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城の王  作者: 京理義高
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4.毛利家からの依頼


 3

 

 広告を出すとは言ったものの、どこに注文し、どういった手順でやれば良いかまったく知らなかった。義高は大学生の身分が歯がゆかった。ただ、それを理由にしても始まらないのだ。大学生でもコネやノウハウを持っている人間はいる。ようやくネットの募集で、広告を出す方法は見つかったものの、見積を依頼すると、相当高値が付いてしまった。現状、実現することが難しいと判断した。とは言え、何としてもやり遂げなければいけないので、事務所の先輩である亜紀に電話した。


「もし〜ヨシ〜」


 やる気のない返事、


「適当だな。あの相談があるんだけど、今良い?」


「いいけど、まだ相談。義高も悩みやすいんだね」


ケンジにした説明をそっくり亜紀に伝えた。


「広告についてはコネないよ」


「じゃあ、今まで出したこともないの?」


「うん、何せケンジは身なりがあれだし、普通の会社なんて訪問できないもの。本人もくそ真面目な企業には行かないとか言っているし」


 義高は小さなため息を付いた。美辞麗句探偵事務所の人間は危機感という感情が欠落していると思い、インテリぶって不景気を敬語で説明した。


「だから?」


 棘があった。


「ホームページはどうかな?」


「アドレスなら知っているよ。最近見てないけど、代わってないんじゃない」


「今アドレスわかるかな?」


「後で事務所戻った時に教えるよ。メールで送る」


「お願いします」


 直に行動するのを諦め、探偵事務所を後にし、ホームページ作成マニュアルを書店で購入し、アパートへ戻った。良いタイミングで亜紀からのメールを受信し、パソコンの電源を入れると、指定のアドレスに入力した。あまり有名じゃないプロバイダで作成されたホームぺージだった。


 内容は、想像通り、客の気持ちを理解していない陳腐なものだった。美辞麗句探偵事務所という名前だけが目立ち、住所の記載のみで、問い合わせ先である電話番号、メールアドレス、掲示板、といった管理人に連絡をとる手段がまったく記載されていなかった。本人が例えベールに包まれた探偵を演出しているにしても、これでは依頼人がコンタクトできない。依頼人は基本的に切羽詰まった状態になっていることが多く、住所から連絡先を調べるなんて余裕もないと想像するのが容易である。


 義高は有名なプロバイダに入り、ホームページを最初から構築することにした。不明点は、以前事件の時に知り合いとなり、メールを続けるようになった武本博之に問い合わせして解消した。

 メインの場所に事件解決の記事を載せ、連絡先、アドレスをクリックすれば、メールのやり取りができるようリンクを張った。受けている内容と、必要最小限のケンジのプロフィールを載せ、手軽に回覧できるよう、ポップなイメージの壁紙とした。携帯からのアクセス負荷を考え、全体のサイズを抑えた。普通の探偵は、殺人事件の調査はやっていないが、それがケンジにとっては最大のアピールポイントであると義高は思った。少ない交友関係に、メールで宣伝文句と一緒にアドレスを教えた。読心を持つ自分がアルバイトをしていることと、両親の離婚の理由となった記事だけは載せなかった。


 菅野の反応は、探偵事務所がこんな庶民派でいいのかという厳しい意見ではあったが、変えるつもりはない。ケンジや亜紀に知らせたものの、反応は薄かった。自信をなくし始めたのは、二日間まったく事務所への連絡がなく、メールも届かなかったからだ。そう簡単に、思いつきでうまくいかないものだと意気消沈していた。次のアイデアを考えていた。


 秘かな探偵事務所改革三日後、一通のメールが届いた。差出人は毛利静子であり、ホームページを見て連絡したことが書かれていた。


〉突然のご連絡で申し訳ありません。

〉私は長野県の***にある山荘で生活している毛利静子といいます。

〉山荘にはパソコンがなく、わけあって今は実家の埼玉県の***から

〉ご連絡されてもらっています。

〉伺ったところ、依頼内容にそぐわない内容になるかもしれませんが、

〉聞いて頂ければ光栄です。


 ケンジに報告する前に、住所を調べてみた。山荘と記載されては居たが、ネットの検索で引っかかったのは、大きな屋敷だった。人によっては西洋の城であると勘違いする程大きな建物だった。なぜ写真まで公開しているのかという疑問は置いておく。こうしてネットの情報網に存在するのは、十年前まで客の宿泊用施設として使用していたようだ。周辺地図には広大な山が広がっていて、人里離れた場所だった。


〉山荘では主人の毛利剛と私で暮らしています。

〉こんなことはいってしまうと問題ではありますが、寝たきりの義父もいます。

〉ある不治の病で、病院で介護しても状況は変わりません。

〉それに加え、以前からお客を宿泊させることもやめてしまい、主人は労働していない

〉ものですから、山荘を維持するだけでも大変な状態です。

〉本題ですが、そのような状況なのに、なぜ、『美辞麗句探偵事務所』様にご依頼した経緯を

〉御説明します。

〉山荘は元々寝たきりの義父、毛利元也名義のものです。

〉別荘として建てられて、最終的には主人の手に渡りました。

〉その頃から、主人の人が変わってしまい、山荘を私達だけの生活空間にした頃には、

〉親子が絶縁した悪状でした。悪いことはそれだけに留まらず、義母が亡くなり、

〉精神的なショックを受けた義父は寝たきりの状態になりました。

〉主人は少しでも空気の良い山荘で義父の介護をしたいという要望から、今に至っています。

〉私は主人の魂胆が見えているのです。義父はいくつかの土地を持っていますし、

〉相当な資産を持っている。でも遺産を誰に引き渡すかを義父は指定していません。

〉そこで主人は、長年の計画を立て、遺産を引き継ごうとしています。

〉主人はそれらの計画を潔白にし、遺産は自分のものであると証明するため、

〉来週の十月十日に、二泊の予定で、親戚一同を呼んで会食をします。

〉恐らくそこで争いが起こる予感がするのです。

〉私の口からこのような事を言ってはいけないのですが、

〉親戚一同も主人と変わりなく貪欲な人ばかりであり、すんなりと話が終わると思っていま

〉せん。そこに、第三者であり、秘密を厳守できる人物がどうしても必要であると判断し、

〉今回依頼させて頂きました。

〉部屋の方は用意させて頂きました。

〉主人も探偵さんが同席することを承諾しております。

〉御返事をお待ちしております。


 十月十日となれば、来週といっても四日後だ。義高は急いでケンジに連絡した。携帯電話で内容を説明してもケンジは急いだ様子もなく、どこかを車で走っていた。お金持ちからの依頼ならば、報酬も桁が違うのではないかという邪な考えを持ちつつ、自分のお陰で依頼が来たが誇らしく思っていた。


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毛利家全体図を更新しました。
又、登場人物を追加しましたので、下記サイトを参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2003
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