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殴り込み






「よし、準備はいい?」


みんなに声をかければ、全員から頷きが返ってくる。


「最後に確認!相手は殺してはいけません!破壊も最小限に抑えること!いいね?」


再び返ってくる頷き。


「それから、みんな無理しちゃダメだからね?怪我をしたらすぐに下がって私の治癒を受けること!これ1番大事だからね!」

「あぁー、やっぱりリリィちゃんだなぁ」


ザーシュが緩い笑顔でそう言う。


「リリィちゃんについて正解だったよ。ホント最高」

「はいはい、ありがとう」

「あぁもう!リリィちゃん可愛すぎ!」


ガバッと抱きしめてくるロゼリカ。

ちょっ!息が!

息ができない!

ロゼリカのお胸様デカすぎでしょ!

ムグムグともがいていると、ロゼリカから引き剥がされ、私は抱き抱えられる。

助かった!


「ラスヴェト、ありがとう」

「いや」


……ん?

ラスヴェトの雰囲気が固い。

私を抱く腕も(こわ)ばっている。

それもそうか。

ラスヴェトは組織のことを地獄と言っていた。

嫌な思い出も多いだろう。

ギュッと抱きつき、頭を撫でる。


「大丈夫。大丈夫だよ」

「……あぁ」


ラスヴェトも、私をギュッとした。


「…………そんなに見せつけないで?僕悲しくなっちゃう」


ザーシュがしょぼんとして羨ましそうにこちらを見ていた。


「……行くか」

「うん」

「無視しないで!?」

「行くよー」

「リリィちゃん!」

「ザーシュ、頼んだよ」

「任せて!」


チョロイン。


「アーシャ、転移お願い」

「はい。では、転移します」


アーシャが詠唱を始める。

よくある、光るエフェクトなどはない。


「転移」


詠唱が終わり、エレベーターに乗ったときよりも強いフワッとした感覚がする。

思わず目を瞑り、次に目を開けたときには、ボロボロな大きい建物の前にいた。


「お、お帰りだ。おい、中に知らせに行け」

「あいよ」


見張りと(おぼ)しき男2人のうち、片方が中へと入っていく。


「よくお戻りで!」

「あー。いやぁ、違うんだよねぇ」


残った方に声をかけられ、困った様子のザーシュ。

そのザーシュの言葉に、残った方の見張りが首を傾げる。


「違うとは?」

「あのね。僕ら、新しい主を見つけたんだよね。だからさ、〈闇鴉〉、抜けるわ」

「なっ!本気ですか!?殺されますよ!」

「はんっ。できるものならやってみなさいよ。私たちにかなうヤツなんていたかしら?」


初っ端(しょっぱな)から喧嘩腰ですね、ロゼリカさん。


「とりあえず、そこどいてくれや。ボス以外に手出しするつもりはねぇ。すっこんでりゃ、怪我することもねぇからな。……いや、”終焉(アーシャ)”がいたな。……ま、外にいりゃ大丈夫だろ」


適当すぎませんか、ダング。

怯えたように後退る見張りさん。


「うんうん、賢明だよ。じゃ、行こうか」


ザーシュを先頭に、ゾロゾロと中に入る。

私はラスヴェトのローブの中に隠されている。

薄暗いが、なかなか広い。

元は立派な屋敷だったのだろう。

画面の中でよく見る、正面玄関から入ってすぐの階段が2階へと続いている。

みんなは躊躇(ためら)うことなく登っていく。


そして、2階の一番奥。

一際大きく、飾り彫りの立派なドアを遠慮なくバタンッと開くザーシュ。

その中は大広間になっており、足音が反響している。

奥には1段高くなっているところがあり、そこには椅子が置いてある。

その椅子には、1人の男がふんぞり返って座っていた。


「ふんっ。やっと帰ってきたか。仕事が溜まってるというのに、いいご身分だな」


うわぁ……。


「いやぁ、あのさ、ボス。僕ら、別の人のところに行くことにしたから。もうあんたに従う義理はないんだよね」

「なんだと!?許さんぞ!そいつは誰だ、俺が潰してやる!」


この人、あれだ。

自分の持ち物に興味ないくせに、いざ人のものになると思うと途端に惜しくなる人だ。

子どもか。

というか、そもそもみんなは物じゃない。


「残念ながら、潰されるのはあなたの方だよ」


ラスヴェトに下ろしてもらい、みんなの前に立つ。


「なんだ、ガキ。お前の出る幕じゃないぞ」

「いや、私の出る幕だよ。みんなはあなたの物じゃない。大切にできないのなら、私がみんなを引き受ける」

「ふんっ。所詮ガキのお前にそいつらは飼いきれねーよ。諦めな。つーかそもそも、そいつらは俺のだ」

「……そう。でも、諦めるのはあなたの方だよ」

「あ?ガキがイキがってんじゃねーよ。俺のだっつってんだろ」


……もう、いいかな?


