中学生編 第7話 エアコン導入の投票
本日2話目の投稿になります。よろしくお願いいたします。
「先生、教室にエアコン付けるの?」
月子がそんな事を聞いて来た。京さんから聞いたのだろう。
「まだ確定はしていない。保護者にアンケートで投票してもらって賛成が多かったらエアコン導入する。そのアンケートではエアコン入れると月謝が少しだけ上がるって条件なんだ。だから月謝が上がるのは反対って意見が多いとエアコンも導入しない。」
「どれ位上がるの?」
「夏だけ、具体的には六月から九月になるが、書道教室で100円、修道で400円だ。修道の子は書道教室含めて実質トータルで500円上がる事になるな。」
「それ位なら反対する人は居ないんじゃない?」
「そうは思うけど、多くの人が同意しましたよって事実を確定させる事が大事なんだ。その為のアンケートというか投票だ。」
シュババババッ!
「エアコンと聞いて!」
「わっ! どっから湧いて来やがった。」
「エアコンですね? エアコンなんですね? うんうん、分かってますよ。そうでしょうとも。」
「お前は何、一人で盛り上がってるんだ?」
「いやー、これからはお絵描きが捗るなぁ!」
「まぁ、快適になる事には間違いないな。エアコン導入が採択されれば。」
「エアコン付けるんじゃないんです? 付けない可能性もあるんです?」
「塾生、というか保護者にアンケートとって、月謝が少し上がってもいいならエアコン付けるって事にするんだ。反対意見が多かったら付けない。」
「なっ! そんなの許されません!」
「許せないって言われてもな……親を説得して付ける方に賛成票入れさせてくれ。」
「これは塾生皆に周知させるべきでは? 親を説得せい!って事で。」
「ふむ、一理あるな。」
聞かれる度にいちいち説明してたんじゃ面倒くさい。俺は黒板に次の様な文言を書いていった。
書道教室・修道教室 エアコン導入計画(案)について
本年六月より教室にエアコン設置する計画案あり
エアコン設置費用、電気代がかかる為、夏季(6月から9月の間)限定で
月謝を増額する(書道教室+100円 修道教室+400円)
塾生(未成年の場合はその保護者)にアンケート実施、投票にて採決
A. 月謝増額でエアコン設置する
B. 月謝増額せずエアコン設置しない
説明用資料ならびに投票用紙は四月末に月謝袋に入れて配布
5月15日までに提出(投票)の事(16日以降の提出は無効とする)
A案が有効票の2/3以上あれば夏季限定で月謝増額の上、エアコン設置
(来年以降も夏季限定で月謝が増額される事になる)
塾生がザワザワしだした。そりゃそうだわな、今まで無かったエアコンが付くかもしれないんだから。
「皆ちょっと聞いてくれ。今、黒板に書いた内容のまんまなんだが、教室にエアコンを導入する計画がある。ただ費用がそれなりにかかるんで、夏限定で月謝を少しだけだが増額せざるを得ない。今月末に月謝袋にアンケートというか投票用紙を入れて配布するんで、来月15日までに提出してくれ。エアコン設置の、ここではA案だな、これが賛成多数、有効票の2/3以上なら月謝増額の上でエアコンを設置する。逆に2/3未満ならエアコンは設置しないし、月謝も増額しない。エアコン付けたければA案に投票する様、親を説得してくれ。因みに今回は伝手を頼ってかなり格安でエアコンが手に入る予定だ。もし本案が没になって来年また同じ様なアンケートをしたとしても、月謝の増額分はこんなもんじゃ済まなくなる可能性がある事を付け加えておく。」
「修道の子は書道教室にも参加してるんで、実質+500円って事ですか?」
「その理解であってる。」
「書道教室と修道教室の差が大きいんですけど。」
「書道教室は週一日、修道は週四日だからな。四倍は妥当なセンだろ。週四日とも全て来てる訳じゃないってのは無しな、週四日来れる権利は持ってるんだからそこは理解してくれ。週四日来てる子も週二日しか来ない子も月謝は同じ3,000円だろ? それと同じだ。」
「書道教室だけの子は5,000円の月謝が5,100円に、修道の子は書道と合わせて8,000円だった月謝が8,500円になるだけだよ。しかも夏の間だけ。そう考えるとそんなに高くないと思うけど?」
