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最強騎士と新たなクエスト

『僕は魔王を裏切りたいんです。 そのために協力していただけませんか?』


『協力していただけるのなら、僕も冒険者や市民を襲う真似はしません』


『取引です。 あなたは魔王を倒す殲滅者(デストラクター)として、僕はこの街を守る守護者(ガーディアン)として協力し合いましょう。お姉さん』


 あのサタンとの一方的な交渉から一晩が経ち、王都の帰路の中で自分の選択は正しかったのか思い悩む。


 私は首を縦に振ることにした。サタンは私を利用する気だ、魔王を倒した後に何か行動を起こすことは明白。

 だがしかし、この混迷の世の中で我が故郷を守るという約束、そして魔王を倒すために必要な情報提供。

 父上と、そして村の皆。彼らは私にとって自分の命よりも大事な存在。

 敵方の甘い誘いに乗るには十分な交渉材料だった。


 利用するつもりならば、こちらも利用すればいいだけのこと。

 ひとまず、”自分が元守護者(ガーディアン)であることを知られてはならない”という約束は守らなければならない。



「それで、どうやって殲滅者(デストラクター)から逃げきったんだ?」


「あー、うん。 敵が油断していたところをツリスキー殿を背中にしょい込んで逃げた」


「……本当か?」


「ウン、ホントホント」


 私は嘘が下手であった。声が上ずり、視線がしどろもどろになる。


 ストーラが老人──名をツリスキーと呼ぶらしい──を背負いながら、明らかに動揺している私に疑惑の視線を向ける。

 私もそんな視線に耐えられずに目線を逸らす。


『ソラモンを倒したことは何とか嘘を吐いてぼかしてください。 僕もそれであなたが守護者(ガーディアン)であるが分かりましたから』


 駄目だ。そもそも私は守護者(ガーディアン)で求められれば正直に答えてきた存在だ。

 ぼかすくらいならできるが、嘘を吐けというのは荷が重すぎる。


「もー! ストーラ! 駄目ですよ、サテンちゃんをいじめるなんて! この子だって命からがら逃げ切って腕と足が一時的麻痺したくらいなんですから、生きている事を喜ばないと」


 大男シデンが私に抱き着きながら頭を撫でてくる。

 男に抱きしめられているというよりも、まるで母に抱きしめられている感覚である。

 シデンの母性の発露なのだろうがゴツゴツとした筋肉がむさ苦しい。そして、その優しさが私の心をぎゅっと絞めてくる。嘘を吐いてすまない。


「いや、まぁそれは分かってる。だけど状況をよく知るのはゲーム攻略の上で重要なんだよ。 あとその姿で女性を抱きしめんな。 セクハラになるだろ!」


 そんな姿を見たストーラは緑髪の頭を掻きながらあきれ顔をする。


「いーいーかーら! ほら、慎重かつ迅速に王都に戻りますよ!」


 なんとか窮地が去ったようで一息つく。

 今後はそもそも嘘を吐かないように誤魔化す方向でいかなければならないだろう。



 テッド村に向かっていた時とうってかわって喧騒が響く帰り道だが、

 テッド村から王都までのアーカナ大森林地帯のコボルトがいなくなった"らしい"。

 "らしい"というのは途中まで街道から逸れて慎重に進んでいたところ、他の冒険者に遭遇してコボルトが別地域に移動しているのを確認したという情報をもらったからだ。


 あの殲滅者(サタン)が根回しをしたのか、それとも殲滅者(ソラモン)を倒した影響か。

 ひとまず、アーカナ大森林は安全地帯となり以前のような冒険者の活気があふれる場所となったのだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 王都に到着した私達は、異様な光景に直面する。


