勧誘
ブクマ90件ありがとうございます^^*
「全員、集めて来たが……」
「ありがとう」
私は現在、ラスヴェトにより椅子に座らされております。
降りようとすれば、座り直らされます。
何故だ。
そしてみんなはすぐそばに控えている。
私の足元には、実はさっきからずっとついて来ていたグランディオ。
そして膝の上にはこれまた実はフードの中にいたシルル。
そんな私たちを、組織員たちは訝しげに眺めている。
「何をするつもりだ?」
組織員たちを集めてくれた組織員さんが訊いてくる。
「ちょっと、みんなを勧誘しようかと思って」
「…………勧誘?何故」
その問いに答えるために、私はフードをパサリととった。
「王族……」
貴族しか知らないんじゃなかったっけ?
「裏の人間ならだいたいのやつは知っている」
解説ありがとう、ラスヴェト。
「ということで、あなたたちを諜報員として抱えたいの」
シン……と静まり返る広間。
「ちなみにだけど。衣食住はできる限り保証してくれるってさ。……あ、リリィちゃん、犯罪者として捕まえるとかはしないよね?」
「もちろんしないよ。私についてくれればね」
「ホント、リリィちゃんって太っ腹だよね」
「いや、私としてはここの環境の方がおかしいと思うんだけど」
「こんなものだよ、裏社会なら。リリィちゃんの整えてくれた環境が良すぎるだけ。僕はもうリリィちゃん以外のところになんて行けないよ!」
ザーシュは大袈裟だなぁ。
「あの”虚無”さんがぞっこんだぞ」
「異名持ちの人たちが進んで従うとは」
「なんなんだ、あの王女」
ええぇぇ……。
「まあ、君たちは行く宛てなんてないんだから、どちらにしろリリィちゃんのところに来るしかないんだけどさ」
そうなのか。
「どう?来てくれる?」
微妙な顔をする一同。
だよねぇ。
王女とはいえ幼女だもんね、私。
「少し、よろしいかな?」
とても場違い感が半端ない素敵なオジサマが話しかけてきた。
貴族の屋敷とかで執事やってそう。
「うん。いいよ」
「では失礼して。あなたはここの者たちをどのように動かすおつもりですかな?」
どのように?
「例えば、あなたは王族ですから、貴族の屋敷に送り込んで証拠を掴ませる、などでしょうか」
そういうことね。
「もちろん、そうするつもりだよ。ただ、それだけじゃ足りない」
「ふむ。足りない、とは?」
「貴族を断罪するだけじゃ、王族の権力を強くはできないでしょ?1番大事なのは貴族の力を削ぐことじゃない。王族の影響力を強めること。貴族を断罪して、王族の力がそのままでは、国力は落ちるだけだよ。だから、みんなには貴族の所だけじゃなく、商業や産業にも根を張ってもらいたい。国内が落ち着いたときには、国外の情報も集めてもらいたいな。お願いできる?」
「なるほど、なるほど。確かにあなたは王族のようだ。ふむ。我々には行く宛てがありませんからな。……あなた様に、従いましょう」
オジサマが恭しく頭を下げれば、大広間に集められていた全組織員たちもそれに続く。
「性格が悪いなぁ、”蜘蛛”。わざわざリリィちゃんを試すなんてさ」
「自分の主になる者を見極めることの何が悪いのです?”虚無”。そもそもあなたも性格悪いではありませんか」
「やめてよ、”蜘蛛”。僕にはザーシュという名があるんだから。ていうか、裏社会で性格悪くない人なんている?」
「あなたとて、私を”蜘蛛”と呼んでいるではありませんか。ふむ、確かに、いませんな」
「だって名前知らないもん。ほら、いないでしょ?」
「そう言えばそうでした。私はアーロンと申します。……ふむ、そうですな」
会話を2つ同時に成立させるこの器用さよ。
というか、この人たち、お互いに興味無さすぎじゃない?
……いや、それもそうか。
仲の良かった人がいなくなるかもしれなかったんだから。
「お互いを呼ぶとき、異名で呼ぶのダメにしようかな……」
私がそう呟いたとき。
「え、俺異名持ちの人たちの名前全員知らない……」
「”死神”さんの名前呼ぶとか恐怖しかないんだが……」
「それは”死神”さんに限ったことじゃないだろ」
君たちというやつは……。
「決めた!お互いを呼ぶときは名前で呼ぶこと!いいね?」
組織員たちは渋々頷く。
あ、そうだ。
いつまでも組織とか、〈闇鴉〉って言うのもなんだから、新しく組織名をつけよう。
そうだなぁ……。
よし。
「〈月影〉!今からこの組織は〈月影〉ね」
「ふむ、良いのではありませんかな?」
「そうですな」
アーロンにムンドが同意した。
2人とも口調が似ているから一瞬混乱する。
ふむ、が口癖なのがアーロンね。
よし、覚えた。
あぁ、それから組織の再編成とかしなきゃ。
どうやら、仕事はとりあえず手の空いている誰かが行く、という感じらしく、それでは効率が悪い。
さて、どう編成したものか。




