魔術概念
おっと、本題を忘れるところだった。
「トール伯父様、お話があるのですが」
「ああ、テオからきいた。オークの集落だろう?」
お父様、先に話を通してくださっていたのですね。
「はい。ですので、明日もお休みをいただきたく」
「いいぞ」
軽っ!
そして早っ!
もう少しごねると思ったのに。
「ただし、さっきのあれを教えろ」
わかりましたよ!
やっぱりトール伯父様はトール伯父様でしたね!
「明日休みをとるのは、お前と、テオと、双子と、アルだな?」
「はい」
「よしわかった。それで、バゴットはどうなのだ?」
はい、第二の本題きました。
「派兵は三か月後、宣戦布告はその後のようです」
「宣戦布告が後、か……」
宣戦布告が後。
それはつまり、開戦の正当性を放棄して完全に喧嘩腰でつかみかかってくるようなものである。
勝てば官軍負ければ賊軍、ってね。
負けるとはつゆほどにも思っていないわけだ。
「バゴットの内部情勢はどうなのだ。お前のことだ、詳細もわかっているんだろう?」
かなり私に慣れてきたようですね、トール伯父様。
そして答えは。
「もちろんです」
「だよな」
なんですか、その呆れた目は。
「いつでもいい、書面にして寄越してくれ。早めだと助かる」
「分かりました」
私の優秀な〈月影〉たちが、今この瞬間から書類作成を開始していることでしょう。
最近〈月影〉は、私でなくてもできるこういった仕事を、先回りしてやっておいてくれるようになった。
そして最後に私のサインだけを貰って各執務室に届けるところまでやってくれる。
助かります。
ところでですね。
「トール伯父様の方は大丈夫なのですか?」
「何がだ」
「ヴィー従兄様がいらっしゃるとはいえ、明日も私たちがいないのですよ?」
しかも役職でいうと宰相、宰相補佐、騎士団団長が3人分、騎士団総帥、その他諸々……。
国の主要人物が尽く留守になるわけでして。
「かなり大変だろうな。だがまぁ、オークどもを野放しにするよりはマシだろう」
それはそうですが。
「この国の最高戦力はお前たちだろうしな。リリィ、特にお前はな」
はいはい、そうですね。
私以外に魔物の群れに単騎で突っ込んでいく人なんていないでしょうからね。
……いやでも、〈月影〉にいるような気はしなくもない。
「それに、さっきのあれを使うことができれば処理能率は上がる」
「そんなすぐには難しいかと……」
私、あれかなり頑張って使えるようになったんだよ?
「少しでも使えればかなり大きい」
左様で……。
「それで、さっきのあれは、まずどうすればいいのだ?」
今からですか、そうですか。
「まず、頭を身体強化するのです」
「……石頭にするのか?」
いやいやいや。
物理的に強化してどうするの。
「違いますよ、思考力を強化するのです」
首を傾げるトール伯父様。
あれやこれやと言葉を変えて説明しても、一向に理解できない様子。
そこではたと気づく。
まず神経のつくりというか、人体の仕組みから説明しなければいけないのでは?
よく考えれば、ラスヴェト始め近侍や〈月影〉のみんなには私の知る限りではあるけれど教えてある。
ザーシュや双子が特に喜んでいた。
これでより正確に相手を仕留められるって。
いや、私は治癒魔術のために教えたんだよ……。
そういうわけで脳や神経のつくりはみんなある程度理解している。
そしてこの脳の強化。
それにはこの知識が必要になると思われる。
なるほど。
よし、無理だね。
次行こ、次。
「これについては後回しにしましょう。できなくても、同時にこなす仕事量を減らすなどすれば問題ありませんから」
素のスペックによりけりだけど、トール伯父様なら2つ同時に進行するくらいはできそうだし。
「では次です。羽根ペンやインク瓶を浮かせます」
亜空間収納から羽根ペンとインク瓶をひとつずつ取り出し、浮かべてみせる。
「どうやってだ」
「普通にですよ?」
「浮遊の魔術など無い。よって普通ではない」
トール伯父様に一刀両断される。
うそん。
チラッとラスヴェトを伺えば、深く頷かれた。
うそん。
「お前、もしや新しい魔術概念を開発したのではなかろうな?」
はい?
新しい魔術概念って……。
「普段どうやって魔術を行使している?」
「普段ですか? えっと……魔力を練り上げて……」
そこまで言って、ハッと気づく。
そうだよ、この世界にはそもそも魔力を操るっていう考え方が無いんだった!
トール伯父様が頭を抱えて呻く。
お父様は顔を引き攣らせている。
そしてヴィー従兄様は笑顔のままフリーズ。
うわぁぁぁどうしよう!?
ラスヴェトを仰ぐと、全身で諦めろ、と語っていた。
はい、諦めます……。
「くっそ……。リリィ、お前というやつは……!」
トール伯父様に睨まれる。
いやホント、ごめんなさい。
「それを知っているのはどれくらいだ」
「〈月影〉だけです」
「〈月影〉……。お前の子飼いか……」
子飼い……。
いやまぁそうですけれども……。
「いいか、絶対に漏らすなよ」
「はい」
もちろんです。
「リリィ、お前はもう下がれ」
「はい。失礼します」
ぺこりと頭を下げて後ろを向き。
「あぁそうだ。お前の近侍長に男爵位を与えることになった。家名を考えておけ」
一歩踏み出したところでトール伯父様に爆弾発言を投げつけられた。
ラスヴェトと顔を見合わせる。
ダンシャクイ……。
だんしゃくい……。
男爵位!?
「はい!?」
作者「はいっΣ(˙꒳˙ )!?」
リリィちゃん、どうして作者が知らない設定やら展開やらがあるの……!(むしろ作者が知っている事の方が少ない)




