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最強騎士は困った

───────────────────────

ガーディアンの攻撃、コボルトスカウトに99999ダメージを与えた。


コボルトスカウトは死体も残らず四散した。


───────────────────────


「あわわわ」


夕暮れの森の中でアダマンタイト製の片手剣から血を振り払い、鞘に収める。

青髪の少女冒険者は腰を抜かして地面に座りこけている。


『この辺りでコボルトスカウトに遭遇するとは災難でしたね』


コボルトは魔王軍としては最下位に属する魔族。

その中でも王国に潜伏する斥候がコボルトスカウトなのだが、

私が管轄する地域に現れるのは非常に稀である。


この青髪の少女冒険者の不運を心から同情する。


「あ、ありがとうございます!」


『これが私の仕事です。 気を使う必要はありません、冒険者よ』



等と建前を言ってはいるが、内心冒険者の質の低下に憂鬱になっている。


ガーディアン、あの兎を倒してくれ!

───お前が倒せ、私は猟師ではない


ガーディアン、装備忘れたから装備貸してくれ! 

───何で腰巻しか付けてない時点で気付かない?


ガーディアン、とりあえず呼んでみた!     

───はっ倒すぞ


ガーディアンの仕事とは、

基本的に道案内や敵対生物の討伐、犯罪者の粛清等であり、

決して冒険者のような便利屋ではないのだ。

最近の仕事と関係のない《守護者招来(ガーディアン・コール)》の激増は、

私の心身の負担だけではなく、ひとつひとつの対応に時間を食うせいで本来救護できるはずの者が救護に間に合わない事例がある。

王国民や冒険者の死体を見て、嘆かない人間はガーディアンに存在しない。




「いえ、本当に危ないところを助けていただいたので何かお礼を!」


だが、こうしてガーディアンとしての仕事が真っ当でき、なおかつ感謝されることもある。

私はそれだけでこの仕事に就けてよかったと思える。

しかし、私はガーディアン。滅私奉公を誓った者であり、個人とあまり深く関わりを持ってはいけない。

故に心苦しいがお礼は固辞しなければならない。


『ガーディアンの隊律に【ガーディアンたるもの、名声も施しも不要である】というものがあり──』


「少しだけここで待っていてください!」


いや、話を聞けよ。


青髪の少女冒険者が止める言葉すら待たず、

一目散に西の森へ消えていくのを眺めるしかなかった。


『……ここで待てと言われても困る』


理由は2つある。

1つ、そろそろ仕事の時間が終わること。

ガーディアンの勤務時間は日が昇り、日が落ちるまで。

日が落ちれば我々ガーディアンはただの王国民であり、

冒険者への《守護者招来(ガーディアン・コール)》に応じる義務はなくなる。

故にここで待つ必要はない。


2つ、仕事が終わるまで仕事は続くということ。


【【ガーディアン】】


そら、来た。


私の脳裏に《守護者招来(ガーディアン・コール)》の詳細が浮かび上がる。

方角……西北

距離……434.5メートル。

種別……冒険者、金髪の男性、戦士

体調負傷具合……健康、負傷なし。

対応優先度……中


情報から推測するに敵対的生物からの攻撃を受けたわけではなく、

そして、私がいるこのアーカナ大森林は危険な生物が少ない代わりに道に迷いやすい地帯。


新米の冒険者が大森林で迷子になるのは今日で254件ほど。

数は多いが道案内も遣り甲斐を感じているガーディアンの仕事の1つだ。


早々に今の場所から離れ、救護者の元へと足を進める。

青髪の少女冒険者よ、話を聞かなかった自らを恨むがいい。



※※※※※※※※※


「それで、実は困ったことがありまして」


『……それで用件は何ですか』


「とっても困ってるんですよー」


金髪無精髭の青年冒険者は、にこにこと笑みを浮かべる。


呼び出されてから数分、ただただ困る困るしか語らない相手に嫌気が差す。

かの有名な聖女にして同僚のスリーでも辟易するだろう案件に、

私はため息をつき、腕を組んで威嚇する。


『……用件を』


「困ってるんですー」


隊律、ガーディアンたるもの困っている者を見過ごしてはならない。


そう()()()()()のならば、

私はこの冒険者から用件を聞き出すまで離れることができない。


例え、雨が降ろうと、槍が降ろうと、魔王軍が侵攻しようと、

王国に火の手が上がろうとも最優先すべきは隊律の尊守。

我々ガーディアンにとって隊律を破ることは()()()()()()()()


