表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

ああ無情、古城ろっくの最期。

 台風によって壊れた風車の羽のように、危険な様相で魔王(ゆうき)に迫るかなみ。その姿は、巨大なハンドスピナー。そして、かなみを迎え撃つために、千切れた触手を再生し始めるも間に合わない魔王(ゆうき)……その8本の触手は、あっという間に根本から全て切り落とされ、デーモンマートの駐車場にごろごろと転がり、のたくっていた。銀色の体液が、ビュービューと音を立てながら辺りを汚す。その原油のような臭気に、かなみの回転が止まった。


「やだ臭い、お風呂入りたい……そうだ」


 かなみは、マーメイドのオブジェが付いた香水瓶を胸元から取り出し、シュッと髪に吹きかけた。


「リフレッシュできるわー、ANNA SUIのFANTASIA MERMAID」


 満足そうに微笑み、そして再び、回転し始める。……香水と原油の不協和音(さいあくなくみあわせ)。かなみの回転は、再び止まった。


「ねえ、裕子さん。あなた、久々に昔の彼と会ったっていうのに、もうちょっと気を遣えないの? それとも、昔の男なんか、どうでもいいの?」


 かなみの質問(ちょくげき)に対し


「木場さんとは、一線を越えた事は無いのよ、一度も。……信じないんでしょ。だけど、本当なの。あの日だって、そう。潰れたのを、回復する(なめる)だけ。いつだって……私、我慢出来なくて……あの日、木場さんとの約束、すっぽかしたの。そして……」


 かなみは、耳を塞いで叫んだ。


「言わないで! 裕子さん、あの子供の父親が誰かなんて、聞きたくない!」

「いいえ言わせて。あの子は、坂田さんの子なのよ」

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「木場さん、ごめんなさい。だけど、あなたも悪いの。いくじなし……私の事、本当に好きだったの?」

「好きだった! 誰よりも! もしかしたら、自分よりも好きだった!」

「だったらどうして」

「好きすぎて!」

「……いくじなし」


 魔王(ゆうき)は、流れる血によってその力を失い、ぐにゃりと倒れ……その体を、抱きとめるかなみ。


「それにしても、何で私、女になっちゃったんだろう」


 かなみは、静かに泣いた。そして、思い出したようにそっと呟いた。


「舐められたくて、潰したからかなあ」


 魔王(ゆうき)は、朦朧とした表情で


「しょうがない人ね」


 そう言い終わるや、眠るように、目を閉じた。


「裕子……? ゆうき……? ねえ、起きて……ねえ」


 魔王(ゆうき)は答えない。そしてその体は、ただの配達員「古田ゆうき」だった。ゆうきになぜ、裕子の心が乗り移っていたのか、そして裕子の子供は今どうしているのか。あらゆる疑問がかなみの脳裏を巡り、そして……かなみは、ゆうきの亡骸を抱きながら、空へと昇って行った。その姿は、一角獣(ユニコーン)。いわゆる流行の「夢かわいい」キャラだ。そう、かなみさんは、可愛いものが大好きなのだ……



「何か、すげーどうでもいい最期だったな」



 神谷ネコ丸が、きの子と孝子を両腕に抱きかかえながら、ショートホープの煙を吐き出した。


「ピンクドンペリって、ネコさんのお店で飲んだら、おいくら万円なのさ」

「きの子さん、5万円だよ」

「高いわね」

「きの子さん、そんなもんだよ」

「孝子さん、そんなもんかね」

「サービスしますよ、お二人さん」

「行くべ」

「行くべ」


 こうして、神谷ネコ丸は新たな顧客を獲得し、街には再び平安が取り戻されたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