初依頼で初テイム
「ふぁいやー、ふぁいやー、ふぁいやー!」
「なあ、その気ぃ抜ける詠唱やめてくれねぇか」
「無理」
だって魔力温存しておきたいもん。
別に、火よ!って言ってもいいけど、なんかふぁいやーって言いたくなるんだよ。
あ、スライム。
「ふぁいやー」
ヒョイっと飛んでいった種火は、スライムに着弾した瞬間燃え上がる。
種火の魔術は小さめの火を飛ばすだけの魔術だけど、スライムは魔術に弱いのですぐに燃える。
鎮火した後には、スライムの魔石が残される。
「ふっふーん。魔石ゲット!」
魔石は既にロランさんから貰った採集用の袋にたっぷりと詰まっている。
今のところ見たスライムは個体によって色が違った。
赤、青、緑、ピンクに紫もいた。
「あ、ホーンラビット。風よ」
見えない風の刃がラビットの首をはねる。
こういう、毛皮とかお肉を利用できる魔物は、さっきからラドさんが回収してくれている。
「ねえ、これ私たちいる意味ある?」
「……ないかなぁ」
「サブマス、私たち、別行動していい?」
「まぁ、いいだろう。帰りはいつもの時間、門の前でな」
「了解」
2人とは別行動になった。
「あ、スライム。ふぁいやー」
「よくそんなに次から次へと見つけられるな……」
だって、魔力感知してますから。
……およ?
なんか変な魔力反応がある。
テコテコと近づく。
「なんぞこれ」
「あ?どうした」
「なんか変なスライムいる」
なんか無色透明なスライム。
「変なスライム?…………こいつ、色無しか。珍しいな」
「色無し?」
「あぁ。普通、魔力には色があるんだよ、見えねぇけど。魔石が個体によって色が違うのはそのせいだ。だが、時々魔力に色がねぇやつがいてな、そいつを色無しって言うんだ」
「へぇー」
「んで、色無しは他の個体と比べても弱い。だから他のにやられて、生き残ることはめったにない」
「ふうん」
色無しスライムをちょんちょんとつついてみる。
すると、指にまとわりついてきた。
私が咄嗟に指を遠ざけようとすると、スライムは引き戻そうとする。
綱引き合戦ならぬ指引き合戦が始まった。
「ふぬぬぬぬ!」
スライムも負けじと引っ張っている。
「お、おい、大丈夫か!?」
「ラドおじさん、スライム剥がして!」
そう言った瞬間、色無しスライムはぴょんっと飛び跳ね、私のローブの中に収まってしまった。
ちゃんと指も離している。
……ええぇぇぇ……。
「こら、スライム!出てきなさい!」
スライムは拒否するようにプルプルと震える。
引っ張り出そうとしてもしがみついて離れない。
「なんかめっちゃ懐いてるな?」
「これどうすればいいの?」
「もういっそ、連れて帰ればどうだ?」
「一緒に行きたいの?」
そう訊けば、スライムは嬉しそうにぽよぽよと弾む。
わかったよ、連れて行けばいいんでしょ。
「どうせなら名前付けてやったらどうだ?」
「名前?」
「あぁ。名前を付けてやって、魔物側がそれを受け入れればテイムできる。テイムした魔物のことを従魔ってんだ」
おお、テイム!
では。
「えっとねー。それじゃあ、シルル!」
名前を付けたとたん、スライム、シルルは一際大きく弾んだ。
「うおっ」
「あははっ」
驚いたラドさんが尻もちを着いたので、笑ってやった。
「おい、笑うな」
「ん?あれ?」
「聞けよ、人の話を!」
「シルル、なんか色着いた?」
「は?」
ほんの少し、シルルが白っぽくなった気がする。
キラキラと光を反射しているようにも見える。
「白?いや、違うな。これは、銀か?」
「銀!?」
「どうした?」
「う、ううん、なんでもない」
銀って私の色じゃないですかやーだー。
「テイムしたら色が変わるなんてこと、あるの?」
「いや、聞いたことねぇな。そもそも色無しをテイムしたなんてのも聞かねぇし。これも、ロランに報告だな」
ロランさんごめんなさい、お仕事増やしたかもしれません。
「こら、スライム!出てきなさい!」
と書いた瞬間、
「そこにいるんでしょ!?出てきなさい!」
というセリフと共に
むっしっしーむっしっしー♪という音楽にあわせて白い全身タイツの虫が行進する映像を思い出した。




