小六編 第106話 校区
二月は特進検定月だ。これの検定結果が三月中旬位に出るので、学校の年度終わりになることもあり、ここで書道教室を辞めるという塾生も居る。特に卒業の年になる小六、中三、高三の塾生に多い。小六で中学生になっても続けるって言ってた子でも実際中学に上がってみると、部活動やら勉強やらで夏までにやめてしまう子も居る。で、それでも続ける子でも中三になると受験で辞めるパターンが多い。ここでも踏ん張って高校生まで続ける子というのは稀なのだ。受験の年だけ休んで進学後に復活するなんて子も居るには居るのだが。
「彩音は少なくとも中学までは続けるって言ってたけど月子はどうなんだ?」
「続けるよ。辞めるって言っても多分、婆ちゃんが許さない。」
「晃一は中一の夏に辞めちゃったけど?」
「兄ちゃんはほら、行った中学が中学だから。」
そういえば私立の特別進学コースがある様な中学校に行ったんだったな。
「月子は同じ中学には行かないのか?」
「私は普通に公立に行くよ。兄ちゃん見てたら分かるけど大変そうでついて行けそうにないよ。」
「そうか、うちの教室としちゃ塾生が減らないからその方がありがたいが。」
中学行って入る部活動にもよるんだよな。厳しい部活だと練習練習で書道教室に行く時間が取れなくなるケースもある。
「部活は何に入るんだ? 厳しいとこだと大変でうちに来れなくなる可能性もあるけど。」
「中学校入ってからじゃないと分かんないけど美術部入ろうかなと思ってる。」
「書道部とかは無いのか?」
「確かなかったと思う。うちらが入った年に偶々出来るかもしんないけど。美術部は間違いなくあるって聞いたから。」
「厳しい美術部とかあんまり聞いた事無いな。あとは部活の曜日とかの兼ね合いだけだな。」
「最悪、土曜の夕方の方に移るから大丈夫だよ。」
「そうだな。土曜夕方の教室には中学生も何人か居るしな。」
「彩音は何部に入るんだ?」
「美術部、書道部、文芸部、この辺が候補ですかね。」
「ん? 書道部は無いって話だけど?」
「あぁ、私が行く中学校には書道部あるんですよ。」
「月子と同じ中学じゃないの? 私立中学にでも行くの?」
「いや、公立ですよ。ツッキーとは中学校の校区が違うんですよ。」
「何で? 同じ小学校なのに中学校違うのか?」
「何でって言われても小学校と中学校じゃ校区は別物なんで。」
「えー、俺んとこじゃ同じ小学校なら同じ中学校だったぞ。三つ四つの小学校が一つの中学校に集まるって感じだったんだが。」
「そういう中学校もあるけど、この辺りは同じ小学校から二つの中学校に分かれるって区割りなんですよ。で、ツッキーと私じゃ小学校は同じだけど中学校は別になるんです。」
「そ、そんな……じゃ、彩音の監視役は? 彩音係は? うちの塾生で誰か彩音と同じ中学校に行く奴は……」
「残念ながら小六でそれに該当する子は居ないかと。」
「ど、どうするんだ? 月子!」
「私に言われても……」
「何気に私に対して失礼ですよね。」
「お前の今までの行動を考えたら必要な措置だろ。」
困った。彩音の抑止力が無くなる。いや、月子が居てもそれが抑止力になってたのかという疑問は残るのだが。
「まぁ、中学に上がったらモッチーも少しは大人しくなるよ。」
そうだろうか? さらに暴走しそうな気がするのだが……不安だ。
「それより先月の検定結果は? もう会報誌届いてるんじゃないんですか?」
うーん、彩音係が居なくなる事を、それよりで片付けてしまっていいのだろうか。
「検定結果か……そこに来月号の白鳳があるからいつもの様に彩音、データ入力頼む。俺はショックで何もやる気が起きない。」
「本当に失礼な先生ですよね。」
「ぷんすこ」という擬音が聞こえそうな勢いで彩音が憤る。それにツッコミを入れる気力さえ無い。
「私は……駄目だったかぁ、残念。ツッキーは……おめでとう!二段合格!」
月子、二段合格で準三段になったか。小学校卒業までにここまでいけばまずまずだな。
「おっと、莉紗ちゃん、四段合格。すごいですね。次は準五段ですよ。」
相変わらず莉紗はすごいな。今月の特進検定で受かれば五段、小四に上がって特進検定が二回あるからそこで何とか特待生になって欲しい。
彩音が入力したデータを印刷、誤りが無いか俺がダブルチェックする。よし、問題無いな。いつもの様に教室の壁に貼り出す。今月は特進検定だ。皆、気合を入れろ!今回が最後の検定になる奴もいるだろう。悔いのない様に頑張ってくれ。