だが、いくら隊律とは言っても用件を言わぬ者のために時間を浪費したくはない。

しかし、私は用件を聞く術はない。

閉じている《守護者招来(ガーディアン・コール)》を開けば優先度を比べることもできるのだが、困っている用件をいつ話し出すか分からないため閉じている他はない。

完全な手詰まり、無限を象徴する守護獣ウロボロスの加護が与えられてしまった。


『……用件をお話ください』


「私、今日にも解決しなければならない困ったことがあって」


『……用件』


「困っちゃったなぁ」


『ようけ──』


「いやー!困った!」


せめて、何か変化があれば。

何か目の前の金髪野郎が行動を起こしたのなら……。

…………。


『よう、金髪野郎』


「困ったー、困ったー」


……?

さりげなく罵ったのだが、罵倒に対する反応はしていない?

こいつ、話を聞いていないのか?


『よう、お前のかーちゃんデベソ』


「かー、困ったなぁ!」


どうやら、ヨウに反応して困ったと返答しているようだ。

罵倒すらも認識できないほど何かに意識を集中させている?

だが、ここには私と金髪の冒険者野郎しか話し相手は───いや、思い出した。


金髪野郎の耳に視線をやる。

冒険者ギルドの印が入った銀細工の耳飾り。

冒険者の身分を証明するとともに、()()()()()()()()()()()()()()()が込められている。


冒険者の間ではチャット等と形容され、

ガーディアンほったらかしで遠距離相手の通話に夢中になっていることもある。


お前の耳飾り引っこ抜いて輪投げにしてやろうか等と思ったが、ここで名案を閃く。

通話魔法(チャット)は基本的に送りたい相手にしか送ることはできず、盗み聞きすることもできない。

だが、我々ガーディアンには特例でその通話魔法(チャット)を傍受走査できる《守護者の地獄耳(ガーディアン・イヤー)》という魔法を行使できる。

その特例とは詐欺の被害確認等の犯罪行為が告発された場合のみ。


故に、これはガーディアンの行いから逸脱した行為である。


だが。(エラー)


だが。(エラー)


だが。(エラー)


目の前のこいつに一泡吹かせられるのなら、私は躊躇しない!


『《守護者の地獄耳(ガーディアン・イヤー)》!』


「困ったー」


───────────────────────

ダイレクトチャットモード

デビル:おい、そっちの様子はどうだ。


パツキン:わっ、急にチャット使わないでくださいよ。

     こっちはガーディアン足止めしてまーす。


デビル:なら、よし。 こっちはもうPKを始めている。


パツキン:えー、俺も混ざりたいんだけど!


デビル:ガーディアンは夜になれば目の前でPKしていようと反応しなくなる。

    それまでは足止めに専念しろ。


パツキン:はいはい。

     でもまぁ、このゲームの中でも最高のAIっていっても所詮こんなもんっすか。


デビル:ああ、SNSの情報に感謝だな。

    こんな単純なことで冒険者殺しがやりやすくなるのは実にいい。


パツキン:じゃ、ガーディアンの応対に戻るんで、一人くらい残してくださいよ!


───────────────────────


『……』


「困った! 超困った!」


閉じていた《守護者招来(ガーディアン・コール)》を開く。


【【ガーディアン】】

方角……東

距離……1021.1メートル。

種別……冒険者、黒髪の男性、聖職者

体調負傷具合……重度の切傷。

対応優先度……高(無)

対象は死亡しました。別のコールに対処してください。


【【ガーディアン】】

方角……南東

距離……801.9メートル。

種別……冒険者、赤髪の女性、魔法使い

体調負傷具合……重度の矢傷。

対応優先度……高(無)

対象は死亡しました。別のコールに対処してください。


【【ガーディアン】】

方角……南

距離……236.1メートル。

種別……冒険者、緑髪の女性、弓手

体調負傷具合……重度の殴傷。

対応優先度……高(無)

