表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

ステップ・ステップ・ステップ

 潰れたタマを蘇生させる技の詳細に関しては、木場兇太郎氏作「新世紀ハンドスピナー伝説~シャイニングスピナー☆エイジ~」内のエピソード「失われたキン〇マを救え!!」をお読みください。


 若干卑猥な表現がありますので、清純かつ純潔なる乙女(おとめ)ならびに乙男(オトメン)は、ご注意を。

「ねえ木場さん。いい加減にしてくれない?」


 侮蔑の視線を木場に向け、きの子はレジカウンター前のおでん台にアルコールスプレーを吹きかけて、ペーパータオルで拭きあげた。木場は、きの子を横目で見ながらも、その行為をやめない。


 ぱく、ほぐほぐほぐほぐ、もふっ、もふっ、ぐにゅぐにゅぐにゅ。木場は、デーモンマートに16時に出勤してから約20分の間、そうして大きな豆大福を二つ、()んでいた。いや、大福を一切傷つけずに、中の(あん)を回転させていたのだ。来客に対応しながら。


「木場さん、社長が今ここに来たら、あんた直ちにクビだよ。43でいきなり失業はしんどいよ。そうそう、木場さんが大好きな、熟女にもモテなくなるよ、女は年取ると超絶シビアになるから。そういえば私の2番目の旦那がヒモだったんだけどね。最悪だよ、暇な男は。私が仕事に出る時間帯になるとさ、決まって電話かけてくんの。食べてない、とかさ。他の人と会ってたらさ、電話かけてきて怒るのよ。「僕といても楽しくないの?」って。楽しいわけないじゃん、しんどいわ。もうさ、暇な男って、ろくでもないよね。ねえ木場さん、聞いてる?」

「……」


 木場は、大福の片方を天井高くまで放り上げた。


「あ! 何てことを!」


 きの子が、叫ぶ。そして――縦一閃の煌めき――空中の大福が、真ん中で少しズレる。木場の手のひらに着地した大福は、さっくり真っ二つに割れた。中のあんが、生地から離れ真ん丸に固まっていた。同じ行為を、もう一つの大福に試みる木場。果たしてあんは、楕円に固まっていた。


「やはりだめか。潰れたタマを蘇生させる技…… ゆうきはなぜ、どこで、どのようにあの技を……もしや、師匠の息子? いや、だとしたら……そんな馬鹿な! そんな事があってたまるか! そんな……」


 ロダン「考える人」のような姿勢でぶつぶつ言う木場に、常連客の理容師「孝子」が声をかけた。


「木場ちゃん、いいのあるよ」


 孝子は、腕に下げたFEILERのバッグから、注射器セットを取り出した。


「孝子さん、え、何してんですか、やめてください」

「きの子さん、あんた何か勘違いしてないかい? これはね、毛生え薬なのよ。頭皮に直接刺すのよ。痛いけど気持ちいわよあんた、うふふ」

「うふふじゃなくて。木場さん、確かにてっぺんがステップ気候っぽいけどさ。山火事ではないよ、まだ」

「あのね、きの子さん。あたしゃ、理容師歴55年だよ。お客さんの悩みに、寄り添ってきたんだよ。亡き夫が残した研究を引き継いで40年。ついに出来たんだよ、昨日やってた、歌声喫茶のカラオケ大会の後に。木場ちゃんは、いい被検体になりそうなんだよ、ほら、ご覧よ木場ちゃんの頭のてっぺんを」

「薄いです。禿げてます」

「薄いんだよ、でもね、禿げじゃないんだよ、細いんだよ。よく見たら、びっしり生えてんのよ、わかる?」

「薄いのは、禿げじゃないんですか」

「あたしは、禿げじゃないと思うね」

「私には、禿げにしか見えません」

「細いんだよ」

「そんなもんかなあ」

「そうよ」


 孝子ときの子は、男のすすり泣く声に驚き、そっと木場を見た。木場は、勢いよく孝子の手から注射器セットをひったくると、店を飛び出した。


「あーあ、私らがあんまりにも禿げ禿げいうからさ、木場さん泣いちゃったよ。私、初めて彼の頭髪の事話したかも」

「いいんだよ、明日にはフサフサだよ」

「だといいんですけどねー」


 孝子はお詫びにと、木場が脱ぎ捨てて行ったユニフォームを着て、きの子と一緒に店に立つのだった。するとどうだろう、他の常連客が、勘違いをし始めた。


「孝ちゃん、何だよ。再婚したのかよ、木場って奴と」

「そうよ~、朝倉さん。ごめんなさいね」


「おたかさん、どうしたのさ。木場さんにハマったのかい」

「うんうん、姥桜の狂い咲きだわね」

「おおいやだ、何てことだい」


(木場さん、明日何言われるんだろう、怖いなあ)

きの子が、大きなため息をついた。



その頃……ゆうきは、戦いに備えていた。ハンドスピナーの継承者を決める、決戦のために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