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犯行声明! お店がメチャメチャに!

 ゆうきは、「デビル運送」の配達員だ。デーモングループに買収された「ヤマネコ運送」に勤めだしてから、8年目の。デーモングループ傘下のコンビニ「デーモンマート」は、元は「ハッピーマート」だった。

 そんなわけで、その日はデーモングループの社員(スーパーバイザー)が、「西の新宿」と地元民からやや自虐的に呼ばれる地域にほど近い、とあるデーモンマートにやってきた。


「店長、これはどういう事ですか」

「いや、スミスさん。どうもこうも、私が聞きたいですよ……木場め」


 店内の食品は全て食べられており、床には、細い、タイヤの跡があった。そして、事務所の金庫は荒らされていたが、売り上げ等の現金はそのまま残されている。金庫の扉の内側には


「木場兇太郎よ、スピナーは貰った。返してほしくば、私と戦え」


 付箋に記された、犯行声明。そして、事務所の椅子には、ガムテープでぐるぐる巻きにされぐったりする、きの子。木場の姿は、無い。店長は、シフト表を見ながら


「スミスさん、木場は今日休みなんですよ。全く、金庫を私用に使うなってあれほど言っておいたのに。以前から彼は、大事なものをここに入れる癖がありまして。それだけが、彼のスタッフとしての、欠点ですよ全く」

「スピナーとは何ですか、店長」

「知りませんよ、彼とは20年の付き合いですが。気さくだが、秘密主義なところがありまして」

「そうですか。ところで、彼女に巻かれているテープを取らないと」

「ああ、そうですな。きの子さんは私を見るとロクなことを言わないから、このままでもいいと思いましたが。可哀そうだから助けましょう」


 びりびりびり、バリッ……ブチブチ。髪の毛までむしり取られたきの子は、苦痛で叫んだあと一気にまくしたてた。


「ちょっと店長! SVの前だからって気取らないでよ。いつも朝から、やらせろ、とかセクハラし放題じゃんよ。それよりもさ、木場さん、この前泣きながら飛び出してから電話にも出ないし。で、怒ったゆうきが、私の首を絞めて……たぶん、痴情のもつれだよ。とんでもない話だよ全く。私がさ、木場さんがどれだけ熟女が好きかっていう事を教えたらさ。逆上してさ……店はメチャメチャ。何かあの人、お菓子食べるたびに、大きくなってんのよ。え、ナニがって……店長、またセクハラして。やめてよね、こういう時に。体がさ、大きくなって……嘘じゃないってば、本当にさ……で、こう言ったのよ。……魔王・古城(ふるき)ろっくは、怒りによって本来の姿を取り戻した……そう言ってたわね、確か」


 古城ろっく。その名を聞いた途端、店長「池田」の顔は蒼白になり、そして膝から崩れ落ち、吐いた。


「ふ……古城ろっくだと? 何でアイツが! 俺が書いた”おっぱいの大きさでキャラを書き分けるのは、やらしいからやめてくださいっ! by女子高生・真由美” の感想欄で散々弄んでくれて……! おかげで俺は、筆を折る事に……春のBAN祭りで、下品作者(きにいらないやつ)を消す会の会員たちが、あらかた嫌いな(さくしゃ)を消したんで喜んでたっていうのに今さら!! 今さら、何で奴の名前が出てくるんだよ亡霊めぇ!!!」


 きの子は、そんな池田を冷めた目で見ながら


「あんた、あのくだらないエッセイの作者だったのかよ。おっさん臭がプンプンする、キモい文体でさ。何が女子高生だよ笑わせんな女子高生に謝れセクハラジジイが。もしもゆうきが古城ろっくなら、あたしゃ店長の味方はしないよ。だって、女子高生に悪いから」


 そう吐き捨てるようにまくしたてると、床に唾を吐いた。


「おい、店を汚すんじゃない! このへっぽこ店員め! すいませんねえ、きの子は怒ると柄が悪くなるんですよ」

「店長、この事は本部に伝えておきます」

「ああ、どうかそれだけはご勘弁を! 何でもしますから! どうか、なにとぞ、獄門島行きだけは平にご容赦を……」

「あなたが、小説投稿サイトで女子高生だと偽り、衆目の面前で……OPPAY……そういう単語を連発する快楽に(ふけ)っていたことは、甚だ遺憾です。そう、やめてくださいといいながら、実は……そういうの、好きだけど嫌いなんですよ。言いたいことがあるなら、はっきり言って欲しい。僕、直接殴り合うのが大好きなんですよね。特に、強い奴と。そして、殴り合った後、その強い腕に、抱かれたいから、強い奴には負けてもいい」

「ス……スミスさん?」

「スミスなんかじゃない」

「?!」


 スミスの体が、熟れたいちじくのように裂けた。そして、羽の生えた、黒衣に青い皮膚の、何かが姿を現し、こう叫んだ……


「そんな事はどうでもいから、チャリチャンを読んでくれ!!!!!」

「出た、ろっくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 池田は、断末魔の叫びとともに、失禁して気を失った。




 木場兇太郎は、店の外からその光景を見ていた。震えながら。


「なに、古城ろっくって。俺、なろう歴結構長いけど、聞いた事無いよ。ねえ、誰か教えてよ、俺の恋人の正体を」


 彼の手には、傷だらけの黄色いハンドスピナーと、注射器セットが握られていた。


 

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