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中学生編 第5話 エアコン設置の事前調査

「トゥルルルル……トゥルルルル……ピッ、はい、玄田です。どうしました、先生?」


「いつもお世話になります。美沙恵(みさえ)さん、今ちょっとお時間よろしいでしょうか?」


「はい、かまいませんよ。」


「本来なら旦那さんにかけるべきだったんですけど、番号知らないもので……新治(しんじ)さん、いらっしゃいます?」


「今ちょっと仕事で出てるんですよ。お昼はうちで食べるから正午までには帰って来ると思うけど。」


「そうですか、ではお昼過ぎにあらためてかけ直します。」


「昼からは私が不在になるかもだから旦那の番号教えとくわよ。今メモ取れます?」


「大丈夫ですよ。はい、はい、確認します。090の……ですね。」


「昼ご飯の時に旦那に先生から電話があるって言っとくわ。先生の番号も旦那に教えといていいわよね。」


「勿論かまいませんよ。ありがとうございます。それではよろしくお願いします。はい、失礼します。」


 とりあえずエアコンの見積り取らんと前に進めないからな。どれ位かかるかな……何とか10万位でおさまらんかな。二十畳クラスだとさすがに無理か。20万以下には抑えたいな。


 待てよ、二十畳クラスの大容量エアコンだと恐らく電源は200Vになるよな。200V電源の工事も必要じゃんか。確か教室リフォームの時に俺の要望で配電盤までは200Vが来る様にしてもらったけど、そこから200V用の配線を教室まで引いてコンセントの設置もしなきゃならんな。うわー、結構かかりそうだな。そうなるとまた京さんに許可もらわなきゃだな。面倒(めんど)くせぇー。玄田さんにかける前に京さん、京さんと……


「京さん、またちょっといいですか?」


 まだ庭に居た京さんを捕まえて相談してみる。


「何でしょう?」


「エアコン設置についてもう一つ確認というか、許可を貰おうと思いまして。導入するエアコンは大容量の物になると思うんですが、そうなると電源が200Vなんですよね。教室に200V電源引っ張ってきてコンセント設置してもいいですか?」


「あぁ、それはかまわないわよ。」


「契約解除時の復帰については?」


「そうねぇ……それは復帰しなくてもいいわよ。寧ろ資産価値が上がる方向だし。でも配線がむき出しで壁を這ってるのは避けてほしいわねぇ。」


「でもそれ以外に配線する方法が無いというか……古い建物で板は貼ってあるけど中はモルタルで中空になってる訳でも無いですし。天井裏を通したとしても、最終的には教室の柱や梁に配線を這わすしか無いと思うんですけど。」


「そうなのよねぇ……致し方なしか。いいわ、でも柱や壁に這わすのは極力最短でお願いね。」


「分かりました。うぅ……工事費用が心配だ。」


 よく考えたら200Vじゃなくて100Vでもエアコン用のコンセントを設置しなくちゃならんじゃないか。天井近くにコンセント無いんだし。もう自分で工事しちゃおうかな。まぁ見積り取ってからだ。電源配線工事でどれだけかかるかな。


 もうすぐ一時だしそろそろ玄田さんに電話するか。ピッ、ピッ、ピッ、と…


「はい、玄田です。お久しぶりですね、先生。」


「お世話になります。今お話出来ますでしょうか。」


「大丈夫です。珍しいですね、先生からお話というのは。」


「実はですね、まだ検討段階なんですけどうちの教室にエアコンを設置する計画がありまして……そう言えば玄田さんの所は家電品の卸関係のお仕事をしてたと記憶していたものですから、ちょっと図々しいかなとは思いましたが相談に乗っていただけないかと考えてお電話した次第です。」


「そういうことですか。お力になれればいいんですが。」


「まず前提条件として、玄田さんの所で家電量販店より安く買えるって考えてもいいんでしょうか。」


「そうですね、色んな条件があるとは思いますが一般的な店よりはお安く出来ると思いますよ。単純に考えて中間マージンを取る所が一つ減るわけですから。ちなみに設置する部屋の広さはどれ位ですか?」


「うちの教室は五間×三間の十五坪ですから三十畳ですね。ですから少なくとも二十畳クラス以上の容量が必要だと思ってるんですが。」


「間とか坪とか久しぶりに聞きました。しかし二十畳、三十畳のレベルですか……そこまで大容量の物はなかなか出ないんでメーカーもあまり作ってないんですよね。ですので量産効果が薄いというか、値段が安くなりにくいんですよ。」


「極端な事を言うと十畳から十五畳クラスの物を二台とかでもいいんですよ。そっちの方が安くなるなら。」


「成程、それも手ですが、そうなると工事費も二台分になっちゃいますよ。」


「あぁー、やっぱりそうなんですね。二倍になっちゃいますか。」


「いや、二倍って事はないんですけど1.5から1.7倍ってとこですかね。工事費はエアコンの容量で決まるんで、小さい物は一万数千円、大きいのは二万円位からですね。勿論、その他にも標準工事の範囲を超えると追加費用がかかります。室外機までの距離が長いとか電源コンセントが近くに無いとか。」


