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魔盛期

ちょっと重めです





「うん、今日はこんなもんかな。それじゃ、帰ろうか」

「はーい」

[きゅーい]


ロランさんと一緒にこれでもかと魔物を狩り、いつも通りギルドへ帰った。

受付で依頼完了の報告をする。

ついでに素材買取もしてもらう。


いつもロランさんかラドさんと一緒に依頼へ行くため、毎回指名依頼という形になっている。

たまには普通の依頼を受けて、1人で森へ行きたいなぁ。


「はい、リリィちゃん。ギルドカードね」

「ありがと、エラさん!」


カードを受け取った後、いつも通り帰ろうとしたその時。


「あ、リリィちゃん、ちょっとお話していかない?」


ニッコリ笑顔でそう言うロランさんにひょいと抱き上げられた。

あの、私に拒否権は……ないですね、ありがとうございました。

そのまま私はロランさんに2階のいつもの部屋へとドナドナされる。


ドナドナされるのはこれが初めてではない。

2、3日に1回はこうしてお話と称して連れ去られるのである。

実際、お話してるんだけどね。

いつものようにソファー座り、魔道具を起動させるロランさん。


「さてと。ねぇリリィちゃん。”魔盛期”って、知ってる?」


ふぁっ?


「あ、その顔は知らないんだね」


わお、バレてーら。

観察眼すごいね。


「魔盛期って言うのは、魔物が活発化したり、魔力による時空の歪みが大きくなる時期のことでね、だいたい千年に一度くらいの周期で起こるんだ」


ぬ?魔物の活発化?

どっかで聞いたことあるね。


「さすがだね、もう気づいちゃったか。そう、今各地で頻発してる魔物の活発化は、この魔盛期なんじゃないかって僕は思ってるんだ。最後にあったのは900年と少し前ほどだから、そろそろ起こる頃だろうしね」


ロランさんもさすがだね、私が気づいたことに気づいちゃったよ。


「魔物の活発化っていうのは、具体的にはどういうのなの?」

「そうだねぇ、ごく一般的な魔物を通常種、それが存在進化したものを上位種、さらに進化したものを王種、そのさらに進化したものを皇帝種、横道に()れるように進化したものを亜種と呼ぶんだけど、活発化すると魔物の数自体が増えたり、進化するものが極端に増えたり、通常種でも異常に強いものが増えたりするんだ」


つまり、全体的に増え、強くなるんですね。


「それだけじゃない。皇帝種がさらに進化して魔王種になったり、その上さらに進化して魔皇帝種になったりするらしいんだ」


ん?


()()()?」

「そう。古い書物に書いてあるんだけど、普段はいないが、魔盛期にのみ現れる強力な個体らしいんだ」

「へぇー」

「本当に、どれほど強いのか検討もつかないよ」


ロランさんが弱気になるとかどんだけですか、魔王種、魔皇帝種。


「他に聞きたいことはないかい?」

「えっと、魔力による時空の歪みってなに?」

「あぁ、それね。そうだなぁ。……ねぇ、リリィちゃん。異世界があるって言われたら、信じられるかい?」


信じますね、速攻で。

なんせ、異世界での前世の記憶がありますからね。

っていうか、こういう風に訊くってことは、あれか?

時空の歪みによって異世界に繋がる場所ができるってパターンか?


「うーん、よくわかんない」


とりあえず、無難に返事をしておく。

だって、この質問に速攻で信じるよ!って断言できる3歳児、います?

私はそうは思いません。

だって、そもそも異世界ってなに?って言うに決まってるから!


「だよねぇ。というか、そもそも異世界が何かわからないだろうし」


ですよねー。


「異世界っていうのは、今僕たちが生きているこの世界とは違う世界のことなんだけど、そうだなぁ。……あ、そうだ。ねぇリリィちゃん。お空って、あるよね」

「うん」


外で見上げたらある、あの空ですね。


「あのお空がもう1つあって、そのもう1つのお空の下にあるのが異世界って思ってくれればいいかな」


ロランさん、すごいですね。

よくそんなわかりやすい説明思いつきましたね。

私は、無理です。


「なんとなくわかったよ!」

「よかった。じゃあ続けるね。時空の歪みっていうのは、本当は繋がる(はず)のない、その異世界と繋がってしまう場所ができることなんだ」


私、ビンゴ。


「そのせいで、異世界の動物がこちらに来てしまうことがある。反対に、こちらの魔物や動物が行ってしまうこともある。あちらから魔物が来ることはないんだけど、それは多分、あちらの世界には魔力がないんじゃないかなぁ?魔盛期じゃなくても、普段からその繋がりはホンの小さなものなら時々できるんだ」


え、ちょっと待って。

こちらの魔物や動物が行ってしまうこともある?

……それってさ、もしかして、UMA?

いや、確認する(すべ)はないけど。

そうだったら、面白いなぁ。


「それでね、魔盛期になると、これが人間が通れるくらいに大きくなってしまうんだ。そして、あちらの人間がこちらに来てしまったり、こちらの人間があちらに行ってしまったりするんだ。そして、1度来てしまったり、行ってしまったりした人間は、元の世界に帰ることはできなくなってしまうようだ」


まじですか。


「その来ちゃった異世界の人たちって、そのあとどうしたの?」

「……みんな、保護される前に死んでしまったそうだよ」

「えっ!?なんで!?」

「そもそも、その繋がりができる場所というのは、魔力が濃い場所なんだ。そして、そういう場所には強い魔物が住み着いているのが(つね)だ。だから、その魔物なんかにやられてしまったらしい」

「じゃあ、なんでその人たちが異世界の人ってわかったの?」

「その書物よりもさらに古い、今では無くなってしまったような古文書に、異世界人は見たことも無い文字と言葉を使い、見たこともない服装をしていた、と書かれていて、そこからその亡くなった人の遺体の姿と出来た繋がりを見て判断したようだ。再び元の世界に帰ることは出来ない、と書かれていたのも、そのとても古い古文書らしいよ」

「そっかぁ……」


しょんぼりした私の頭を、シルルがうにょーんと手(?)を伸ばしてなでなでし、ロランさんがぽんぽんとした。


「ねぇ、ふと思ったんだけどさ。このスライム、異様に賢いね。普通のスライムって自分から行動したりしないよ?」

「え、そうなの?」

「うん。こんなスライム見たことないよ」

「へぇー」


そっか、シルルは賢いのか。

さすが私の従魔。


「さて、リリィちゃん。そろそろ帰るかい?」

「うん」

「それじゃあ、お見送りしよう」


そして抱っこ。

もうね、慣れました。

2週間、毎日のように抱っこされれば誰だって慣れます。


ロランさんにお見送りされながら館へ帰り、お母様にただいまの挨拶をしてから部屋に戻る。

着替えてしばらくすればエナが夕食の時間だと呼びに来て、お母様と一緒に食べ、再び部屋に戻る。


2週間、ずっとこの生活リズムだ。

日が沈めば自然と(まぶた)が重くなり、私は夢の世界へと旅だった。


―――――――次の日から、そんな私の日常がドンドンと姿を変え、やがて世界が混乱していくなんて知らずに。







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