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最強騎士とワイルドハントクエスト

「じゃ、じゃあ、復唱し、して」


「私の"でーた"がどうやら"ばぐ"ってしまったので、敵を攻撃すると四散します。どうか気になさらないでください」


「う、うん。 そ、それである程度は誤魔化せる、と思う」


グランレイスに到着した翌日の朝。村の外。

ネクロの指導のもと、私は嘘を吐く練習を行い、ついでに冒険者としての必要な知識や単語も教わっている。


なぜ、私が嘘を吐く必要があるのか。

なぜ、冒険者として知識が欠片もないのか。


そんな疑問に思って当然のことを彼女は深く聞かず、笑みすら浮かべながら私に接してくれる。


底無しの善人か、それとも私を利用する悪人か。

そんな疑念すら消し飛ばすほど、彼女の献身さは心を許してしまう。第一印象はゴースト、第二印象は闇夜を払い道を照らす火といったところか。


「あっ。 そ、そろそろ時間の10時。 い、行かないと」


ネクロがインターフェースを開き、時刻表示の欄を指差す。


「ああ、すまない。 時間を使わせてしまったな。 また教えてくれると助かる」


「う、うん。 や、役に立てるのなら、わ、私も嬉しいから」


目をつむりながら、必死に口角をつり上げる。犬歯をむき出しにしながら、まるで獲物を前にした猟犬を思わせる表情。

うん、ネクロの笑顔は凶悪であると伝えるのは次の機会にしておこう。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「皆、よく眠れたか! それでは作戦概要を説明する!」


グランレイス村の神の家の前にて、指揮官のジステルが棒切れを携えながらそのたたずむ。彼女の堂の入った姿と遠くまで響く清涼な声にガーディアンの面影を感じさせる。


「まず、今回の作戦は防衛戦だ。クエストが始まるとグランレイス村の周囲から死霊が集まり、徒党(ととう)を為してなだれ込んでくる。 クエストをクリアするには死霊を全て倒すか、塔の中で祈りを捧げる聖女リリの浄化時間を稼ぐこととなるが今回は安全を考え後者のクリア方法を実施する! そのため、防衛線を三つ設けて、敵方が塔に1体も入らない状況を作る」


ジステルが、地面にグランレイス村の簡略図を描くと四方の入り口と思われる箇所に丸を付ける。


「まず、石壁に囲まれた四方の出入口。 ここを第一防衛線とする。 ベータテスト勢の前衛後衛職、初心者の前衛職がここを担当し、村へ侵入するアンデッドたちを殲滅してもらう。 長期戦となり疲弊した者が出た場合は、第二防衛線まで下がり他の者と交代して休憩を取るように」


続いて、村内部の塔へ続く十字のような道の中程に丸を付ける。


「この中程が第二防衛線だ。 過去の経験からアンデッドたちは石壁や家を通り抜けることはできない。 そのため、基本的には第一防衛線で殺し損ねて通り抜けてきたアンデッドを処理する。 ここの担当は初心者の後衛職と補充要員に任せる。 安全だからと言って気を抜かないように」


最後に、塔の中央に丸を付ける。


「そして、この塔が最終防衛戦。 聖女が祈祷している中にアンデッドが入ればその時点でクエスト失敗だ。 また、塔は登って周囲を見渡せるため、指示役として私と伝令役4人を配置する。第一第二防衛線が持たない場合は、この最終防衛線にまで下がること。 作戦の概要は以上だ。人員配置に関してはこちらが決めさせてもらう。もちろん、要望は受け付けるのであらかじめ申告すること! 他に何か質問があるものはいるか!」


ジステルの言葉に、皆一様に沈黙する。

それを肯定と受け取った彼女は、剣を地面に突き刺す。


「では、解散!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


以上の作戦概要を聞いて、ネクロが要望を出した配置は第一防衛線の南口だった。

ジステルもネクロの配置要望に納得していたようで、希望通りの配置となったわけだが……。


「やけに、人がばらついているというか、なんだろうな個性的な面子が多い」


第一防衛線である出入口にほど近い街の外で、同じ配置となった者を見てそんな感想を抱く。

剣を振り回しながら狂ったように笑う者、ニ三人で固まり防具のみを身に着ける者たち、豪華な衣装を纏い高らかに笑う者、黒ずくめの異国の服を纏い忍ぶ者等々、視界や聴覚から得られる情報量(あつりょく)があまりにも多い。


「南口を選んだ理由がなんとなく分かってきた気がするが、一応聞いてもいいか?」


「み、南口が大墓地から最も離れている場所だったから。 ほ、ほら、北口の方向が大墓地がある場所」


「王国中の死者が眠っている大墓地か」


「う、うん。 アーカナ大墓地が北にあって、そこから死者が一気に雪崩込んでくるから北側は上級者やパーティが揃っている人たちにま、任せるの。 そ、それで、その逆の南口が一番安全なところだから、個人参加や協力が苦手な人たちを集めたの」


「……しかし、それにしても個性が強い」


個性だらけの笑い声や叫び声が木霊する南口。個性派集団の士気は高いようだが、個人参加と思われる普通の人々は個性派集団や今回のクエストの重大さに気圧されて委縮しているようだ。集団としての戦いが出来るのかは未知数。


「な、何かあったら、わ、私がサポートするから。 こ、これでもパーティ必須のダンジョンをひ、1人で攻略したこともあるから!」


ネクロがえっへんと胸を張り、自慢げに眉を吊り上げる。彼女にしては珍しく強気な姿勢であった。


「では、その言葉を信頼して、ネクロの華麗な活躍に期待しよう」


「えっ、あ、あ、そ、そんなに期待し、しないでくれると嬉しいかなぁ……」


「冗談だ。いや、信頼しているのは冗談ではない。 ネクロが活躍するような事態には私がさせないという意味での冗談だ」


鞘からアダマンタイト製の剣を引き抜き、疑問符を浮かべるネクロに微笑みかける。


そして、それと同時に塔からひときわ大きな笛の音が聞こえてくる。

正午の時間となったことを知らせる笛の音に、その場の一同が警戒するように周囲を見渡す。


「く、クエストがは、始まった!」


「死霊たちがここになだれ込んでくるだけならば、私の剣の錆に───」


「アアアアア!?」


ふと、誰かが悲鳴のような声をあげる。


いや、眼前の状況を目に収めれば、誰でも悲鳴の一つや二つをあげてしまうだろう。


目の前には、穢れた大地で荒廃した土地が広がっているはずだった。


しかし、そこに真っ白な絨毯が敷かれていた。


白い絨毯は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


目を凝らして、その白い絨毯を見やれば、それが膨大なゴーストの群れであることに気が付く。


一、十、百、千、万と数えるのすら馬鹿馬鹿しいほどのゴーストの群れが、若干30名ほどの人間が守る小さな出入口を目指して進軍している。


そんな光景を漠然と見た私が思い浮かべたのが、

死霊たちが狩猟するために大移動すると言われるワイルドハントの伝説の言い伝えだ。


曰く、その一団を見た者は死を免れないと。

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