新天地① オルガット将軍side
どうすれば良いのか分からない。
私は細々とした策略が苦手だ。
結果、気がつけば外堀を埋められ、こうして窮地に立たされている。
何がいけなかったのか、どうしてこんな事になってしまったのか。
いくら考えても答えは得られない。
重苦しい空気の中、黙々と夕食を摂る。
頭の中は思考が散らかって上手くまとまらない。
「どうしたものか……」
「あなた……」
ふと漏れた呟きに、妻のライラと娘のリーシャが心配そうに見つめてくる。
せめて。
せめて、家族だけでも。
「父上!僕はもう覚悟は出来ています!」
「私に、お前たちをむざむざ死なせろというのか!?」
息子のルーカスの言葉に、つい声を荒らげてしまう。
「しかし……!」
「やぁやぁ、お困りのご様子で」
っ!?
突然、聞き覚えのない声とともに猫目の男が姿を現す。
「何者だ!」
気配を全く読めなかった。
こんなことは初めてだ。
あぁしまった、今は手元に剣がない。
焦りが内心を支配する。
それをおくびにも出さないよう、男を睨みつける。
「うーん、残念ながら今は正体を明かすことはできないかなぁ」
飄々と答える猫目の男。
「……何か用か」
まぁ、用がなければ来ないだろうが。
「うん、用。オルガット将軍、帝国を出る気はあるかい?」
「……なに?」
耳を疑い、訊き返す。
「帝国を出て僕の主がいる国に来る気はあるかい?」
「お前の主の国だと?」
「そう。あ、もちろん御家族さんたちも一緒にね」
家族もともにという言葉には、正直に言うとグラッときた。
だが。
「断る。お前の主とやらが誰か分からぬ以上、乗るわけにはいかない」
怪しすぎる。
「だよねぇ……困ったなぁ」
おや?
猫目の男がふと見せた心底困っているような様子を少し意外に思い、言葉を交わしてみたくなった。
「ひとつ、訊ねても良いか」
「どうぞ。答えられる範囲ならね」
「なぜ私をそちらの国に連れていこうと思った?」
「……僕の主のため、かな。あの子、いつも仕事の山に埋もれてて、全然休んでくれないんだよね。人を増やしたら少しは休んでくれるかなって思って」
一瞬躊躇う素振りを見せたが、答えが返ってくる。
どことなく寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
どちらにしても、彼はおそらく本音で話してくれていると感じる。
「あの子……?」
「え?ああ、うん。僕の主のこと」
彼の主は子どもなのだろうか、それとも女性なのか。
「己の主をあの子呼ばわりか?」
主人をあの子と呼べるくらいには信頼されているのだろう。
「よほど仲が良いのだな。お前と、お前の主とやらは」
良い主に恵まれて、羨ましいことだ。
これほどに信頼関係を築けている主従ならば、信頼出来る人物なのだろうか?
だが、家族の命を預けるには足りない。
そうは言っても、他にどうしようも……。
「なっ!」
猫目の男の叫びに驚いて顔を上げた。
男は険しい表情で宙を凝視している。
「オルガット将軍!帝国がこちらに騎士団を派遣した!ここに辿り着くまであと3時間ほどだ!どうする!僕を信じるか、信じないか!」
その鬼気迫る様子に、覚悟を決めた。
「……信じよう」
頷いた途端、矢継ぎ早に誰ともなく指示を出し始める男。
どこから現れたのか、複数の人物がそれに従い動き回る。
「い、今のは……」
「将軍、あちらに着いたら今のは忘れて」
……なるほど。
「……訳ありか、了解した」
「ありがとう、将軍。…………ああ、忘れてた。それじゃあ改めまして」
おもむろに姿勢を正して、わざとらしく一礼する男。
「お初にお目にかかるよ、オルガット将軍。僕の名はザーシュ。ネリルランディア王国王女、リリディアナ·ディアーナ·エル·ネリルランディア殿下の近侍が1人だよ」
……なに?
一国の王女の近侍、だと?
何故そんな大物がこんな所に派遣されているのだ!?
愕然とする私たちを見て、ザーシュと名乗った近侍の男はニヤリと笑った。




