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城の王  作者: 京理義高
38/39

38.城の王


29


 金属バットを素ぶりして発生する、空気音のようなものが複数聞こえたかと思えば、黒服の持っていた銃が次々と地面に落ちて行った。黒服は手を抑え、一斉に武装した男たち七人が外壁を飛び越えて侵入し、取り押さえた。わずかな時間で、黒服達は地面にうつ伏せ状態となった。


「間に合ったようですね」


 根本の姿があった。背後から警察が駆け付け、取り押さえた黒服に手錠を掛けた。


「出てくるのが遅すぎる。隠れてないで、さっさと助けろ」


「いや〜急ぐと皆が撃たれていましたよ。タイミングを計っていたんです」


 死に直面したメンバーは、ケンジを除き皆で座り込んだ。義高は体に力が入らなくなっていて、他のメンバーも同じだった。菅野は大事な部分を抑えていて、失禁までしていた。


「どうせ服も乾いていないんだから、わからないだろ」


「そんな」


 泣き笑いだった。黒服達は無言のまま、搬送されていった。毛利静子は立ちつくしていた。


「あの方も、犯人の一員ですよね?」


 根本が訪ね、ケンジがもう少し時間をくれと言った。


「まずは救急車を呼んでくれないか? 病人がいるんだ」


「わかりました」

 場を離れ、無線で病院に連絡をし、住所を伝え、至急来るように要請していた。


 しばらくしてからケンジが口を開いた。


「危ないところでした。もう少しで毛利家の餌食になっても可笑しくなかった」


「あなたは、最後まで冷静だったのね」


 顔が歪み、頬がひきつっていた。


「はったりですよ。こうなることは賭けでしたから」


「あなた達には驚かされっぱなしだったわね」


 虚ろな目で言うと、躊躇いもなく黒服が持っていた銃を拾った。ケンジも別の銃を拾った。全員身構えたが、銃口は毛利静子本人のこめかみに付きつけられた。


「なんのまねですか?」


「これで、生きる目的を失ったわ。あなた達の勝利」


 銃声、思わず目を瞑った。


「まだ死ぬのは早いですよ」


「うっ……」


 一瞬の迷い、それが判断を鈍らせた。ケンジの発砲が早かった。弾が銃に命中していた。


「すいません、とっさだったので、ケガを負わせてしまったようだ。救急車を呼んでいますので、元也さんと一緒に乗ってください」


 毛利静子の耳のあたりから血が出ていた。


「聞こえていたら、聞いてください。あなたはこれから罪を償っていくんです。死んでいった者達の後追いはできません。死んで逃げるのも許されません」


 その言葉を聞き、義高は事件が起こる前に考えていたことを思い出した。――殺人犯は誰もが死刑になればいい。


 自分の考えは間違いだと改心した。


 それから、救急車が到着した。恐らく、毛利静子にとっては、永遠に匹敵する時間であったのだろう。担架に乗せられた毛利元也と一緒に運ばれていく姿は、五歳ぐらい上に見えていた。


 根本を残し、警察は屋敷内の捜索に当たった。


「でも、よく当たりましたね。銃とかやっていたんですか?」


 媚を売った様子の菅野は尋ねた。


「当たり前だ。アメリカで一度練習した経験がある」


「一度で」


 義高は流石自身過剰だなという言葉を飲んだ。


「警察が十人も揃って、人件費が勿体ないぞ」


「いやあ、ケンジさんが危険な目にあっているとのことなので、いつもより奮発しましたよ」


 日に焼けた根本はさわやかさを崩していなかった。


「よく来れくれましたね?」


 菅野が声を掛けた。


「大変だったけどね。来ようと思ったら、紙きれに『この先、洪水により渡橋が壊れています。迂回してください』なんて書かれていたもので」


「あのタクシー運転手、粋なことするな〜」


「しょんべん臭いセリフだな」


「ケンジさん、何か言いましたか?」


「別に。詳しい話は次の機会に。後は任せたぞ」


「御苦労さまでした!」


 耳に痛いぐらいの声を張り、根本は現場の捜査に向かった。


「ケンジかっこ良かったよ〜」


 ユキ子は縋りついた。頭を撫でられると、猫の鳴き声そのものを発しながら涙を流した。


「不死身ってのは、はったり過ぎなんじゃないの?」


 苦笑いの亜紀は、ケンジの背中をつついた。


「あれ? これって?」


 異物に触れた時の反応だった。


「防弾ジョッキだ。薄いからわからなかっただろう?」


「じゃあ、私に貸してくれたのはごっつい方で、撃たれてもこれに守られているから不死身とか言ってたの?」


「当たり前だ。根拠もなくはったりを言うわけない」


「なーんだぁ。たいし……」


 たいしたことなかったんだ、的冗談は、ケンジの鋭い眼光に阻まれていた。


「どうでもいいや。でもココだけの話、私が撃たれたのは明らかに静子さんが持っていた猟銃だし、ちょっと前に撃たれた総堂院栄太郎さんも同じでしょ? さっきは自分の手で殺人はしていないって自白していたけど、よくよく考えると、静子さんも殺人を犯しているんじゃないの?」


「それは、総堂院栄太郎さんが本当に死んでいれば、の話だ」


「ふぁい?」


 素っ頓狂な菅野は、ズボンに触れた手でケンジに掴みかかろうとし、見事に弾かれた。千鳥足で横転を持ちこたえると、


「死に際でいたんですよ! 本当に死んでいればってどういうことですか?」


 迫力とはかけ離れた怒りをあらわにしていた。


「もしもの推理だ。お前は脈も確かめずに死んだと断定している。素人以下の判断だ。これまでの経験上、素直にはいそうですかなんて言える筈がない」


「勘弁してくださいよ〜」


「まあ、お前の頼りない風貌のせいで、途中参加していたのにも関わらず、毛利家の連中はまったく警戒していなかったのも事実だな。おおよそお前が警察を呼んでいたなんて考えなかったのだろう。てか、才能かもな」

 

 口を尖らせるしかない菅野は、義高に耳打ちした。


――俺がいなければ、全員おだぶつだっただろ? 救世主なんだよ。


 緊張の糸が途切れ、めまいが襲ってきていた。警察が用意していた車が発進するまでの間、もう一度だけ毛利家の屋敷を見やる。不気味に佇んだ建物は、西洋の城を思わせた。


 この先、どれぐらい存在するのだろうか。


 所有者を失った城、取り壊す方も慎重になる。


 終焉を迎えても、圧倒的存在感を漂わせる。


 辺りの森を従えているかのようだ。


 城の王


 まぎれもなく、毛利家の屋敷が城の王だ。義高はそう思い、静かに目を瞑った。


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毛利家全体図を更新しました。
又、登場人物を追加しましたので、下記サイトを参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2003
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