ギルドにて
おっさんがギルドに1歩踏み入ると、ざわざわとしていた空気がピタリと止まった。
これは、あれかな?
テンプレの、そのおっさんがギルマスだよ!パターンかな?
止まっていた空気が再びざわめき出す。
「お、おい!ラドさんがちっこい子ども抱いてるぞ!」
「なんだと?……ホントだ、攫ってきたのか?」
……私はどうやら人攫いと縁があるようだ。
今回は勘違いではあるけれど。
そしておっさんはラドさんと言うらしい。
「ラドさんと言やぁ、目が合った子は必ず泣きだすって話じゃなかったか?その割にはあの子平気そうだな?」
……ドンマイ、ラドさん。
確かに顔、厳ついもんね。
そんな中、猛者が約1名。
「おいラドさんよ!その子どっから攫ってきたんだ?」
「攫ってねえよ!行き先一緒だったからついでに連れてきただけだ!つーかお前らざわざわしてねぇでさっさと依頼受けて仕事行けや!」
ラドさんが吠え、それを間近で聞いてしまった私の耳はキーンとした。
「おじさんうるさい」
「あぁ、すまん。忘れてた。」
おい。
「てか、今の会話聞いてたらわかるだろ?俺はおじさんじゃねぇ、ラドだ」
「ラドおじさん」
「お前人の話聞いてるか?」
「聞いてるよ、ラドおじさん」
「聞いてねぇだろ?」
ラドさんのせいで耳がキーンてしたんだから、これくらいの可愛い反撃ぐらい、許しなさいよ。
「ぶふっ」
うん?
吹き出すような音が聞こえた。
なんだろう、と思って視線を動かす。
「……おい、笑うな」
「ご、ごめん……!ちょっと、面白くて、つい……ぶふぉっ……あぁ、ダメだ、ふふっ、お腹……!お腹痛い……!」
腹筋崩壊してるお兄さんがいた。
プルプルしてる。
めっちゃプルプルしてる。
「あはっ、ははっ……ラド、が……!ふっ……!小さい、女の子に、くくっ……!遊ばれて、る……!ちょ、も…無理……!」
「笑いすぎだ!」
「くふっ……!あはっ……!はははっ……!」
……楽しそうでなによりです。
遊んだわけではないんですがね。
お兄さんが復活するのを待つこと暫し。
ようやく復活したお兄さんは、人好きのする笑顔を浮かべながら、私の視線に合わせてしゃがんでくれた。
……私の勘が言っている。
このお兄さん、きっと腹黒だ……!
こういう人ほど、腹黒なんだよ!
「ごめんね、滅多に見られない光景だったから、つい、ね。……ふっ……!」
お兄さんは完全には復活しきれなかったもようです。
もう少し待ちましょう。
「……ふぅ。それで、君はどうしてソレと一緒に来たのかな?」
「ソレと言うな」
「サブマスのくせに遅刻するような奴はソレで充分じゃないかな?」
うん、私の勘は間違ってなかった。
そして惜しい、ラドさんはギルマスではなくサブマスだったらしい。
「とりあえず、ラドはちょっと黙ろうか。僕はこの子に訊いてるんだ」
笑顔なのに迫力がすごい。
このお兄さんに逆らっちゃダメ、リリィ覚えた。
「それで、話してくれるかな?」
私は3歳児、私は3歳児……よし。
「うん、いいよ!」
「そう?じゃあ、まずは名前をきいてもいいかな?」
「リリィ」
「リリィちゃんね。リリィちゃんはどうしてソレと一緒にギルドに来たのかな?」
「えっとねー、冒険者登録しようと思ってここに来たかったの。でね、歩いてたら、おじさんが大通りの端っこで寝てたの。お酒臭かった」
「なるほど。ラドはお仕置きだね。後で僕のところに来るように。それから、僕にリリィちゃんを渡してくれるね?」
「お、おう……」
顔面蒼白のラドおじさんは若干震えながら私をお兄さんに渡しましたとさ。
おかしいな、今回で冒険者登録するはずだったんだけど……。