対象は死亡しました。別のコールに対処してください。


対象は死亡しました。別のコールに対処してください。

対象は死亡しました。別のコールに対処してください。

対象は死亡しました。別のコールに対処してください。

対象は死亡しました。別のコールに対処してください。


何度も脳裏に響く、死亡を告げる情報。

何度も鼓膜に響く、困ったという声。

そして、王都から聞こえる夜を告げる大礼拝堂の鐘の音。

私の仕事の終わり、ここからただの王国民として振舞わなければならない。

月の光が大森林とアダマンタイト製の甲冑を暗く照らす。


「あー、やっとか。 ああ、ガーディアンさん、俺もう困らなくなったんで」


金髪の笑みがにやつきを増し、そそくさと退散しようとしていく。

そんな男の肩を掴んで、足を止めさせる。


「わっ! 何だよ! ガーディアン、もう困らないって!」


『いや、困った』


自分でも驚くほどに冷たい声。

アダマンタイト製の片手剣を抜き、金髪無精髭の冒険者に振りかざす。


「えっ、ちょ──」


『犯罪者というものは本当に困った者だ』


───────────────────────


ガーディアンの攻撃、パツキンに99999ダメージを与えた。


パツキンは死体も残らず四散した。


───────────────────────


※※※※※※※※※


「【ガーディアン】!【ガーディアン】!【ガーディアン】!」


「おいおい、お嬢ちゃん! ガーディアンは19時までしか活動できないんだよ? 知ってるかな?」


「そんな事知らないよ! このエデン・オンラインだってまだ初めて2日目!」


「ハッハッハ! だよな! まぁ、これもエデン・オンラインの洗礼だからさ!」


下卑たRP(ロールプレイ)をしながら男3人とそれを率いる眼帯の男の人。

ちょっと渋めの顔は好みだけどやってる事は最低最低最低!


ひー君に追いつこうと睡眠時間を削ってプレイしてるのに、

行き道に迷うし、コボルトスカウトに追い回されるし、

助けてくれたお礼をしようとしたガーディアンさんには逃げられるし、

帰り道に迷うし、PKには目を付けられるし、本当に今日は最低の一日!


「わ、私、リアルだと棒術世界大会優勝者なんだよ!」


「ハッハッハ、適当な嘘をぶっこくなよ」


「ほ、本当なんだからね! 痛い目見たって知らないよ! アチョー!」


見よう見まねで魔法詠唱用の棒を振り回す!とにかく振り回す!


「だ、団長。 あれ、やってもいいんですか?」


「おいおい、ルーキー。 これはゲームなんだぜ? PKの機会をみすみす逃すことはないぜ」


眼帯の男が手下の1人に物騒なアドバイスを送ってる。やだ、怖い。

しかも、アドバイスもらった1人と他2人も納得しちゃった感じ!殺される!


「よし、やるぞ! ここでPKギルドの一員になるんだ!」


「「おおっ!!!」」


気合が入った3人が一斉に突っ込んでくる。

イメージ! とにかくイメージが重要ってひー君が言ってた!

3人まとめて相手できるような達人のイメージ、そう格闘映画のスーパーヒーローのように!


「アチョチョチョチョチョ!」


「あがっ!?」


「ぎゃ!?」


「ぐえっ?」


まるで格闘映画のスーパーヒーローが乗り移ったかのように私の体が勝手に動く。

1人の喉元を突き、横に振ってもう一人顎を強打し、そのまま円運動を維持したまま最後の1人の足を払う。

わぁっ! すごい! リアル運動音痴なのにイメージ通りに動いてる!


「ど、どうだ! 参ったか!」


「おー、もしかしてお嬢ちゃん結構妄想とか得意?」


「失敬な! 映画をいっぱい見たりしてるくらいです!」


「ってわけだ、ルーキー。 このゲームじゃ、イメージが重要なんだ」


そうそう、イメージが大切。


「ステータスもスキルもあるが、一番大事なのはイメージだ。

 この世界はイメージ通りに体が動いてくれる」


うんうん。


「だから、お嬢ちゃんがやれてお前等がやれないはずはねぇってことだ」


うん……うん?


「なるほど、つまり俺は最強のナイフ使いだと」

1人の男の構えが素人のそれではなくなり、まるで映画に出てくる悪役のような凄味を醸し出す。


「俺は最強の格闘家……!」

1人の男の立ち姿に芯が入り、その足が気脈を吸い上げる錯覚を引き起こす。


「……なんか凄い槍使い!」

思いつかなかったのかヘリコプターのように槍を頭上で振り回す男。


先ほどのトーシロだった3人と比べれば明らかに戦力が上がったご様子。

戦闘中に成長していいのは主人公だけなのに!