 死生石。人の運命を左右されると信じられる石柱で、王都だけならず街や村、他の国々でも配置されている一種の縁起物。冒険者は"ホームポイント"と呼称している。


 その周囲で、人が大勢倒れてい。無造作ではなく並べられた老若男女の者たち、その服装と耳飾りを見れば冒険者であることは即座に理解できた。


「デスペナルティってのは精神だけをぶっ壊す。 くっそ、身体があるだけマシってか」


 ストーラが怒気を含んだ言葉を吐き捨てる。

 倒れた彼らには表情はなく、呆けているように口を半開きにして、まどろんだ瞳が虚空を見つめている。私が助け、ストーラが抱えているツリスキー殿と同じ状態だ。

 身体は生きてはいるが、精神が死んでいる状態とでも形容すべきか。私も一歩間違えればああなっていた可能性がある。


「痛みによるショック死、はたまた脳が負荷に耐えきれなくなってしまったのか。 どちらにしろ、あまりにも惨いです」


「……魔王がいる限り、この状況はいくらでも起こり続けるか」


 生ける屍(ノンデッド)の山を見ながら、心の内に悲しみが広がる。

 赤い空の下で地面で横たわる彼らもきっと魔王を打倒しようという強い決意があったに違いない。

 せめての慰めとしてしばし黙祷を───。


「ファイ君! このプレイヤーさんはどこに運べばいい?!」


「もうそろそろホームポイントから出て道に出そうだな……。 山積みにするのもいけねぇし、とりあえず壁に腰かけてもらえ!」


「アイアイサ-!」


 聞き覚えのある声がする方向を見れば、花冠を送ってくれた少女と兎を狩りつくしていた少年の姿が見える。たしか、アイスとファイアターボと名乗る冒険者だ。


「あれは、倒れた人を並べているのか」


「無造作に置かれてたら可哀そうってか。 良いガキチョ共じゃねぇか」


「ああいう子達を守らなきゃ、ですよね!」


 この惨状の中で彼らの小さな善意は眩しく輝いているのを三者ともに感じているだろう。

 彼らの善意が踏みにじられないようにするためにも、私は一刻も早くこの事態を収拾せねばならないと心に決める。


「それじゃあ、サテンとはここでお別れだろうな」


 ストーラが緑髪を傍目かせながらこちらに振り向く。

 そうだ、我々が協力関係(パーティ)になったのもあくまでテッド村へ知人を捜索するまでの話だ。

 故に王都へ帰還した今、彼らとは赤の他人に戻るだけだ。


「俺たちは自分のギルドハウスに戻る予定なんだが、サテンはこれからどうする?」


「これからは、自分なりに情報を得ようと思う。 積極的にクエストなどを受けるつもりだ」


『近々冒険者たちへ大きなクエストがあります。 それに参加してください。勿論、守護者(ガーディアン)であることは隠してくださいね』


 サタンからの情報を信に置くのあれば、魔王への情報を得る為に大きな依頼とやらに参加しなけらばならない。具体的な情報は一切不明だが、守護者(ガーディアン)を隠し通しながらでもクリアできるクエストであることは間違いないだろう。


「そっか。 俺たちも爺さんをギルドハウスに寝かしたら、冒険者集会所でクエストをいくつか受けるつもりだからよ」


 ストーラが片手を差し出す。私もそれに応じてその手を握りしめる。


「何かの縁であったら、また会おうぜ!」


「また会いましょう!」


「ああ、また会おう」


 ウィンクをしながら乱雑に上下へ握手をした後に、ストーラとシデンは去っていく。

 冒険者という存在は多種多様だが、ストーラとシデンは信用に値する人物であると感じた。だが、ストーラの可憐さと粗暴さのギャップとシデンのスキンシップの近さだけは慣れが必要だな。


「さて、クエストとやらがいつ来るか分からないが、冒険者集会所にでも───」


「冒険者様! どうかお助けください!」


 冒険者集会所へ足を進めようとした私の足を止めるように少女の声が響く。辺りを見回せば、死生石にいつの間にか髪を二束に縛り上げた茶髪の少女が懇願するように祈るようにひざまずいていた。


「私は王都大礼拝堂を管理するリリと申します! 死者の安寧を守るグランレイス村に危機が訪れております! どうか、どうか、私の願い(クエスト)を叶えてくれませんか!」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 冒険者集会所備え付けの掲示板

 title:第一回アーカナ大森林地帯攻略スレ vol.05


 ジステル ギルド【ゼロの従者たち】ギルドマスター

『コボルドの残党を殲滅してアーカナ大森林地帯の安全は確保した。

 だがこちらのメンバーを複数人失ってしまった。

 ホームポイントに帰還したことは確認したが、精神を喪失のような有様になってしまった。

 すまない、私が指揮していたというのにこのような無様を晒してしまって……』


 ファイアターボ ギルド【所属なし】

『ジステルさんのおかげで多くの初心者が命を救われたんですから落ち込まないでください。

 ひとまず、俺たちはホームポイントに帰還した方々を寝かせてやります。

 お金がないので宿屋ってわけにはいきませんが、せめて山積みのような形にはしたくありませんし』


 ジステル ギルド【ゼロの従者たち】ギルドマスター

『すまない、助かる』


 匿名希望

『そういえば、人間が消える件って途中で起こらなくなったけど、

 天変地異夫婦がテッド村に行ってたって目撃情報あったし、もしかしてあの二人がなんとかしてくれたりしたのかな?』


 匿名希望

『それは二人がやってそうだな。 あいつら二人がいてくれたら攻略ももう少し早く進んでたりして』


 匿名希望

『ばっかお前、あいつら相手に連携なんて取れるわけないだろ!

 あの夫婦が何回災厄な事態を引き起こしたと思ってんだ!』


 匿名希望

『特に聖女事件はインパクトあったよね。 あの場に居たけど、あれは逆に爽快だったわ』



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