BAN!
俺は今日も 何も変わっていないけど
このままじゃ世間に殺される
頭のでかい虫が湧く
燃やしてしまえ 目障りだ
振り払っても 振り払っても
まとわりつくぜ
飛べない虫は
大空ゆく機体を呪う
穴を開けて 燃料ぶちまけろ
臭うそいつに火を点けて
BAN
一気に畳みかけて
BAN
数なら負けない
BAN BAN BAN
撃ち落とせ
「よう、魔王さんよ。人間の男を弄んで楽しいか」
両腕に女たちをぶら下げ、自転車を壁に立てかけてヘルメットを装着するゆうきに近づく、若い男。
「ネコちゃん、誰この人」
「イケメンですね」
青い髪にシンプルな長袖のTシャツ。大きく開いた襟ぐりの胸元から、大きなケロイド状の傷跡が一閃。その引きつった皮膚を撫で続ける、まだ子供のような顔立ちの女。その様子を何事もないかのように眺めるのは、長い黒髪に眼鏡の、真面目そうな女……ゆうきは何気ない調子で、自転車を整備しながら話し始める。
「神谷さん、相変わらず。同伴ですか」
「プライベートやで」
「そうは見えないね。カラオケ代は誰が出してる。アイス代すら、出さないだろお前」
「出さないんじゃない、出させてくれんのや」
「ホストが」
「職業差別やで、あんた相変わらず口悪いな」
「お互い様」
にらみ合う、ゆうきと神谷ネコ丸。神谷の咥え煙草の灰が、風で散った。刹那――
神谷の鉤爪が、ゆうきの鼻すれすれの空気を引き裂いた。ゆうきは、その動きを予測していたかのように後ろに跳躍し、叫ぶ。
「僕の目を見ろ!」
女たちが、反射的にゆうきの言葉を確かめる。
「見るな!」
神谷の絶叫もむなしく、女たちはその場にへたり込んだ。
「ネコちゃん……何かおかしい」
「すいません先輩、私もです……何か、これって」
清純な少女と、清楚な若い女が、ゆうきの足元にまとわりつき、その手を絡ませながらゆうきの腿より上を愛撫し始めた。その、見るに堪えない光景にいら立つ神谷。
「色欲の魔王……存在自体が罪やな」
「何をおっしゃる、仲間じゃないか。お前も、ここにいちゃいけない存在だろう」
「俺は、あんたよりはマシだ。少なくとも、呼ばれて来てるからな。正当な方法で」
「僕は……そうだな。そろそろ、疲れてきてるんだ。一気に終わらせたいほどには」
「じゃあ、消えてくれ。巻き込むな、誰も」
「何の話だ」
「とぼけるな、木場って奴…… 魅了してどうする気や。ハンドスピナー使って、敵を駆逐するんかい」
「君は、本当の恋……愛をまだ知らない……お子ちゃまだよ」
「俺は男や」
「いや、男じゃない。子供だよ」
「死んでくれ」
「お前こそ、家に帰れ」
ゆうきは、目を閉じた。その背中から、螺鈿のような風合いの鱗がびっしりと並ぶ、翼が生え、広がる。
「ごきげんよう、余計な真似はしないでね坊や」
あっという間に地上を離れ、旋回しながら雲間に消えるゆうき……虚空を睨みつけ、嘆息と共に煙を吐き出す神谷。
「何を考えているんだか、あの人は」
デーモンマートの店内で、酔った客からおでんの汁だけをせがまれ困惑する木場を横目に、眠る女たちを担ごうとして尻もちをつく。
「ま、俺には関係無いがね、魔王が恋しようが、戦闘機で一斉射撃しようが、集中砲火を企てようが」
そう吐き捨てるように言うと、新しい煙草をケースから取り出し、のんびりと火を点けた。