「そっか、そういうのも考えないといけないんですね。見積り取りたいんですけど、その材料になる条件としてはどういったものがありますか?」


「それでしたらそちらへ伺ってお部屋の状態を見てみましょうか?」


「えっ、いいんですか? こちらとしては大丈夫ですけど……色々見てもらった挙句、コストが合わないから買わないって可能性もあるんですけど。」


「それは営業する上では当たり前の事ですから。お気になさらないで結構ですよ。行くのはいつにしましょうか。今からでもいいですよ。」


「でしたら今からお願いします。本当に申し訳ありません。」


「では三十分以内には行けると思いますので。」


「分かりました。お願いします。はい、はい、失礼します。」


 玄田さんにご足労願う事になってしまった。申し訳ないな。三十分どころか十五分位で玄田さんがやって来た。本当にありがたい。


「早速お部屋の状況を確認させていただきましょうか。」


「よろしくお願いします。まずは教室の方からですね。」


「何度かお邪魔しましたけどそういう目で見た事は無かったから……失礼しまーす。」


「今思ってるのは教室の前方、私の席がある側ですが、三間の辺の真ん中に取り付けて前方から風を送る形にしたいんですよ。右側、左側に片寄るよりは全体に冷気が行き渡った方がいいと思いまして。」


「成程、この壁の裏側は屋外ですか?」


「いえ、私の居住エリアです。ですので室外機へのパイプなんかは左か右の壁へ向かって伸ばしてそこから外に出す形になりますね。私としては向かって左側の方が北側で家の裏になりますので、そちらがいいと思うんですが。」


「となると標準工事の距離を超えるかもしれませんね。ちょっと寸法を測ってみましょうか。このあたりにエアコンを付けるとして……」


「エアコンのパイプは右側、左側のどちらに出ていく形になるんですか?」


「一般的にはどちらへも出せるようになってます。」


「エアコンの幅ってどれ位の寸法になりますかね?」


「大容量の物だと800から900mm位ですね。800として400mmはエアコンの幅で稼げますね。」


「三間は約5.4m、真ん中に付けると半分で2.7m、エアコン幅の半分、0.4mを引いて2.3m、室内でそれだけの長さが必要ですね。」


「あー、実際測っても大体それ位の長さですね。あとは外に出て下に下ろして2m位ですかね。いや、床の高さの分もう少しあるかな。」


「となると合計で4.5から5m位になりそうですね。」


「標準工事の範囲は4mなんですが……まぁそれ位のオーバーなら標準の値段でやらせてもらいます。」


「ありがとうございます。」


「小さいの二台にするって場合、二台目はどこに付けます?」


「後の三間辺のやっぱり真ん中に付けようと思います。さらに後方に水場や玄関があるんですけど、一応別の部屋の扱いで梁とその上に壁がありますのでその壁に付ける事になりますね。」


「そうなると同じ様に北側の壁へ向かってパイプを伸ばせばいいですね。長さは前側に付ける場合と同じになるでしょう。あとはパイプを通す穴の施工なんですが、この壁はモルタルですか?」


「そうです。あっと、穴をあける許可は大家さん、まぁ竹内家なんですけど許可はもらってます。但し、エアコンを取り外してパイプを抜いた時にめくら蓋で塞げる形にせよとのお達しです。」


「単に適当に穴開けて隙間を粘土で塞ぐんじゃなくて、それ用の施工が必要って事ですね。室外機を置く場所やら外壁も見ておきたいんで裏に回りましょうか。」


「はい、こちらです。」


 玄田さんを裏へ案内する。畑なんかがある表とは建屋を挟んで反対側で、俺もあまり行く事が無い。ありゃ、ミユキチが居るなぁ。陰で涼んでるのか。ヤマトは放っといていいのか?


「ミユキチ、悪いな。ちょっくらお邪魔するぞ。」


「ミャー。」


 好きにしな、と言わんばかりだな。


「えーと、窓の上辺があそこで穴はあの辺りだから……そこから下りてきてと……室外機にゲタを履かせるとこれ位の高さになって……やっぱり合わせて5m弱位になりますね。あと外壁としては……大丈夫そうですね。穴あけ施工は標準工事の範囲外ですけど、モルタルの壁ならそんなに高くないですから。」


「何とかなりそうですか。良かった。」


「あとは電源関係ですね。教室に200Vコンセントは無いようでしたが、そもそも200Vのラインが入線されてるのかどうか見てみましょう。」


「配電盤というかブレーカーの所までは来てるんですよ。ただ、そこから教室まで引っ張ってエアコン用のコンセントを設置しなきゃならんかなと。」


「そういう事ですか。ブレーカーはどこに?」


「居住エリアというか事務所にあります。教室の私の席の裏側になりますので、引っ張る距離は短くて済みますけど……ご案内します。外側で見る所はもう無いですよね。」


「大丈夫ですよ。」


「じゃ、こちらです。」


 教室に戻って、玄田さんを事務所に案内する。俺の席の後ろの扉を開けると事務所だ。


「ブレーカーはここです。確かこの右側の二つが200Vだった筈なんですが……ちょっとテスターで測ってみましょうか。」


 テスターを引っ張り出してきて電圧を測る。215V、うん、やっぱり200Vラインはこのブレーカーであっている様だ。


「すいません、このブレーカーのすぐ出口にあるメーターみたいなのは何ですか?」


「あぁ、それは電力積算計というか電力量計ですね。教室でどれだけの電気を使ってるかを明確にしたかったので、リフォーム時に付けてもらいました。私の趣味みたいなもんですがね。」


