小六編 第107話 スマホ
確定申告もしたし、特進検定を受ける書も白鳳本部に提出した。今年度もあと一月だ。子供相手の教室をやってると、どうしても四月始まりの三月終わりというのが一年の区切りになってしまう。それは会社でも同じか。大抵は四月に新入社員が入ってくる訳だし。
晃一は受験だったな。大学受験だと私立は二月中、国公立は三月初旬に試験日が設定されてるけど高校受験はどうだったかな。もう何年も前の事なので忘れてしまった。無事受かるといいな。月子はこの三月で小学校を卒業、中学へ進学する事になる。小一から書道教室に通いだしてから六年か。あっという間だったな。本人からすれば長い六年だったと思うけど。月子が中学に上がるという事は同級生の彩音も中学生になるという事で……不安だ。月子とは進む中学が別の学校になるとの事で、それが俺の不安に拍車をかける。暴走を止める者が居なくなる。月子の言う様に中学生になったら少しは大人しくなるのか、或いは一層歯止めが利かなくなるのか。せめて書道教室や修道教室では強固な監視体制を構築しなければならないだろう。
「先生、今からワン切りで電話するんで番号登録しといて下さい。」
「お前んとこの番号は登録してるぞ。美那さんのだけど。」
「オカンのじゃなくて私の番号です。遂に私個人のスマホを手に入れたのですよ。」
嬉しそうだな。もうすぐ中学に上がるから携帯位持たそうという親心か。ちょっと早い様な気もするが他所ん家の教育方針にまで口をはさむつもりは無い。
「スマホ買って貰ったのか?」
「オカンが買い替えたのでお古が回ってきました。」
「だったら元美那さんの番号がお前の番号になるんじゃないのか?」
「オカンの番号は SIMカード挿し替えで引き続きオカンが使います。私はスマホだけ貰って新しく番号を契約して貰いました。」
ドヤァとばかりにスマホを差し出す彩音。いや、そんな何年も前に出たスマホでドヤられてもな。とは言えiPh〇neか……あのサイズは5以前のものだな。旧バージョンのSEかもしれんけど。
「じゃ、かけますね。登録しといて下さいよ。」
「へいへい……おっ、来たな。登録しとくよ。」
「LI〇EのIDも教えて下さい。」
「俺はLI〇Eはやらないぞ。あれは情報漏洩が酷いからな。電話帳の番号で友だち見つけるとか、電話番号抜かれ放題って事だろ。」
「えー、じゃどうやってメッセのやり取りしてるんですか?」
「顔本のメッセンジャー使ってる。顔本も信用していいかどうかという議論はあるけどLI〇Eよりは信用出来るだろ。電話番号の登録も任意だし。」
「めんどくさい人ですねぇ。顔本やってない人だって居るでしょうに。」
「それを言ったらLI〇Eやってない人だって居る訳だろ。俺がまさにそれなんだが。」
「LI〇E、絶対にやらないんですか?」
「一応、アカウントは持ってる。但し、情報漏洩が起きない様に電話帳に一切の登録をしていない端末を用意して、それにLI〇Eだけを入れている。アカウント作った後はSIMカード挿してないんでWi-Fiある所じゃないと使えないし、滅多に触らないからよくバッテリ切れを起こしてる。」
「駄目じゃん。」
「そう、駄目なんだよ。そんなLI〇EアカウントでもよけりゃID教えてやるけど、そっちからメッセ送ってもずーっと既読が付かないかもしれんぞ。読んで欲しけりゃ電話しろ。充電し始めるから。」
「メッセの意味が無い様な……」
「実際、無いんだよ。だから電話か顔本のメッセンジャーになるな。あとはメールだな。Ap〇le ID作ればiCl〇udのメアド持てるだろ。そしたら俺のメアド教えてやるよ。俺としては電話か顔本メッセンジャーが楽でいいんだけど。」
「私の番号の契約、五分以内の通話無料っていう制限付きなんで、あまり使いたくないんですよね。」
「五分以内で終わらない様なら俺からかけ直すぞ。俺の方はかけ放題だから。」
「分かりました。ちょっと考えます。」
「それにしても最近は中学生でスマホデビューか。皆そうなのか。」
「どうでしょう? ツッキーも近々買って貰うって言ってましたけど。」
「キッズケータイで十分だと思うんだがな。」
「今時はガラケー自体が絶滅危惧種ですし、ガラホにするくらいならスマホを選択って事なんじゃないでしょうか。」
「そんなもんかね。」
世の中、贅沢になったもんだ。




