表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
城の王  作者: 京理義高
6/39

6.傲慢ファシズム

 

 5


 屋敷の三階にある暗室に居た男は、狂ったように笑っていた。閉め切った窓のカーテンが揺れている。思い出し笑いといった類では発生しえないものだった。広々とした暗室からは、笑い声なぞ誰にも聞こえない空間だと錯覚させる。男はカーテンを開けて外の様子を伺った。山奥で森だけの殺風景だが、男にとっては見なれた風景も違った見え方をしていた。


 月明かりで照らされた顔は生気に満ちた支配者そのものであり、犯罪者と紙一重だった。すべてが計画通りに進んでいてあっけないとさえ思っていた。数十年夢見ていたものが、現実としてすぐ先に存在する。第三者を介入させる計画を考えていた矢先、女が自主的に探偵を読んだのだ。さらに、世間の歯車も知らない若い連中が同行するのだ。進むべき道の旗振り人となり、外敵からの攻撃を抑制してくれる。


 自分が動かなくても環境作りは万全だった。後はその日を待って、予定通りに動けば何の障害もないのだ。そう人造人間でもできる。男はふとあっけない幕切れをつまらないとさえ思っていた。脚色があっても支障はないだろう。困難があってこそ、やり遂げた後の達成感は倍増するのだ。人間は生物である認識が、臨機応変なる分岐を構築し、計り知れない新たな計画を考えるだけでも笑えてくる。運さえも見方してくれているのではないかと考えた。


 女も多少は自分の考えている事に同調し、役に立っている。数十年寄り添って悪いことばかりではないなと感じていた。すべてが終わったらどこか旅行にでも連れてってやろう。もちろんそこにあるのは夫婦愛でなく、ビジネスのギブアンドテイクだ。女も人間であり、多少の好意を感じさせなければ、使い物にはならなくなってしまう。枯れてしまうまえに水はやっておかなければいけない。男には、女をそばに置いておく理由が存在していた。

 

 金が手に入れば女などいくらでも付いてくる。只それは見せしめでしかないのだ。女と遊んで暮らすのは男にとって性分ではなかった。面倒臭いのだ。


 定着していた屋敷生活。前から気に入らなかった。辺境ともいえる場所にいつ死ぬかも分からない父親との生活である。スリルのかけらもなく、ルーティン作業を黙々とこなしているだけだった。


 自分を満たしてくれるものは何もなかった。家族の因縁も後少しで完了する。もっと大きな家を建ててやろうと考えた。第二の人生は自分の思い通りにやれる。


 ポケットからウィスキーを取り出して、飲みほした。焼けるようなのど越しが気持よく感じていた。麻痺していくはずの神経は高ぶる一方だった。休息がなくとも、集中力は持続している。すべてを手に入れる前の興奮は万能感を与えていた男は屋敷にも計画を仕込んでいた。すべては自分という物語を演出するプロローグでありエピローグでもあるのだ。


 集まる人間たちはチェスの駒にすぎない。自分はチェスの動きを観察し、時に動かす騎手なのだ。生憎対戦相手と呼べる人間が見当たらない。


 社会的な地位も、探偵も異質な空間に身を置いてしまえば弱き人間であると自白するようなものだ。


 せいぜい泣きごとを言わないようになと男は思った。


 金という欲望が抜きんでていたとしても、所詮与えられたマスのなかで動きまわる事しかできない無能な奴らなのだ。


 男は高見からの見物人として存在する自分を思い描いた。


 少しは駒の連中に関わってやろうと思った。


 マスの中ではどうしようもない争いが起こるのだ。


 争いは自分が引き金になったとしても、駒を動かすのは最終的に自分なのだ。


 せめて限られたマスでしか動くことが出来ない無能な人物に支持を与えれあげよう。


 支持は無能な人物に 今後生きていく人生の術になるかもしれない。


 あまりにも可哀そうなのでヒントぐらいは与えてやろうかと思った。


 元々、自分は優しい性格なのだ。父親のやり口とは違うやり方で育てるのも悪くないと男は考えた。


 部下を、私の為に動く人物は大切にする。蔑にはしないつもりだ。

 

 死に物狂いで働いて金を稼いでいる農民には興味はない。


 頭を使って、楽をして金を稼ぐのが美徳なのだ。


 寝たきりの父親が考えていたプライドはいずれ崩してやる。


 面倒になったら駒を捨ててしまっても良いだろう。


 どうせ捨て駒同然なのだから。


 使える時に使っていればいい。


 男は呟いた。


「せいぜい楽しませてくれよ」

 

 辺りの森は男の言葉でざわついていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毛利家全体図を更新しました。
又、登場人物を追加しましたので、下記サイトを参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2003
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