34.女帝
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女は呼び出しを受けると、予期していたかのように応じた。心電図の電子音が規則正しい時間を刻んでいる。毛利元也の部屋に入り、作り笑いを浮かべる。一人は拳銃を手に持っていた。動かす度にカタカタと音を立てる。それで電子音の間隔が早まった。
「元也さんのいる場所で拳銃はしまって。失礼だわ」
毛利元也は寝息も立てていない。ただ、電子音が生きている証拠を具現化されているだけだった。持っている拳銃へ視線を移動させた。
「分かったようなことを。このごに及んで体裁飾ってもしょうがないでしょ」
悪戯っぽく、明るく振る舞う。拳銃を持っている女は、折りたたんだ紙きれを持っていた。近付いて、そっと渡した。
「今読んで」
耳元まで口を運び、息を吹きかけるように言った。あまりにも挑戦的かつ自身に満ちていたので、従うか迷った。
「あなたにとって、不利益ではないわ」
「拳銃を持っている人が言うセリフ?」
「私が常識ないことぐらいわかっているでしょ?」
毛利剛と体を合わせている写真をチラつかせた。女は身震いし、顔をしかめる。それでも身を引くことは無い。
「飲んでいるわね?」
「ふふ」
女は、不適な笑みをたたえた。それは、小悪魔的でもあった。
「これは……」
最近書かれていたもののようでもあり、随分前に書かれたもののようでもあった。動揺が冷静な判断を鈍らせた。
「こんなもの、これがどうしたというの?」
言いながらも、読み返していた。次の瞬間燃やされても、頭に刻むようゆっくりと。目を離すまで待った。
「あなたも理解しているはずよ」
「さあ、わからないわ」
毛利元也が眠っているベットの下に、ネックレスと凶器があると指摘した。
「監視していたのね?」
「気が付いているとばかりに思っていたんだけど、はずれなの?」
拳銃の先を床に置く。PDA端末を取り出し、女に見せた。部屋の三分の一が写っている画像が画面にあった。
「元也さんの容体を観察する為に使っていたんだけどね」
窓の前で対峙した。お互い、一歩も引かなかった。
「頭が悪いみたいね。撃っちゃおうかしら」
「出来るはずないわ」
あざ笑うかのように反論した。
「試してみる?」
女は小型銃を構えた。もう一人の女は、とっさに銃を取り出す。
発砲音、片方の女の手から、銃が落ちた。
「ねえ? 本気だったでしょ?」
微量の血。女は二階のバルコニーでドサッという音を立てた。残った女は、紙を真っ二つに破り、監視カメラの位置をずらした。