32.万破ファシズム
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下の階から聞こえてくる話声を聞いて、男はしくじったなと他人事のように考えていた。
仲間同士の結束を羨む心は、かなり昔に置いてきていた。学校のあるそばで学生同士がふざけ合う姿に感情の揺れは無い。
若者は変なプライドがこびりついていないので、集団で行動することに抵抗がない。むしろそれを良しとする傾向がある。或る種、この場をわきまえている。争いにおいて、力を持たない物が数で勝負するのは、彼らにとって最良の策だからだ。だが、もう小細工で始末していくのにも飽き始めていた。地味に殺していったところで手ごたえがない。
集団で行動する特性に備えても計画済みだった。今度は個々で行動されると逆に面倒になる計画だった。その計画は保険として考えていて、気が乗らない。
男はある時を境に、完全犯罪の遂行を軌道修正した。隔離された屋敷とは言え、せまい国土である。行方不明となった人物の関係者が、怪しんで警察に通報するだろう。場所はもう特定されている。屋敷を家宅捜索すれば、遺体は転がっている。死んだ者と生存者のリストを作るぐらい朝飯前のはずである。
部屋に備え付けてあった冷蔵庫から飲みかけだった年代物のワインを取り出し、そのまま水のように飲んだ。心地よい酔いで、男の気分が持ち上がっていく。
万破の力に頼るしかない。
レールに沿って、接着剤を塗り。雨戸を閉める。光が遮断される。
葉巻を吸い終える前に、ノックもせずに入ってきた女を招きいれた。女は拳銃を持っていた。ベットに座るよう指示し、しゃべらすわけでもなくメモ紙に状況を報告させる。女もわきまえている。下の階から外を出る音が聞こえてきた。
――施錠の準備は整いました
――時間は?
女は腕時計を確認した後、
――一時間弱です
――到着は?
――その三十分後になります
深く頷いた。女はさり気なく、テーブルの上に乗っていたネックレスと凶器を回収した。
――すべてが終わったら、顔も変え、名前を変え、遠くへいこう
――どこへ連れてってくれるのですか?
――それは、終わってからのお楽しみだ。今よりも贅沢な暮しが出来るところだ
――ありがとうございます
ワイン含み、口うつしした。女は表情を変えないで服を脱ぎだした。それに応じ、男も脱いでいく。女が下着姿になった時、男は自然と体重をあずけた。