31.すべての若き者
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ドアを開けた時、亜紀の第一声がもう来迎えに来たの? だった。
「はぁい?」
三人揃って立ちつくした。緊迫した空気で、別ベクトルの風がそよいだ。
「だって、ケンジがそう言っていたからさ。早く入って」
ベットはシーツまで綺麗に整っていた。開いた窓のおかけで涼しく、菅野は身震いしていた。
「あれ、ちょっと見ない間に、ふとった?」
「これでしょ?」
そういうと、亜紀は上着を脱ぎ防弾ジョッキを見せた。男性陣の視線が集中し、バスルームで着替えを済ませて来た。
ケンジが起きてからの話は、部屋に入ってから聞いた。毛利元也は大正の生まれで、その時代は誰しもが堅実であるイメージが崩れるきっかけでもあった。義高は、恋愛にオープンとなった今の時代に、彼女もいない自分が悲しくなった。がそれも長続きせず、毛利家の隠された過去、毛利剛さえも知らない秘密を聞き、渦巻いたどす黒いものに嫌悪した。少なからず、殺し合いがどうして起こるのかが理解できるようになりつつあった。犯人像は特定できた。後は証拠だった。
「ひでえ話だな」
菅野の発言に対し、亜紀は首をかしげた。
「あれ、誰だっけ?」
「お前もかい!」
くい気味の突っ込みだった。
「とにかくさ、ケンジさんを探しに行こう」
先ほどの場面を再現したくなかった義高は割り込んだ。
「早く行こう。相手は銃を持っているんだし」
ユキ子も便乗してきた。
「四人いれば怖くない」
「皆して、ハブかい」
ゲンナリした菅野を最後に、206号室を出た。
目指すは毛利元也の部屋だった。ケンジは屋敷全体の鍵を持っている。とすれば真っ先に訪れる場所だ。ノックしても反応がなく、声をかけても無駄だった。捜査をしてきて無遠慮になった菅野は施錠を確かめ、
「開かないぞ」
と言った。ドアに耳をつけた亜紀は、物音を聞けなかった。
「まだきていないってことかな?」
義高は非常階段側の壁で耳を澄ませた。確かに静かだった。人の気配さえ感じさせない静寂だった。
「どこにいるんだろうね?」
ケンジのありがちな行動と言えば、やはり直接話を伺うといったものだった。同じように各部屋を順番に回った。ドアから聞こえてくる物音を聞いてみるが、ケンジがいる気配がない。
「証拠を探すために、現場を辿っているかもしれない」
そう言って向かったのは総堂院栄太郎の遺体がある現場だった。女性陣は及び腰だったものの、置いて行くわけにはいかないので、何とか説得した。二階を通り過ぎ、一階への階段を折り返した時、入口で何やら作業をしている金髪の男が居た。
「ケンジだ!」
ヒールの底で床に穴をあけるのではないかと心配になる走り方だった。もちろん足音もすさまじい。
「よかった無事で! いつも一人で抱え込んじゃうんだから」
「ああん?」
ちらっと振り返っただけで、入口のドアを開閉した。
「何をやっているんですか?」
義高が聞き、四人の方を向いた。
「空気の循環だ」
「はあ」
あっけにとられ、今度は亜紀になんで死んだふりをしていないのかと問うた。
「それは……でも皆心配して来たんだよ」
「ふーん」
目線は菅野のところで止まり、
「あれ、お前もきていたんだっけ? あいかわらず存在感がないんだな〜」
「違いますよ。助けに来たんですぅ」
「まじで!」
ギャル男がするようなリアクションを取った。
「ちゃんと教えてくださいよ。入口のドアで何していたんですか?」
「面倒くせえな」
客間、プレールーム、食堂、大浴場に至るまで、すべてのドアが閉まっていたので気になったという。お手洗いと大浴場の換気窓に関しては、接着剤で固められていて、開かない状態となっており、ケンジはそれらの脱出経路をすべて開けてまわっていたのだ。
「来た時、大浴場は開いていましたけどね」
「だから? その後に閉めただけだ」
「そうですけど……」
「まあいい、このドアを良く見てみろ。わかったことを報告してみろ」
指名された義高は、鍵穴の形状を確認し、ドアノブを触った。
「開かない」
「しょうもないことを言うな」
「あ、つまり、さっきケンジさんが鍵を閉めないでおいても、勝手に鍵がかかると」
「そうだ」
「待ってよ。私達が雨の中、散策したときはちゃんと開いてたじゃない?」
「そうだね」
「だから? その後に鍵の形状を変えただけだろう」
「すごい技術ですね」
「感心している場合か。もっと視野を広げるんだな」
「もしかしたら、僕達を閉じ込めて、なにかを企んでいるのかも」
「まあそうだな。閉じ込めておいて時間を稼ぐが正解だろう。そのなにかもわかったようなもんだろう」
四者四様の体勢をとって考えた。思いつきにある程度見切りを付けた義高は、得てきた情報を水平展開した。
「俺達に時間はあまりない」