小六編 第12話 修道教室は楽しい
「ちょっといいかな。」
スケブに色々描いていると中学生のお姉さんが話しかけてきた。確か美依さんだったっけ。
「あ、はい。かまいません。」
「ゴメンゴメン、何かやってた?お邪魔だったら遠慮するけど。」
「問題無いです。宿題だとかじゃないし、何時何時までにやらなきゃいけないって物でも無いですし。」
スケブを片付けながら返事をする。
「絵、描いてたんだ。好きなの?」
「好きですねぇ。上手くは無いですけど。」
「見せてもらっていい?」
「いいですけど現時点では絵と呼べるか……構図を決める為だけに書いたものですから。」
スケブを開いて美依さんの前に差し出した。
「わっ、何これ。確かに絵じゃないけど……マンガのページみたい。」
「わかります?」
「マンガ描いてたの?」
「描こうとしてるんですけど何分、絵は下手なんでストーリーと構図だけ描いて遊んでるだけですよ。」
「絵も描けばいいじゃない。絵が下手なマンガ、一杯あるよ。弱虫サドルなんかマンガの絵は上手いとは思えないけど、結構人気あるしアニメ化もされたし。」
「あぁ『弱サド』、いいですよねぇ。」
「突撃の巨人なんかも初期の頃の絵は……ね。結局、内容と言うかストーリーなんじゃないの。」
「突撃兵団内の人間模様、絡み、燃えますね。」
何かマンガの話で盛り上がってるな。
「何だ、お前ら、『ホップ系女子』だったのか。」
ホップと言うのは週刊少年ホップ、かつては発行部数600万部を誇った日本を代表する少年向けマンガ雑誌の事だ。
「先生、弱虫サドルは少年スコーピオンで突撃の巨人は別冊マシンガンだよ。」
「いや、そういうスポーツものやバトル系の少年マンガを好んで読む女の子を総称して『ホップ系女子』って言うらしいぞ。ホップで言えばテニスのプリンスとか幽霊白書とか。」
「例えが古い。」
「うるせぇ、おっさんなんだから仕方無いだろ。」
「ホップと言えば亜希ちゃんや依実ちゃんもよく読んでるね。ちょっと呼んでみようか。」
美依が亜希・依実の従姉妹コンビにこちら来る様にと声をかける。うまいぞ、共通の話題で彩音を馴染ませようという作戦か。やっぱり頼りになるヤツだ。俺は古い人間だそうだからここらで退散しておこう。ちょうどテスト勉強してるヤツに呼ばれたしな。
「スポーツと言えば美依さんは水泳やってるんですか? 先週の金曜来た時、髪が濡れてたからプール帰りなのかなと思ったんですけど。」
「中学の水泳部だからね。金曜は部活があってここに来るのが遅くなるんだ。」
「そうなんですか、いいなぁ。」
うらやましい。筋肉見放題じゃないですか。絵描く時の参考にしたいなぁ。
「水泳、やりたいの?」
「いえ、そうではなくて、絵の題材になるかもって思ったんです。筋肉の付き方とか手や足の動きとか、構図決める時の参考に。」
「なるほど、やる方じゃなくて観る方なんだ。」
「スポーツはあんまり得意じゃないので観る専です。中学行っても入るのは文化部でしょうね。」
「依実は中学行ったら何部に入る?」
「バスケやりたい。スリムダンク最高!」
「ホップ系女子だねぇ。亜季は?」
「私、あんまり頭良くなくてルールとかチームの連係プレイとか覚えられそうに無いから単純に走るだけとかそういうのがいい。」
「そうなると陸上部か。水泳部もいいよ。ほぼ個人プレイでただ速く泳ぐだけだよ。」
「泳げないんだよ!」
「むっ、それはいかんなぁ。今度特訓しよう。この夏中に25m泳げる様にしてあげるから。」
「イヤー!」
美依さんが亜希ちゃんをいじる。美依さん、本当にコミュ力高いな。
「水泳部を舞台にした自由!ってアニメがあるんですけど知ってます? 原作はマンガじゃなかったと思いますけど。あれ好きだったんですよ。」
主に「素材」として。
「深夜アニメでやってたね。遅い時間だから録画して視てたよ。水泳部としてはやっぱり視ちゃうよね。」
「美依さんとこの水泳部は毎日なんですか?」
「いや、うちは強豪って訳でも無いからそんな毎日やるほど厳しくないよ。週三回、月水金だけね。今日はテスト期間中…って言っても小学生には馴染みが無いか。勉強週間で部活動が休みになるから修道教室に来て勉強してるんだ。普段だと修道には火曜と木曜しか来れないからね。」
「勉強週間なのにここに来てていいんですか?」
「正直ちょっと息抜きも兼ねてるなぁ。でも先生や年上の人達に教えてもらえるから助かってる。学校の先生より分かりやすい時もあるよ。小学生の時はあんまり感じなかったけど今ならこういう場もあってもいいかなって思う様になったよ。」
ふーん、そうなんだ。今度分からない事があったら先生に聞いてみよう。
「ぶっちゃけ修道があるから書道も続けてるんだよね。書道辞めちゃうとこっちも来れなくなっちゃうから。」
美依さんがはにかみ乍らそんな事を言う。この人は本当にここが好きなんだな。「じゃあ勉強の方に戻るね。」と言って美依さんは席に戻って行った。時々、先生や上級生と思われる人達に質問したりしている。こういう事が出来るのがこの教室のいい所なんだなと思い乍ら亜希ちゃん依実ちゃんとマンガ談議に花を咲かせた。
「さて、もうすぐ六時だ。小学生組は帰る様に。中学生以上でまだ勉強したい者に限り一時間だけ延長を認めるから質問ある奴は早めに言う事。」
もう帰る時間になっちゃった。楽しかったし雰囲気も分った。これなら毎日来てもいいな。そんな事を考え乍ら帰る準備をする。
「さようなら。失礼します。」
「はい、さようなら。持永さん、こっちの教室はどうだった。」
「期待以上でした。明日もまた来ます。」
「そりゃ良かった。じゃあ、また明日。」
「はい、明日もまたよろしくお願いします。」
明日は何しよう。美依さんも言ってたけどちょっと絵を頑張ってみようかな。心なしか帰宅の足取りも軽い。明日も晴れるといいな。
少年チャ○ピオンの偽名?として王者という事で少年キングにしようとしましたが、かつてその名前の雑誌が実在していた事を思い出し断念しました。銀河鉄道999が連載されていた雑誌ですね。