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城の王  作者: 京理義高
33/39

33.時すでに遅し


25


 ケンジ達は、サラ子の部屋の鍵を開けた。外開きのドアを開け、一旦身を隠した。誰もいないのを確認し、中に入ると、客間と変わらずまったくの生活感がない部屋が広がった。菅野は興奮しているようだったが、殺風景を見て落胆していた。


「女性の部屋なんだから、少しは遠慮したら?」


 引き出しから取り掛かったケンジを見て、義高も捜索に加わる。


「そうも言ってられないだろ」


 菅野はハードボイルド風に言った。


「あんたはエロいだけ」


「違うっての」


 間抜けな漫才師に変わった。


「これは」


 クローゼットに格納されていたメイド服からケンジは見つけたのは、真空パックされていたであろう小型銃だった。


「亜紀が撃たれた銃はこれか?」


「うーん、もっと狩猟に使うような長い銃だったかも」


「総堂院栄太郎が撃たれたのはこれか?」


 まじまじと見つめた菅野は、手に取ろうとしてから引っ込めた。


「うーん、ってわかりませんよ。わかるわけないじゃないですか」


「だろうな」


「だろうなって……確認するタイミングなかってんですよ」


「これでは殺せないからな」


 ケンジはそう言うと、取り出そうとした。手持ちの手袋があれば、試し撃ちをしそうな勢いもあったのだが、指紋検査のために、手を触れず胸にしまい込んだ。


 コンという音がした。ドアからだった。入口付近で見守っていた女性陣は、その音で身ぶるいして見合った。


「今、音がしたよね? この部屋だよね?」


 亜紀が自分の体を抱きながら問う。


「それっぽい」


「ねえ、誰か来て」


 壁の沁みがないかを捜索をしていた義高はちょうど目が合い、ドアを開けてみた。鍵がかかっていないても、開かなくなっていた。力の加減を調整し、三回試みたが、結果は同じだった。


「これぐらいか。じゃあ、毛利剛の部屋に行くぞ」


「それが、あの……」


 ケンジはドアに突っかけるものを仕込まれたと推測した。


「全然動きませんよね? どうしますか?」  


「義高と菅野は、どっちが運動神経あるか?」


 聞いた菅野は、水を得た魚のように、ケンジのところへと歩み寄った。


「俺ですよ。大学でやった体力テストは、俺の方が高かったので」 


「わかった」


 そう言うと、ベットシーツを丸めるよう指示され、窓から垂らした。


「布団を乾すなら、もっといい場所がありませんか」


 ボケ狙いではなく、義高は聞いた。


「これを伝って下に降りるんだ。ユキ子達の部屋に降りられる。後は外から突っかけを外してこい」


「マジっすか?」


「遊んでいる場合じゃないんだ」


 脅えた菅野に、運動能力が高い方がやるべきたと威圧した。


「部屋の物さわんないでよ」


 亜紀が不機嫌に言った。


「さわったら分かるんだからね。バックを探ったりしたら殺すよ」


 ユキ子はそう言うと、顔を歪ませた。


 ケンジは手伝わず、義高だけで支えることになった。ベットシーツが震え、ある程度の高さでジャンプしたら、くじいたらしい。


「うお。足に電流が走った!」


「早くするんだ」


 いつまでもその場を動こうとしないので、ケンジはげきを飛ばした。


 菅野はドアストッパーを持って現れた。けっこう頑丈に付けられていたので、取るのが大変でしたという苦労話を無視し、毛利剛の部屋を訪れた。その部屋だけ光を遮断するガラス戸だったので、ぼんやりとしか部屋の様子を伺えなかった。


「間に合わなかったか……」

 ケンジの呟きが部屋中を満たす。ドア近くにあったスイッチをONにし、冷たい光が立ち込めると、一人の人間が現れた。


 毛利剛はうつ伏せのままベットに倒れていた。上半身裸で、下半身は布団で隠されている。壁とは反対方向を向き、つまり義高達にも顔が見える角度だった。見開いた目は躍動感があり、断末魔を迎えたように見える。変色した舌をむき出しである。脈を取り、振り返らずに首を横に振った。女性陣は入口付近で待っているよう指示し、布団をのけた。下着も履いていなかった。そこまで見る限り、外傷と呼べるものは無い。遺体には触れずのままだった。


 義高が犯人だと決めつけていた男がそこにいた。


 毛利剛の口から吐かれたと思われる、シーツには赤い沁みがった。


「血ではありませんよね?」


 色素は血よりも薄かった。ケンジは鼻を寄せる。


「赤ワインだ。にしても、倒れた時に吐いたものであれば、沁みの付き方がおかしい」


 円形の沁みに、細やかな沁みが回りへと点在していた。ある程度の高さから、ゆっくり垂らして出来る沁みの形だった。毒殺であれば、優雅に吐くなんてありえない。ケンジは死んだ後に、わざとワインを掛けたと推理した。それを決定付けたのは、毛利剛の額にも、わずかながらワインの跡があった。


 ケンジは立ちつくした。


「も、もっと調べないのですか?」


 恐る恐る菅野がしゃべった。


「唇に残っているルージュ、これはサラ子さんのものだ。おおよそ、俺達が駆けつける前に、最後のセックスでもするつもりだったのだろう」


 ユキ子は顔を赤らめた。


 ティッシュケースの前にあるコンドームの包みが開封されている。毛利静子の話が本当であれば、最後の瞬間に夫婦の営みを行うのは不自然である。さらに、ケンジは残り香でサラ子であると悟った。微妙な匂い、義高と菅野にはわからなかった。


「だからモテないんだよ」


「関係ないような、あるような」 


 冗談を言っている素振りではなかった。その裏にある、調査への甘さを指摘されているようで、二人は言葉を失った。


 義高は苦し紛れに、ティッシュケースの下にあった白い紙の書き置きを取った。食事の時、毛利剛が披露した内容と変わりはない。こっそりとポケットに忍ばせた。


 発砲音、隣の部屋からだという推測は付いた。部屋の前で歩みを鈍らせたのは、相手が銃を持っているからだった。

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毛利家全体図を更新しました。
又、登場人物を追加しましたので、下記サイトを参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2003
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