「ひょっとして教室で使った分だけを経費として計上する為に?」


「まぁ、そういう事です。ですので教室へ引っ張る予定の200Vラインにも付けようと思ってます。」


「マメですなぁ。教室の電力は家とは別の契約にして払いを分ければよかったのに。」


「うーん、うちの教室ってそこまで電気使わないんですよね。ただ今回エアコン付けるとかなり電気代がかかる事になりそうですけど。」


「この積算計の追加もうちが工事します?」


「出来るならやってもらいたいんで、それも見積り貰えますか。但し項目は細かく分けて下さい。エアコン購入費、エアコン設置工事費、穴開け加工費、電源コンセント設置費、積算計設置費とかで。高ければ自分でやれるところは自分でやりますので。」


「今付いてる積算計の型式とか分かりますか?」


「分かりますよ。出来れば同じ物がいいですけどこれは100V系の積算計なんで、200V系とは型式が違うかもしれません。」


「あとはブレーカーの容量ですけど……30Aの物か。これなら大丈夫ですね。大容量のエアコンでも要求仕様は大体20Aですから。」


「二台設置だと40Aになっちゃうと思うんですけど。」


「容量が小さければ電流も小さくなるんで大丈夫だと思います。一台あたり15Aとか10Aなので。但し、200V仕様の物ですけど。」


「そっか、100Vだと単純計算で倍の電流が必要ですもんね。」


「教室までの配線は天井を通して教室まで行ってそこから下ろすって感じでいいですかね。」


「それでお願いします。と言うかそれ以外に方法が無いというか。あと大家さんの意向で出来るだけ壁に電線這わすなって事になってます。見える場所に配線するのは極力最短にする様にって。」


「天井に穴開けて配線下ろして、天井にくっつく位の所すぐにコンセント置きますかね。それが一番手っ取り早い。」


「こんなもんで見積もり出せますかね?」


「大丈夫ですよ。」


「一応、大きいの一台と小さいの二台の二通りで見積もり出してもらえませんか。ランニングコスト、つまり電気代で考えた場合、どちらにメリットがあるのかもおさえときたいんで。」


「分かりました。一週間位時間貰ってもいいですか?」


「それ位なら大丈夫です。見積りもらってそれに基づいたイニシャルコスト、ランニングコストをはじいて、設置するかどうかの検討材料にします。初めに言いましたが、結果的に没になる可能性もありますので、申し訳ありませんが。」


「ははは、それはお気になさらずに。」


「一応、玄田さんにも関係がある事なので言っておきますと、コストによってはそれを回収する為に月謝を値上げする可能性もあります。ただ、今考えてるのはエアコンを使う夏季限定で数百円上がるかなって感じです。塾生、というか実際には保護者にですけど、それを承認して貰えるのなら設置、反対が多い様なら見送りって事にしようかと思ってます。」


「成程、それならリスクは小さいですな。数百円なら子供の為に容認しようという風になるかもしれませんね。あとエアコン使うのは夏限定ですか? 冬は?」


「エアコンの暖房は電気代がバカ高いので……いままでも石油ファンヒーターなんかでしのいでましたから。それなら月謝の値上げをするまでも無かったので。」


「だったら冷房専用エアコンでもいいって事ですね。そちらの方が安いですし。」


「あぁ、言われてみれば確かに。コスト次第ではそれでもいいですよ。」


「そちらも視野に入れておきます。因みにメーカーとかの指定は無いですよね。」


「特に指定は無いですけど、少なくとも日本製でそこそこ名の知れたメーカーでお願いしますね。」


「型落ち、つまり一、二年前のモデルでもいいですか? 安くするにはそういうのを探した方がいいと思うので。」


「十年前の持って来られても困りますけど、一、二年なら許容範囲です。」


「分かりました。今の感じだと決まるまで時間がかかりそうですね。保護者へのお伺いとかあると。」


「ですから今のうちに動いてるんですよ。決まれば五月中には工事したいんで……夏直前になると工事業者もなかなか確保出来ないでしょうから。」


「見積り、早めに出すようにします。」


「よろしくお願いします。」


 あれこれ要求してしまったが見積りが出ないとコストがはじけない。保護者へのお伺いも四月末に渡す月謝袋に入れて、五月中旬には回収しないといけない。バタバタするなぁ。今更だがもう一ヶ月早く動けば良かった。

最後までお読みいただきありがとうございます。ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。今話で30万字を超えました。今後ともよろしくお願いいたします。

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