鎮圧
「左翼、右翼、反乱軍を囲い込んでゆけ!」
「ヴィー従兄様、中央の体制が崩れかけています」
「中央!体制を整える方を優先せよ!」
ふう、今のところはこんなもんかな?
…………ん?
右翼で騎士を置いてけぼりにして爆走しているあれは……。
「お父様!?」
「ん?ああ、テオ叔父上がとうとう暴走を始めたか?」
「ヴィー従兄様、ご存知で?」
「テオ叔父上は気が乗ってくると暴走を始めるんだ。笑いながら剣を振り回すあの姿は…………うん、すごいぞ?」
ヴィー従兄様、どうしてそこで言い淀むのですか。
しかし、あのお父様が戦闘狂だったとは……。
人は見た目によらないってやつね。
って!
「ヴィー従兄様、お父様から逃げ出した反乱軍が左翼の方へ流れています!」
「魔術師団!左翼の援護を!」
「ヴィー!無理だ!中央にも流れてきている!手が足りん!」
ギュス兄様が返す。
お父様ー!
「アスラン、左翼の方へ行ってくれる?」
[お任せあれ、主殿!]
アスランはそう言い残して走り去る。
「っ!?従魔が喋っ…………まあ、リリィだからなぁ」
ヴィー従兄様、その納得のされ方には苦言を呈したい。
シエルの視界からは、兵たちの間をすり抜けていく銀色の炎のたてがみが見える。
左翼、アスランがたどり着くまで持ち堪えて!
「……リリィ様、しばしお傍を離れることをお許し頂けますかな?」
ムンドが訊ねてくる。
「いいけど……どうして?」
「左翼に行こうかと」
「そっか……気をつけてね!」
「はっ!」
「あー、俺も行ってきていいか……ですか?」
「ダング、無理して敬語使わないでいいよ。気をつけて」
「おう!」
「俺……私も、良いでしょうか?」
おずおずとラスヴェトが訊ねてきた。
今まで決して私の傍を離れようとしなかったラスヴェトの言葉に、近侍たちが絶句する。
そしてヒソヒソしだす。
「熱でも出たのかしら?」
「それとも、頭を打ったとか?」
「ラスヴェト……変……」
「天変地異の」
「前触れ?」
「変な物でも口にしましたかな?」
「頭大丈夫か?」
「あんたが傍離れるとか、気持ち悪いんだけど」
「精神異常ですか?」
ボロクソに言うね、みんな。
「違う……デュロイの実力がどの程度なのか知りたいだけだ……」
あまりの言い様にぐったりとしながらラスヴェトが言う。
「えっと……気をつけてね」
「はい」
なーんだ、と興味を無くす近侍たち。
「それでは、行って参ります」
「んじゃ、俺も」
「すぐに戻ります」
「やはり、私も行きます」
「行ってらっしゃい」
ムンド、ダング、ラスヴェト、アーシャが左翼へ向かう。
その後ろを着いて行くデュロイ。
[ガルルルオオオォォッ!]
左翼の方からアスランの咆哮が聞こえる。
無事にたどり着いたようだ。
左翼に流れていた反乱軍は方向転換し、今度は中央へ……。
あああぁぁ!
ごめんなさい、ギュス兄様!
4人と1頭はそれに気づき、中央へ方向転換する。
「これはむしろいい流れだ。リリィ、よくやった」
え?
なんで私褒められたの?
「左翼!右翼!今だ、囲い込め!中央、あと少しだ!耐えろ!」
「待て、ヴィー!手が足りんと言っただろう!?耐えろと言うなら人を寄越せ!人を!」
ギュス兄様がキレかけている。
「タマモ、手助けに行ってくれる?」
人じゃないけど。
[無論じゃ、ぬし様]
9本の尻尾をふぁさり、と一振りしてギュス兄様の元へ行くタマモ。
[ぬし様の兄君よ、寄越されて来たのじゃ。人ではないがのぅ]
「従魔が喋っ!?……ああ、リリィのか。なるほど」
ギュス兄様のいる所はそれほど離れていないので、タマモとギュス兄様の会話が聞こえてくる。
そしてギュス兄様、その反応はもういいです。
[何をすれば良いかの?]
「敵兵を倒してくれ。それだけでいい」
[了解したのじゃ]
タマモの周りに銀色の火の玉がいくつも浮かび、反乱軍へと襲いかかっていく。
途切れることなく生み出され、飛んでいく火の玉。
「よし。そのまま囲い込め!」
ヴィー従兄様の指示で右翼、左翼の端がゆっくりと閉じて行く。
それに気づき、砦の方へ駆け出そうとする敵兵がいるが、もう遅い。
鎮圧軍は敵の一兵をも逃すことなく完全に包囲した。
「イグロンド侯爵を確保せよ!」
シエルの視覚でイグロンド侯爵を探す。
…………あれ?
「いない……?」
私の呟きに眉をひそめるヴィー従兄様。
「まさか。逃げ出せるわけが無いだろう?」
「はい。確認する限り、逃げた者はいなかったのですが……。イグロンド侯爵が見当たらないのです」
ヴィー従兄様にそう答えた時。
「…………ぅぅぅううわあああああ!」
何かが空から降ってきた。
何事!?
ドサッ!ゴロゴロゴロ……と派手に着地したそれをヴィー従兄様が覗き込む。
「…………いたぞ、リリィ」
呆れ顔のヴィー従兄様に促され、私も痛みに転げ回るそれをまじまじと見る。
…………うん。
親方!空から反逆者が!
って、何で!?
「ちょうど見つけましたので、デュロイに捕獲させました」
「あ、おかえり。ありがとう、ラスヴェト。それとみんなも」
「ただいま戻りました。お役に立てたようで何よりです」
「戻りましたぞ、リリィ様」
「戻ってきたぞ!」
「ただいま帰りました」
ラスヴェトに続き、ムンドとダング、それからアーシャが挨拶してきた。
「またリリィのところのやつの仕業か」
またと言われる覚えはないですよ、ヴィー従兄様。
「ともかく、これで鎮圧は終わりだな…………っと」
忘れるところだった、とヴィー従兄様は大きく息を吸う。
「反乱軍!イグロンド侯爵はこちらで確保した!速やかに武器を捨て、降伏せよ!」
すっかり戦意を喪失した反乱軍の兵たちは、次々と武器を投げ捨てていく。
「……やっと終わったな」
……ヴィー従兄様、達成感に浸っているところ水を差すようで申し訳ないのですが。
「帰ったら戦後処理ですよ、ヴィー従兄様。残党処理もありますし」
「………………」
……ごめんなさい、謝ります。
それに私もやりますから!
だからそんな捨てられた仔犬みたいな顔をしないで、ヴィー従兄様!
とりあえず宣伝しておきます。
Twitter、やってますよ(*^^*)
更新か所属している作家グループのRTばかりですが(´・ω・`)