「ひ、卑怯! 卑怯です! 私のイメージ戦法をパクった!」


「お前も他人のアドバイス聞いてた口だよな」


「うっ、図星です……」


「それじゃあ、まあ。 おい、三人とも、やっちまえ」


3人が呼吸を合わせて、こちらに迫ってくる!

だがこっちは格闘映画を山ほど見てるんだ! 悪役の動きもマスターしてる!


「アチョー! ってあいたぁ!?」


ナイフ使いの喉元を突く、がそれをナイフで受け流され、逆にそのままナイフでのカウンターをもらう。

右腕の筋を断ち切るような一撃は、リアルの私の右腕にも軽い電流が走る。


「ぼえぇ!」


格闘家が腹部に掌底打ちはなんとか棒で防いだけど、腹部の電流が気持ち悪い!


「──っ!?」


ヘリコプターの如く回していた槍使いはその円運動を利用して強烈な一撃を私の左肩に見舞ってみせる。

電流は流れないが、左肩が槍に突かれている感触はあんまりよくない!


「ぐえぇ、なんか強くなってるぅ!」


「よし、とどめを刺してやれ。 ここでもPKした奴にはゴールドをたんまりくれてやるぞ!」


「よっしゃ、俺一番乗り!」


ナイフ使いが意気揚々と突っ込んできます。


ああ、もう私はおしまいです。

PKがあるMMOって知ってたけど、ここまで治安が悪いだなんて思ってもみませんでした。

リスポーン地点どこにしてたっけ、装備もお金も奪われるだろうし私はどうやって生きていけばいいのか。

ひー君のお金でなんとかすればいいかも!うんそうだそうだ、後でちょっと分けてもらおう!


さて今後の事も決まったところで、目を瞑り電流が流れる覚悟をする。

一瞬見えた白い一閃は私の命を絶つだろう。


ゲームーオーバー!


───────────────────────


ガーディアンの攻撃、ナイフスキンに99999ダメージを与えた。


ナイフスキンは死体も残らず四散した。


───────────────────────


……オーバー、キル?


流れない電流と、流れたログを不思議に思い目を開ける。

目の前にいた男は消え、代わりに眩い白が立っていた。


『……』


威風堂々たる姿はまさしくガーディアン!

しかも、背格好からしてお礼を渡すって言ったのに逃げたガーディアン!


「……はっ? おい、なんでガーディアンが出てくるんだよ!」


「ナイフスキン、いい奴だったよ……じゃねぇ! 仇は取るぜ!」


眼帯の男が慌てふためくが、ルーキー呼ばれた1人は違うみたいでその自慢の拳を構え突撃する。


「おい、馬鹿やめろ!」


眼帯の男が静止しようとするが、すでに格闘家はガーディアンの攻撃範囲の中に入ってしまった。


『……』


「ふっ、甘いぜ!」


ガーディアンが縦振りの白い一閃を放つ。

だが、格闘家もそれを予見していたようで剣の腹を叩くようにそれを受け流した!


───────────────────────


ガーディアンの攻撃。

オッスはスキル【受け流し】を使用! ダメージを50%減少!

オッスに49999ダメージを与えた。


オッスは死体も残らず四散した。


───────────────────────


格闘家は血飛沫となって消えた。いい人じゃなかったけど、格闘映画が好きそうな人でした。

うん、というか意外とグロい! 本当に死んでないとは分かってるけど、グロテスク!


