどうだというんだ。」
「先生の魔の手から救い出さねば!」
えらい風評被害である。彩音が雑な鑑識を行っている内に玄田家に到着した。
「お世話になります。コンロと鉄板、いただきに参りました。」
「いらっしゃい、場所は知ってたかしら?」
「去年仕舞った所は知ってますが、勝手に入っていいんでしょうか。」
「どうぞ、持ってっていいですよ。」
「では失礼して……おい、彩音、行くぞ。」
玄田家の、というか玄田さんの会社の倉庫に入っていく。えーと、この奥だったよな……おっ、あったあった。
「よし、まずは鉄板からだ。車に積む時、鉄板を下に敷いて上にコンロを載せないと安定しないからな。」
「これですか? 見るからに重そうなんですけど。」
「何の為に二人で来たと思ってるんだ。そっち持て。取手が付いてるだろ。」
「えー、重ーい、ブーブー。」
「やかましい、ほれ、とっとと行くぞ。」
彩音を追い立て、鉄板を車に持って行く。続いてバーベキューコンロだ。こちらは鉄板ほど重くはないが、取手とかが無く 微妙に持ちにくい。下から抱える様にして二人で運んでいく。
「衣服に当たらない様に気を付けろ。汚れるからな。手はあきらめろ。後でしっかり洗っとけ。」
「これ、絶対女子がやる作業じゃない!」
「うるさい! キリキリ働け! 教室帰ったら車から降ろす作業もあるからな。」
「理不尽!」
「美沙恵さん、それではコンロと鉄板、いただきます。旦那さんにも私がありがとうございましたと言っていたとお伝え下さい。」
「はーい、有効に使ってね。」
こうして何とかコンロと鉄板を教室に運び終えた。帰りの車でブーたれる彩音にアイスを奢らされてしまった。畜生……




