30.救世主登場?
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爆発の衝撃は思った程大きくは無かった。爆発後も、しばらく二人して抱き合うようにしていた。
「助かったんだ?」
ユキ子の問いかけに頷くと、廊下に出た。ドアには多数の窪みができていて、吹き飛ばすまでは至らなかった。だが、突出していたドアノブが吹き飛んでいた。これは内側からだと鍵でも開かなくなったことを意味していた。ドアと壁を繋いた金属が中にめり込んでいる。下手をすると、外側からも開かない状況にもなりえている。
周りに燃焼物がなかったので、壁と床に火が転移せず、焦げた跡があった。小規模の爆発なのにもかかわらず、左右の壁と天井に亀裂が入っていた。たまたま設置の仕方で、爆発エネルギーが上に向かったのだと結論付けた。
「ちょっと待って! まだ時計の音きこえない?」
時限爆弾だった箱が正体を現した。爆発したのは上部の五分の一程度であり、残りは鉄製の箱と、バラバラになった基板が存在した。そのせいで爆発が上に力を持っていたのだ。
時計の音はその箱から聞こえてきた。
「また爆弾だよ!」
「ちがうよ」
顎に手を置いた。
「これは爆弾じゃない」
「なんでよ?」
「だって、爆弾の中に爆弾っておかしいでしょ。それなら、二つ合わせてドカンとやるはず。それに、さっきの爆発でビクともしない鉄の箱なんだ。この中に時限爆弾を設置しても、たいして威力は発揮できないと思うし」
「本当に?」
あくまで推理だった。証明するため、箱に手をかけてみると、ふたには鍵もなかった。窪んている部分に指を忍ばせ、力を込める。中にはデジタル時計と通信機器があった。壊していいものなのか、義高には判断できなかった。
「放っておこう。まずは脱出を考えよう」
ユキ子は素直に従った。義高は何とか壊せないかなと考案えた。ドアではなく、天井をだ。頭の上に電球が灯ったかのごとく、倉庫から槍を持ってきて、天井をつついた。破片が落ち、粉を拭きながら、やがて一階のプレールームが見えるまでになった。明かりは外に出た時からつけっぱなしになっている。マンホールほどの穴を確保し、義高の腕の筋肉は悲鳴を上げた。
「こんなものか」
つぶやいた。幸い、プレールームに物が置かれている場所ではなかった。
「で、次は?」
「紐をつかってだな? あっ」
紐を使っても、一階に引っかけるものがない……
「フリーズしないでよ」
万策尽きたかのように、力を失い、義高は青向けになった。
「考えていなかったのね?」
「は、はい」
虚ろな目で見上げていた。可哀そうになったのか、
「まあ、ここから叫べば、さっきよりは聞こえるよ」
リアクションも取れずにいると、ユキ子は金切り声をあげた。鼓膜への負担が大きく、耳をふさいだ。
「ぎゃあああああ! はあ疲れた〜」
あきらめた様子を見て、耳を解放したその時、ドアが開く音が聞こえてきた。
「あれ?」
「しっ」
ユキ子の唇に人差し指を当てた。二人は逃げられる体制で耳を済ませた。
「誰かいますか?」
小さな声が聞こえてきた。
「ん? 聞き覚えあるぞ」
「まじ、だれ?」
思い出す余裕もなく、近付いてくる足音を聞いた。プレールームから顔を見せたのは、「
菅野だった。
「おお!」
「おお!」
お互い指をさしながら唸った。
「見つけた!」
「てか、菅野がなんでここに居るの?」
乾き切っていない衣服をまとった菅野は、助けにくるのがどれだけ大変だったかを語った。愚痴がなければ、本当の救世主だと思い込んでいた。
「じゃあ、待っていれば根本さんも来るんだ!」
「ああ、それまでに解決しちゃうかもしれないけどな」
「ねえ、菅野とか根本って誰だっけ?」
「おい」
渋い表情になった菅野の時間は止まった。まさか本当に説明する必要があるとは思わず、雑に紹介した。
「あっ、ごめん」
「もういいよ」
「すねないで。僕達の救世主だよ。待ってて」
軽やかな足取りで紐を取ってきた。
「これで、僕達を引っ張りあげてくれよ」
力不足で落ちそうになりながらも、二人はやっとの思いで地上に辿りついた。息苦しそうな菅野は、深呼吸し、
「やばいことになっているみたいだな?」
義高は頷いた。
「来る時に誰か会ったのか?」
「総堂院とかいうおっちゃんに会ったよ。生前のな」
「生前?」
「俺の目の前で死んだ。撃たれて殺されたんだ」
「殺された!?」
血の毛が引いていく思いをした。ユキ子も同様だった。自分が地下室に閉じ込められている間にも、争いは迅速に進んでいるのかと思い、頭を垂れた。
「誰に撃たれたの?」
聞いたのはユキ子だった。ピンク色のワンピースがまぶしく感じる。
「話してもらう前に……死んだ」
「マジかよ……」
「なあ、今まで何があったのか教えてくれよ。ケンジさんは? 亜紀は? 他の皆は?」
一息入れてから死んでないよなと付け加えた。
「話は後だ。わけあって、今はケンジさん達と別行動を取っている。合流した時にくわしく話すよ」
「生きているんだな? わかった」
三人で恐る恐る部屋を出た。こうなってくると、インテリアと化した鎧さえ警戒が必要だった。ユキ子のヒールで忍び足を中断し、足早に206号室を目指した。