「だ、だ、だ、だ、団長! あれなんですか!」


「ガーディアンだ! ステータスカンストの化物野郎でPKの天敵だ!」


「お、お、お、お、俺、どうすれば!」


「とにかく逃げろ。 ダメージがでか過ぎて、死体も残らねぇ死に様(オーバーキル)にしてくる。

 所持品も金も全部ロストだ! 早く逃げろ!」


その言葉を皮切りに槍使いは、一目散に逃走を図る。100メートル走11秒フラットくらいの速さかな。


『……』


私の白き守護者は、足元の手ごろな石を拾う。

それを手元で弄んだ後、軽いスローイングで槍使いに放る。


───────────────────────


ガーディアンの投擲攻撃、ヤリブスマに99999ダメージを与えた。


ヤリブスマは死体も残らず四散した。


───────────────────────


今度は目を瞑って、四散したところは見ないようにした。私賢い。


「……畜生。 あのSNSの情報ガセだったのかよ! ルーキー3人分の金、結構出してやったんだぞ!」


「私のガーディアンに恐れ入ったか。 じゃなくて、あなたは逃げなくていいの?」


流石に四散する死体は見たくないので逃げるのを促してみる。

見た限りではあの3人よりもレベルは高そうな眼帯の男、頑張れば逃げられるかもしれない。


「はっ、俺は今回PKはしてねぇ、ルーキーに経験を積ませたかったからな。

 それにガーディアンは基本的に現行犯しか処罰できねぇから、俺は見逃される」


「ああ、だから指揮だけ出してたんですね。 ……でも、ガーディアンさんに思いっきり見られてますけど」


「はっ?」


『……』


眼帯が何をふざけた事を言ってやがるという顔で、ガーディアンに視線を合わせる。

ガーディアンの兜の奥に光る赤い瞳は、眼帯男をしっかりと捉えていたのでしたまる


「おいおい、おいおいおい!! マジかよ! やめろ! 俺、ギルドの家の鍵とか持ってきちまったんだぞ!」


ガーディアンの視線に気付いた瞬間、全速力で逃げる眼帯の男。100メートル走9秒フラットくらいの速さかな。


『……』


気が付けば、目の前にいたガーディアンは眼帯の男の逃走経路上にいた。100メートル走1秒もかかってないかな。


───────────────────────


ガーディアンの攻撃、デビルに99999ダメージを与えた。


デビルは死体も残らず四散した。


───────────────────────


あまりの速さに目を瞑るのが間に合わない! ちょっと気分が悪くなりました。


『……』


白い救世主は、私の元へと歩いてくる。

ああ、次は私の番かぁ。 私悪い事したっけかな。

そういえば、さっきの3人組にも攻撃しちゃったしそれかな。

結局ひー君に金の無心をするルートに変更はなかったみたい。


さよなら、ひー君のお金。 さよなら、私の体一号。


そして、ガーディアンの白い手甲が私の頭へ……。


───────────────────────


ガーディアンはアイスの頭を小突いた。


───────────────────────


「あれ、死んでない!」


小突かれた頭に手を当てる。ダメージがないという事は感情表現(エモート)だ。

いや、そもそも小突かれた理由が分からない。


『《守護者招来(ガーディアン・コール)》は1度だけでいい』


「へぇ?」


『何回も《守護者招来(ガーディアン・コール)》は必要ない。 分かったか』


「は、はい! ごめんなさい!」


多分、悪い事をしたのだろう。 だから頭を下げて謝る。

それに満足したのか、ガーディアンは踵を返して立ち去ろうとする。


ってそうだ! 忘れてた!


「あ、ま、待ってください!」


『なんだ』


「はい、これプレゼントです!」


森の中で見つけた花畑の花を集めて作った花冠を、白き兜の頂点にそっと添える。

ガーディアンを


『……お』


「お礼はいいですなんていいんです! これはお礼というか押し付けっていうかそういうアレなんで!」


『……』


そう、これは自己満足。 お礼でもなんでもなくて、私がこうしたいからしたのだ。

私とそう変わらない身長に、甲冑で反響していても分かる女性の声。

私は彼女に文字通りの花を持たせてあげたかっただけ。だから、これはお礼じゃない。


「私は……そう、この世界ではアイスっていうの! あなたのお名前は?」


白き甲冑のガーディアンはしばらく悩み考え。

花冠を触り、溜息をつきながら困った声色でこう答えた。


『サーティン』


※※※※※※※※※

某SNSサイト


デビル@エデオンPKギル長  0分前

明日サービス開始記念イベントが始まりますが、

オープンから引き継いだアイテムロストしたので引退します。

ギルドも家の鍵をロストしたため、解散します。


デビル@エデオンPKギル長 1時間前

拡散希望! エデオンのガーディアン無力化の方法!

ガーディアンに「困った」って返答するだけで、

ロジックエラー起こして何も出来なくなる!

うひょー、これからPKしまくりじゃねぇか!

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