いいぞ、彩音。世論操作は任せた。もっとアジるんだ。ヤツもエアコン入れたいもんだから必死だな。この黒板はしばらく消さずにそのままにしておこう。今居る奴が聞いてない子にも説明しやすいだろうし、分かんなかったら直接俺に聞いて来るだろ。月末最終週、つまり検定の書を提出する週だが、書道教室でも説明しよう。書道教室にしか来ない塾生も居るからな。偶々この日に来ない塾生はどうするかって? 説明資料とアンケート(投票)用紙を同じ学校や近くに住んでいる塾生に持って行ってもらうか、最悪は郵送だな。投票を棄権してもいいけど機会だけは与えとかないと格好がつかないからな。
四月最終週の金曜と土曜、つまり書道教室の検定書提出日なのだが、殆どの者が参加する。黒板で説明して説明資料とアンケート(投票)用紙を月謝袋に入れて配布する。来なかった者が五人程いたが近所に住んでる者に託けたりして何とか配布した。中には俺が家まで持って行ったケースもあった。配布したのは全部で73件、うち6件は体験入塾中で五月以降に正式入塾を決めている者達だ。六月時点では正規の月謝を払っている筈なのだから、投票権を与えねばなるまい。
俺の勝手な予想ではあるが、仮にエアコン設置に反対であったとしても、Bのエアコン設置せずに〇を付ける者はほぼ居ないのではないかと思う。増額の金額もしれてるし、何より反対しづらい内容だしね。なので、そういう者は消極的反対という事で、棄権、あるいはどちらにも〇を付けないで提出、つまり白票とするのではないだろうか。その場合は無効票になるので全体の分母が減る、即ち賛成票の重みが増すのである。その為、全体ではなく、有効票の2/3以上で、としたのだ。中にはBに〇する者も居るかもしれないが、せいぜい数名ではないかと予想している。仮に全73票全てが有効票だった場合、73の2/3は48.67だからAに〇が付いた票が49票以上入ったらその時点でエアコン設置が決定する。白票等の無効票が回収された場合は分母が減る訳だから、エアコン設置に必要な得票数が減っていき、ハードルが少しずつ下がっていく事になる。
ゴールデンウィークによる浮つきも落ち着き、五月の書道教室が始まった。何人かは五月最初の書道教室の前に修道教室に来ており、その時に月謝と一緒に投票用紙を提出して来ていた。ただ修道教室に来る塾生は全体の半分未満なので、やはり書道教室が始まるまで待たないと、大部分の票の回収はままならない。書道教室五月第一週の金曜、土曜で全体の七割程度にあたる52票の投票用紙を回収出来た。その結果、A43票、B0票、白票等の無効9票となった。現時点で未回収の票は21票であるが、これが全てBに投票されたとしてもA43票、B21票、無効9票でうち有効票はAとBの64票、64の2/3は42.67なので、Aはこれを超える43票を獲得した事になる。つまりこの時点でエアコン設置が「当選確実」となった訳である。一応、投票締切りまではあと一週間あるのでそれを待ってから投票結果発表を行うが、玄田さんにエアコン設置が確定した事を伝え、工事日程等を詰めようと思う。
「お世話になります。白石です。玄田さん、エアコン設置が内定しましたので工事日程等を決めようと思って電話しました。今お時間よろしいですか?」
「これはこれは、やっと承認されたんですね。ホッとしました。」
「まだ内定ですけどね。選挙で言えば『当選確実』が出たところです。選挙速報レベルの当選確実では無く、未回収票や未開票が全て対立候補に回ったとしても当選出来るという本当の意味での当選確実です。」
「そうですか。何にせよ決定なのは間違いない様ですね。それで工事日程ですがどうしましょう。何か希望とか指定日とかはありますか?」
「一応、投票の締切り日が15日で正式な投票結果発表もそれ以降になります。なので工事は16日以降が希望です。それと出来れば午前中がいいです。昼を跨いでもいいんですけど三時以降は子供等が教室に来ますので、それまでには終わらせて欲しいです。それと200Vコンセント用の天井裏這わすケーブルの支給をお願いします。出来れば天井のどこからケーブルを垂らせば良いか等の指示をいただけると助かります。」
「分かりました。工事業者と日程を詰めます。ケーブルを垂らす位置はケーブルを持って行く時に指示します。」
「よろしくお願いします。それではご連絡お待ちしておりますので。はい、それでは。」
さぁ、いよいよエアコン導入計画が本当の意味で走り出した。暑くなる前に冷房の準備が出来るのは喜ばしい事だ。あっと、玄田さんに書類操作(請求、支払いの分割等)の根回ししとかなきゃならんなぁ。
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