「それじゃ、力尽くでいくよ?」

「あ?何言ってんだ、ガキ」


私はそれに返事をすることなく、魔力を体から溢れさせ、体の周りを渦巻くように(まと)わりつかせる。

さらに、ごく薄くした魔力を周囲に展開する。

これは、視界が塞がれたときに誰がどこにいるか分かるようにするためである。

それから、全身を身体強化する。

完全な戦闘態勢の完成だ。


それに呼応するように、みんなも戦闘態勢に入る。

ラスヴェトとザーシュは短剣を。

ロゼリカは鞭を。

ダングは大剣を。

リーフェ、リーファは暗器を。

カインは多くの魔術具を。

アーシャは魔術書を。

ジュダの懐にいた2匹の蛇が巨大化し、火を吹く。

ムンドは双剣を構え、額から1本の角が伸びる。


……待って。

ムンド!?

その角は何!?


「おや、そういえば言っておりませんでしたな。私の種族は鬼人族と申しまして、戦闘態勢に入るとこれ、このように角が大きくなるのです。普段は小さいので髪に隠れておりますがな」


わーお。


「ねぇお二人さん。ここ、敵前だよ」


おっと、そうでした。

ありがとうザーシュ。


「『氷よ』」


氷のナイフが複数形成され、魔力の流れに従ってゆっくりと私の周りを回り始める。


「ふーん。詠唱省略か。なんだお前、使えそうじゃないか。気に入った。お前も俺のものになれ」

「お断りだよ」

「ふんっ。お前に拒否権はない」


……キレていいですか?

代わりに拍手を1つ。

氷のナイフが次々と飛んでいく。

飛んでいったナイフの後には、既に新しいナイフが形成されている。

カカカカカッとナイフが椅子の背もたれに突き刺さり、〈闇鴉〉のボスとやらの体の自由を奪う。


「お、おい!誰か来い!」


その声に反応し、大勢の組織員がなだれ込んだ。


「そいつらを捕らえろ!」


異名持ち相手にそんなことを言われ、困惑する一般組織員。


「……お前らはそこで大人しくしていろ。邪魔をしなければ手を出すことはない」


ラスヴェトがそう言えば、組織員たちは固まった。


「な、何をしている!捕らえろと言って」

「うるさいなぁ」


私は追加のナイフを飛ばし、ボスの口を閉じさせる。


「ひっ」


小物感半端ないわ。


「ねぇ、あなた」

「な、なんだ?」


1番近くで固まっている組織員に声をかければ、ビクッとされる。

そんな怯えないでいいのに。


「今、外に出てる組織員はいる?」

「い、いや、さっき全員帰ってきたところだ……」


およ?

まだ午前中なのに。

私の疑問に気づいたのか、ラスヴェトが答えをくれる。


「基本的に、仕事は夜だからな」


なるほど。


「じゃあ、全員集めておいてくれる?ここに」


その組織員はボスを、次いでラスヴェトを伺ってから、コクリと頷き出ていった。

さて。


「アレどうしよう?」


たった10本ほどナイフを飛ばしただけなのに、気絶1歩手前だ。

なんともまあ、呆気なく終わったものだよ。

わざわざ戦闘態勢に入らなくてもよかったかなぁ。


「組織員の好きにさせればいい。かなりの恨みを買っているだろうしな」

「ん、分かった」


そのボスはもう既にムンドによって綺麗に縛り上げられ、段差の下に転がされていた。

こんな短時間にあんなに綺麗に縛るとは。


私がそんなアホみたいなことに感心していると、ガヤガヤとしたざわめきが近づいてきた。

ラスヴェトを見上げると、頷かれる。

では、組織員全員、口説いて抱え込みますか。








ボスは小物です。

ボスとも言えませんね、雑魚キャラポジです。

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