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城の王  作者: 京理義高
26/39

26.虚言

 206号室に集まった。ケンジは気持ちの良さそうな寝息を立てていた。義高は自室から着替えを持ってきて、バスルームでシャワーを浴びた。


「もう出てきなの?」


「安心していられないからね」


「きっちり洗ったのかな」


「洗ったっつうの」


「しっ、大きな声ださないで」

 

 やりとりが聞こえていたのか、ケンジは唸りながら寝返りを打った。


「考えていたんだけどさ。まだ調べていない場所があるなと思ってさ」


「これから調べたいって話?」


「うん、地下室と、それから毛利元也さんの部屋なんだけどさ」


 それを聞いた二人は揃って顔をしかめた。


「寝たきりの人がいるのに、調べるのってやばくない?」


「わかっているけどさ。しょうがないだろ」


 半ば強引に納得されられたユキ子は次を待っていた。


「だから、定案があるんだけど。ケンジさんに付き添うため、一人は残って、もう一人は僕と探索しれくれないかな?」


「え〜」


 綺麗なハミングだった。心折し得るには充分なものだった。


「頼むよ」


「じゃあ、今度はユキ子がいってよ」


「マジで言ってんの」


「だって、私さっき、やったもん」


 その調子でしばらく続いた。傍にいるケンジが可哀そうになりつつ、やる気がうせているユキ子を連れ、206号室を出た。


 ユキ子は着替えをしていたのだが、ワンピースの形が変わっただけで、ピンク色は変わらなかった。屋敷内、特に廊下は全体的に薄暗く、状況が薄暗らさに拍車をかけていた。そんな中、ピンク色の衣服は視覚として和ませる効果を持っていた。


 最初に目指したのは地下室だった。毛利静子がナーバスになる理由が必ずあると確信していたからだ。


「いい加減なのが嫌いなんじゃないの? さっきの様子からしても、かなり神経質そうだったじゃん」


「どこに隠れているのかはわからないからね」


 胸の内を見せず、抑えめだった。地下室が怖いのかを訪ねると、


「怖くないから」


 強がり方が、如何にも図星を付かれた様子だった。


 義高達は二階のバルコニーに出て、足を止めた。薄くなった雲から日が漏れていたからだ。それでも充分明るく、目がくらむ程だった。木々の葉に付着した雨水が乾き、風に乗って香りを運んでくる。その微量な香りは鎮静作用があった。


「こうしてみると、殺人事件が起こっている場所にはみえないよね」


「そうだね。普通に泊まりたいよ」


 いい感じのムードになるわけでもなく、ユキ子は早々と非常階段に向かい、義高はそれを追った。ユキ子の履いているヒールが響いた。義高はこの後に及んでもファッションに気を使う目の前の女性に感服していた。


 目で合図され、義高がドアを開けることになった。開けっぱなしになっていて、薄明かりも付いていた。暗さに目が慣れてないせいで足取りは重かった。振り返り、ドアの形状は内鍵もないことに気が付いた。つまり、鍵を持っていなければ、外からも内からも、閉められないし開けられない。この屋敷きにはない形状だった。ユキ子は耐えきれず、義高の腕に絡んできた。胸が腕を圧迫し、鼓動が高鳴った。


「やっぱ、やめよう……」


 上目使いで訴えてきた。


「……あきらめるわけには、いかないよ」


 まったく頼りない二人は倉庫の前に立った。義高はドアノブを掴み、唾を飲む。ユキ子は中を見ないよう、視線をそらしていた。


 鈍い音がしただけであった。隙間から施錠の印を確認することはできない。それ程隙間ないドアだった。疲労のせいで、低下した握力に苦笑いした。


「もう、いいよね?」


 そう言ったユキ子が戻ろうとした矢先、管理室からブォンという音がし、


「いや!」


 悲鳴を上げ、抱きついてきた。ブォンよりも悲鳴に驚いた義高は、思わぬ展開にほほ笑みそうになった。


「なんの音?」


 脅えきったユキ子に、音は管理室から来たもので、恐らく加熱している音だろうと説明した。その間、もの凄いスピートで体を離し、


「勘違いしないでよ」


 ものすごい冷静に言われた。


「わかっているよ……」 


「ねえ、また音しない?」 


「どうだろう」

 管理室からの音は落ち着いていた。しかし、今度は階段を登る、あるいは下っている足音が聞こえてきた。


「本当だ」


 しばらく耳を澄ます。すぐに階段を下っているという結論が出た。しかも足音は止まず、コツコツと近ずついてくる。足音からして、ゴム素材の靴底ではありえないものだった。そうなると……ほぼ全員が当てはまる。


「やばいよ、来る」


「うん、とにかく隠れよう」


 真っ先に目に付いた管理室のドアを開けようとした。が、鍵がかかっていた。


「なんで」


 そこで、非常口からのドアが開いた。現れたのはサラ子だった。懐中電灯を義高達めがけて照らし、はっと声を挙げた。


「どうかしましたか?」


 一番安全であろうと踏んでいたお手伝いさんを見て、胸をなで下ろした義高は、お互い歩み寄っている間に調査していることを話し始めた。


「倉庫が見たいのですね」


「はい、それはそうと、サラ子さんは何しにきたんですか?」


「私は鍵を閉め忘れていないかを確認しに来たんですけど、やはり入口が空いていたみたいでして。他の部屋も確認しようと思いまして」


「今、確かめてみましたけど、ボイラー室も倉庫も閉まっていましたよ」


「そうですか」


 違和感があった。おもてなしの仕草を見ている限り、おおよそそのようなミスを犯すタイプには見えない。仮に、ボイラー室の鍵が閉まっていたのであれば、さっき来た時からもう一度足を運んでいるはずだ。


「気持ちが浮ついているようで、これでは怒られてしまいますね……」


「いえ、誰だってそうなりますよ」


 いくら連続殺人が起こっているにしても、ドジの踏み方がおかしい。嫌、連続殺人が起こっているからこそ可笑しい。悠長に一人で出回っていられる精神は、どこかずれている。これは余裕なのではないか、義高はそう考察した。


「ありがとうございます。お望みどおり、鍵を御開けしますので、少々お待ちください」


 そう言いながら、倉庫の前まで行った。ズン、鈍い音がしてドアを内側へ開けた。


「うっ……」


 眉をしかめ、鼻と口を覆ったサラ子は、直にドアを閉めた。説明がなくとも、その真意を理解した。ドアが開いたわずかな時間で発生した、濃厚な腐敗臭だった。空間を遮断したのにもかかわらず、際限なく漂ってくる悪臭に、ユキ子は腰を抜かした。義高は起こそうと試みたが、無駄だった。しばらくそのままにしておこうと決め、サラ子に何を見たのかを聞いた。が、聞くまでもなく、遺体を目にしていた。目に付いた状況だけでも、毛利薫の首のない状態の遺体と、


「毛利直哉さんの遺体もありました……そして、あの焼け焦げた遺体は……」


 総堂院幸子、それしかない。


「なんですって!」


「知らせに行ってきます!」


 誰に知らせるのかも言わず、駈け出した。


「ちょ、待ってください」


 わけも分からずポカンとした二人、逆らわずにじっとしていた。


 ドアが閉まり、外から鍵を掛ける音が響いた。完全なる密室の誕生だった。


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毛利家全体図を更新しました。
又、登場人物を追加しましたので、下記サイトを参考にしてください。
http://plaza.rakuten.co.jp/kyouriyoshi/2003
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