表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/98

味付き干し肉お披露目

オズ兄様に抱っこされながらグレイス商会の面々の(もと)へ。

野次馬根性を発揮した冒険者たちの壁を抜けると、三台の荷車に山と積まれた物資がまず目につく。

そしてその物資を下ろす商会メンバーと、王族メンバーやロランさんと話しているアーロンがいた。


ロランさんさっきまで従魔の方の現場にいたよね?

転移でもしたの?


「父上」

「来たか。オズ、リリィ」


オズ兄様の呼びかけに振り返るお父様。

そしてグレイス商会一行を指して一言。


「リリィ、これはお前だな?」


どうして何かあったら私の仕業(しわざ)にされるのか。

正解ですけどね!


「これもリリィちゃんかぁ……」


ロランさん、その生ぬるい目をやめてください!


「おや、いらっしゃいましたか、リリィ様」


にこやかなアーロンの声に、作業を中断してこちらに向き直り、頭を下げる商会メンバー。

彼らの正体は〈月影〉だから、私に対する律儀さは推して知るべし。


「作業を続けて」

「はっ」


時々騎士も顔負けの礼儀正しさを見せるからね、〈月影〉って。

こんな風に。


「えっと……テオ、これはどういう……?」


商会メンバーの態度に戸惑うロランさんがお父様に説明を求める。

ロランさん、相手を間違えてますよ。


「あー……すまない。私も詳しくは知らない」


ほら。


「グレイス商会の商会主はリリィ様。我々はみなリリィ様にお仕えする身です」

「……これまた、初耳だなぁ」


アーロンが簡潔に言うと、ロランさんがまた生暖かい目を向けてくる。

うん、グレイス商会のことはロランさんには言ってなかったね。


「アーロン」

「は、全て(とどこお)りなく」


さすがアーロン。


「ロランさん、グレイス商会から物資提供するよ」

「え、物資って……これ?」


三台の荷車から降ろされた荷物の中で一番多いのは、大きな樽。

ぱっと見ただけでは何か分からないだろう。


「そう。目玉になる物資はこの樽の中身。干し肉だよ」

「干し肉?」


怪訝そうなロランさん。


「ただの干し肉ではありませんぞ。どうぞ、食べてみてください」


アーロンが樽の中から干し肉を取り出し、ロランさんに渡す。

釈然としない顔のまま、渡された干し肉をかじるロランさん。


「こ、れは……」

「味付きの干し肉です」


アーロンが満面の笑みで種明かしする。


「リリィ様が考案なさいました」

「これを、リリィちゃんが?」


そうだよ!

ちょっとドヤッてみる。


「今までの干し肉、あんまり美味しくなかったから」


生肉をそのまま干したような感じだったんだよね。

たぶんだけど、”干す”という加工をするからそれ以上加工する必要はない、といったところかな?


「せっかく食べるなら、美味しい方がいいでしょう?」


それにね。


「もしかしたら、冒険者たちの生存率も上がるかもしれないし」

「え……?」

「長期間、魔物がたくさんいる森に潜るとするでしょう?」


たとえば、万年人手不足の深淵の森とか。


「そうすると常に周りに気を配らなけばいけないから、神経がだんだんすり減っていく」


もちろん、いつもと違う環境というのも結構なストレスだろう。


「そこに追い打ちのように美味しいとは言えない、食事が毎回やってくる」

「追い打ち……」


苦笑気味のロランさん。


「時々は狩ったり採取したものも食べるだろうけど、どちらにしろ凝った料理なんてできないでしょう?」


亜空間収納に放り込んでおけばオッケーな私たちと違って、ごく普通の冒険者は調味料なんて荷物になる物を持っていかないだろうし。


「うーん、まぁ、そうだね」


だから、必然的に味気ない食事になる。

そこでこの味付き干し肉!


「何度でも食べたくなる味を目指して色々工夫したの!」


主に生産担当の〈月影〉が。

言い訳しておくと、私も手伝ったからね!

執務の合間に!


で、結局何が言いたいかというと。


「冒険者に精神疲労は大敵! おいしいものを食べて、万全の状態で頑張りましょう!」


これにつきる。


冒険者はちょっとした不注意で命を落としかねない。

疲労が溜まればそのぶん注意力が下がり、危険性が増す。

しかも今は魔盛期の真っ只中。

まだなんとか捌ききれているから実感は薄いけど。

でもきっと今後激化していくだろうから、ここで冒険者たちを無駄に失いたくはない。


「なるほどね……。でも、冒険者の懐には優しくないんじゃないのかい?」

「んー、普通の干し肉の一割増くらいのお値段かな」


特製のたれに漬け込むだけだし、乾燥は魔術でパパッとやっちゃうし。


「利益は大丈夫?」

「うん、大丈夫。薄利多売、だよ!」


人件費は〈月影〉の生活費だけだから、実質かかってないし!

……いかん、字面だけだとブラック通り越してどす黒い。

みんな、もっとわがまま言っていいんだよ!


「でも、一番の理由としては、もともとグレイス商会は採算度外視だから、かな」

「え?」

「経済活動の安定化、需要と供給のかじ取りが目的でつくったの」


あと情報収集と〈月影〉の生活のため。

だから、最低限〈月影〉が暮らせるだけの物が手元に残っていればいい。


「本来は国でやらなくちゃいけないんだろうけど、ほら、知っての通りだから……」


新体制は叙爵式後からだし。


「それでね、ロランさん」

「うん、なんだい?」


ぺしぺしと味付き干し肉が詰まった樽をたたいてみせる。


「これね、いろんな食用の魔物肉なの」


今日持ってきたのは、そのうちのオーク肉。


「今は魔盛期。普段より素材の供給量も増えるよね」


つまりはお肉も増えるよね。


「素材の方はいろいろな使い道があるからいいけど、お肉はそうもいかないよね」


用途は、食べる、に絞られるから。


「つまり、供給過多で値崩れする。でもそこに保存のきく味付き干し肉という新たな需要が加われば、ある程度は持ちこたえられる!」

「でも、それだと今までの干し肉が売れなくなるかもよ? そうするともともと干し肉を扱っていた人たちが大変だ」


え?


「製造業者に味付き干し肉のレシピを売ればいいんだよ?」


商業ギルドで手続き済だよ?


「えっと、味付き干し肉だけで魔物肉の値崩れを防げるかな?」

「今は魔盛期だから、保存食の需要はこれからぐんぐん上がるよ?」

「……それでもさばききれなかったぶんは?」

「大容量のマジックバッグがあるよ」


それこそ、腐るほどある。


「魔盛期が終わったとしても、需要は十分あるし」


といっても、マジックバッグは最終手段だけど。


「……あれ、おかしいな。リリィちゃんが商人に見える」


いえいえロランさん。

本業、この国の王女です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
iv style="margin-left:45%;">

Rankings & Tools
sinoobi.com

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