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真夜中の訪問者

 なにがあったのかは、読者のご想像にお任せします。

 23時。準夜勤の女子大生に店を任せ、おでんとカップ酒を買いデーモンマートを退店し帰宅した木場兇太郎(43)は、油臭い服をはぎ取るように脱ぎすて、熱いシャワーで身を清めた。先月出て行った八重子が置いていった、モリンガの香りのボディバターを、全身に擦りこんでからタオル地のバスローブを羽織る。

 八重子は今、何してるのかな。そんな事を考えながら、冷蔵庫を開けビールに手を伸ばしたその時。インターホンの音が、自室と深夜の廊下に響く。


「誰だ、こんな時間に」


 木場は、玄関ドアの覗き窓から訪問者の姿を確認した。デビル運送の配達員だ。


「再配達が多いからなあ、こんな時間まで、運送屋さんも大変だ」


 少し穏やかな気分で、木場はドアを開けた。そこには、古田ゆうきが立っていた。


「木場さん、僕だよ」

「……こんな夜中に、ご苦労さん」

「お届け物です」


 ゆうきはそういい終わらないうちに、木場の胸に飛び込んだ。そして、木場の腕は、ゆうきの体を包み込むように、そのA4サイズに近い大きな手のひらは、そっとゆうきの背中を撫でた。


 部屋になだれ込む二人。ゆうきは仕事着にもかかわらず、ブルガリの、男の香りを漂わせている。やや、強すぎる香りが、木場を酔わせた。


「木場さん、一緒に飲みましょう」

「……そうだね、古田君」


 木場は急いで、テレビの前の座椅子型ソファから雑誌類を片付けた。


「こんなものしか無いけど」


 そう言って、テーブルの上にカップ酒一つと、おでんの容器を置き、ゆうきの反応を見る。ゆうきは微笑みながら


「いいですね、ひとつの酒を分け合うなんて」


 そう言って、カップ酒を一くち口に含むと、木場の口に、その酒を丁寧に流し込んだ。木場は、その一口を、さらにゆっくり味わい


「今度は、俺の番だ」


 そう言うと、恥じらって立とうとするゆうきの肩を掴み、やや乱暴に、酒を飲ませた。甘さと辛さが、舌で混ざり合う。


「疲れただろう、おでんも食べよう」


 木場の目は、酔いで充血している。ゆうきは、そんな木場を感じて体を熱くした。

(求められるって、いいもんだな)


 軽い夜食を食べ終えた二人は、お互いを貪るように求め合い、そして、夜が明けた。



(やっちまっただよ)

 木場は、乱れた室内にて、呆然とした。ゆうきの姿は無かった。嫌な予感がして、玄関ドアの鍵を確かめる。内側から施錠されており、チェーンがかかっていた。


「これは、密室の犯行じゃないのか?」


 木場は、ボケてはみたものの、どうにも釈然としない感情を拭いきれない。ゆうきは、どこから出て行ったのか。そして、彼は一体、何者なのか。どうして、師匠の技を使えるのか……あれは、傷ついた男を癒す、一子相伝の技……だとしたら、ゆうきは……


 ふと食卓を見ると、朝食が用意されていた。ソーセージを焼いたもの、クロワッサン、レタスのサラダ、そして……大きくて柔らかそうな、豆大福が二つ。


「ダイイング・メッセージか」


 木場の冗談で、笑う八重子はもういない。ただ、朝日と、静寂があるばかりだ。





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