第七次 目玉焼き戦争
「しょうゆのがおいしいよ!」
「いや、そこはしおでしょ!」
朝から不毛な争いがまた始まった。
僕と妻は、パンとコーヒーを飲みながら、向かいに座る子供たちを見つめる。
彼らは『目玉焼きに何をかけるか』という戦争を繰り返している。
弟は醤油、兄は塩をかけるのが好きらしい。
朝食に目玉焼きが出ると、彼らは決まってけんかを始める。
実に平和なことだ。
が、少なくとも妻はそうは思っていないようで。
「ねぇ!お父さん、お母さんは、どっちがおいしいと思う?」
兄が聞く。弟は目で自分の味方をしてほしいと訴える。
さて、どうしたものか。
「あのさ。学校遅刻するよ?とりあえず食べたら?」
妻が笑顔で言った。もっとも、これに騙されてはいけない。目は据わっているのだ。
僕はどれだけこの笑顔に、惑わされてきたか。
踏んだ地雷は数知れずである。
子供たちは慌てて目玉焼きをかきこんだ。
そんなに急いでは、味も分からんだろう。
ばたばたとランドセルを背負い、学校へ行ってしまった。
「醤油か塩か、なんて、どっちでもいいじゃない。美味しく食べられたら」
妻は呆れて言った。同感だ。
むしろけんかをすることで、飯がまずくなる気すらする。
冷めた目玉焼きを見て、出来立てを食べてほしいと思う彼女は、きっと苛々しただろう。
人それぞれでいいじゃない。
食器を片付ける妻に、僕は尋ねた。
「ちなみに君は何をかけるの?」
彼女は迷わずこう答えた。
「ケチャップ。あなたは?」
「マヨネーズ」
「ふふ。私たち、全然ちがうね」
彼女は笑った。今度は怒っていない方の笑顔だ。
「じゃあ次は、マヨネーズをかけてみようかな?」
妻は僕の好きなものを否定しない。それは僕も同じ。
だってお互いが嬉しいなら、それでいいんだから。
皆、違って当たり前。
皆、違っていいじゃない。
『目玉焼きに何をかけるか』
子供たちの小さな戦争が終わりを迎えるのは、一体、いつになることやら。
はい!(挙手)私は醤油派です!皆さんは目玉焼きに何をかける派ですか?




