中学生編 第1話 セーラー服と波動砲
竹内家の桜が満開だ。俺はその桜を肴に一杯……と出来れば良かったのだが悲しいかな下戸だ。仕方が無いのでお一人様お花見バーベキューと洒落込み、昼飯を食う。去年の合宿で余った、というか消し炭となって残った炭があるので、時々こうやって消費している。当初は埋めて土に還そうとしたのだが、炭は腐らず残ってしまう――数百年、数千年かければ腐るんだろうけど――と教えられ、使い切る様にしているのだ。
煎餅が入っていた底が深い缶に炭を入れてコンロ代わりにする。上に焼き網を乗せればバーベキューコンロの出来上がりだ。お一人様だからこれ位のサイズが丁度いい。使い終わった後、炭が残っても蓋を閉める事によって酸素の供給が遮断され、簡単に消火出来るので重宝している。
キャンプで使う簡易テーブルと椅子を庭に引っ張り出して、桜を見ながらバーベキュー。桜は竹内家のものだから借景という訳だ。うーん、ご飯が欲しくなるぜ。
「あー、先生が美味しそうなもの食べてる!」
門の所を見ると、学校帰りなのかランドセルを背負った莉紗が居た。
「莉紗か、今日は早いな。」
と言うか俺が昼飯を食う時間が遅いのだが……もう二時過ぎだしな。バーベキューの準備に手間取ってしまったのでこんな時間になったのだ。
「莉紗も食うか? といっても肉はあまり残ってないがな。野菜はいっぱいあるぞ。」
「ピーマンとナスは嫌い。玉ねぎは食べる。」
「ピーマンとナス食べたら肉を二倍にしてやろう。」
「うー、じゃ食べる。」
肉と野菜を皿によそってやる。いっぱい食べて大っきくなれ。二人で桜を見ながらバーベキュー。お一人様ではなくなったが誰かと一緒に食べるというのもいいもんだ。元々一人分しか用意していなかったので、あっという間に食材が尽きてしまった。残念だがお開きだ。莉紗は莉紗で小学校の給食食べた後で、そんなには入らなかっただろうしな。
バーベキューの後片付けをしていると、ミユキチが生垣の下からひょこっと顔を出してきた。バーベキューの匂いにつられたんだろうか? 残念だがバーベキューは終わったぞ。よく見ると何か黒いものを咥えてるな。ネズミでも獲って来たか?飼い猫がネズミ等の獲物を獲って来た時には主人に成果報告で見せに来るらしいが、そういった類のヤツだろうか。
「ミユキチ、何獲って来たんだ?」
「ミャン!」
ミユキチは咥えていた物を地面に降ろすと、俺の顔を見ながらみゃんみゃんと何かを訴えかけている。いや、よく分からんのだが……あと、咥えていたのはネズミではなく。小さな仔猫だった様だ。生まれたばかりか?まだ目も開いていない様だな。
「どうしたんだ、この子。ミユキチの子か?」
「ミャウ!」
引っ掻かれた。違うらしい。じゃ、拾ってきたのか。
「なんかその子、ミユキチが飼うって。」
「莉紗、ミユキチが何て言ってるのか分かるのか?」
「言ってる事は分からないけど、そうしたいっていうのは分かる。」
莉紗はミユキチと意思疎通が出来るのか。そう言えばよく一緒に居るよな。何でかは知らんけど。
「ミユキチが飼うから寝床とご飯を用意して欲しいんだって。」
「それはミユキチが飼うんじゃなくて俺が飼うって事なんじゃないのか?」
「よく分かんないけど、飼うのはミユキチだって。」
「そ、そうか……」
何か扶養家族が増えてしまった。独身なのにおかしいな。まぁいい。チビ助の寝床くらいは用意してやるか。育てるのはミユキチがやるだろう。あっ、ミルクですね。少々お待ちを、すぐ用意しますので。
すぐに洗って綺麗にしてやってもよかったのだが、まずは食い物と睡眠だな。綺麗にするのは落ち着いてからでいいだろう。仔猫の寝床は教室の玄関じゃなくてとりあえずは俺の居住区に設置しよう。ワクチンやらの接種前だと、うかつに子供等に触らせられんからな。接種が済めば玄関でもいいと思うけど。
名前はどうするかな。チビ助とかクロ助だとかわいそうか。真っ白なミユキチとは対照的に真っ黒だな……黒猫、クロネコ……ヤマトでいいな。よし、お前は今日からヤマトだ。別に荷物のお届けはしなくていいぞ。あとイスカンダル行かなくていいし、波動砲も撃たなくていいから。
三時になり、修道教室に子供達がわらわらとやって来た。新学期が始まったばかりでまだそんなには宿題が出てないのか、皆ゆったりと過ごしてる様だ。
「こんにちはー!」
何か見慣れない中学生が来たんだけど……
「何、惚けてるんです? まぁ、いつもの事だけど。」
何気に酷いな。
「お、お前、まさかとは思うが彩音か?」
「そうですよ? 何言っちゃってるんです?」
「か、髪はどうした?腰近くまでのロングだったじゃないか。」
「あぁ、うちの中学、肩より下に伸ばす場合は三つ編みにしなきゃなんないんですよ。」
「そ、それと……それは中学の制服か?」
「そうですよ。今時じゃないですよね、セーラー服とか。スカート丈も膝下ですし。」
緑のスカーフのセーラー娘がそこに居た。
「畜生、なんで、なんで……」
「ちょっと、先生、どうしちゃったの?」
「なんでこんなに似合ってるんだよ! 彩音のクセに生意気だぞ!」
「酷くない!?」
そこはかとないダサさと白のハイソックスと三つ編みが田舎の中学生にマッチしてすんごく似合っちゃってる。だがそれがいい!
「ほぅほぅ、いいぞぉ、彩音。」
「なんか視線がイヤらしいんですけど。」
「勘違いするな。セーラー服が似合っているのに感心してるだけだ。そこに性的興奮の要素は皆無だ。」
「それはそれで何か腹立つんですけど。」
「つ、月子は? 月子のセーラー服もこんな感じなのか?」
「ツッキーの中学はスカーフがエンジ色だったかと。あとツッキーは元々ショートヘアだから三つ編みとかではないですよ。」
そうこうしてる内に月子もセーラー服で現れた。成程、スカーフはエンジ色だ。スカート丈は……彩音より少し短い。丁度、膝丈位だから大して変わらんが。校則が彩音の中学より若干緩いのかもしれない。月子はショートヘアだから当然三つ編みではない、というか出来ない。うーん、やはり三つ編みというのがダサさに拍車をかけているのか。
「せんせー、ミユキチがミルク持って来いって!」
莉紗がミユキチからの指令を伝える。彩音と月子のセーラー服品評にかまけて仔猫の事を忘れていた。へいへい、すぐ行きますよ。スポイトでミルクですね。




