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最強騎士 対 始源の魔術師

 

「こういう仕事、初めは嫌々だったんですよ」


ソラモンが白蛇が(うごめ)く顔で悲しげな表現を作る。


「人をいじめるより、好きな魔法を見つけて延々と試していたいんです。知ってましたか、この世界には創造(クリエイト)魔法なんてものもあるんですよ。それがまた美しくて、ああさっきの文字とかもその一種なんですよ。本当に試しているだけで時間なんてあっという間に過ぎるんです」


言葉は淡々と、しかし詠唱のように息を挟まずに紡いでいく。


「だけど、拒否したら私死んじゃいますので、しょうがなく引き受けました。ただ、場所は分かりづらい所を選んで、怪しい黒い雲を村とか海岸に発生させて出来るだけお仕事しないような環境を作ったんです。……同僚には怒られましたけどこれで誰も来ないだろうと安心してたんですが」


その溺死体のように白く濡れた足を一歩進める。私はそれに合わせて一歩退く。


「いやぁ、来ちゃったんですよね、人間。ただで帰すと同僚に告げ口されるし、そうすると魔法も試せない。ですので、仕方がないのでお仕事しましたよ。でも、嫌な仕事はしたくないので」


にこりと人間の皮を歪ませて、笑ってみせ。


「楽しめるように、自分を変えました」


喜色を帯びた声色と共に、早回しの詠唱が紡がれる。身構える間も与えられず、ソラモンの白杖から雷撃が放たれる。


「───ギィ、アァッ、ッッッ!!!」


雷撃が私の体を貫けば、抑えきれない苦悶の声が漏れる。皮膚や内臓に熱せられた棘が突き刺さりえぐるような感触。ぽたりぽたりと脂汗が地面に滴り落ちる。


痛い、痛い、痛い、痛い。


自覚すれば、全身から痛覚が訴えかけてくる。

守護者(ガーディアン)の誇りや人間性を捨てた無様に泣きわめけと。

痛みが心を蝕む感覚、怒りや悲しみといった奮起する感情すら潰える。ただ、この痛みから逃れたいと思考してしまう。


「いやぁ、それにしてもよく耐えますね。死なないように加減しているといっても、殲滅者(デストラクター)である私の『白雷魔法ホワイト・ライトニング』を二回食らってもピンピンしてるとは」


雷撃を放つのをやめたソラモンは嬉々として声色でこちらに語りかける。愉快な玩具を見つけた子供のように純粋で無垢な声は、私の心をさらに蝕んでいく。

そんな私の心など知らぬとばかりに、ソラモンは宙に青白く光る板を出現させる。


「ふふふ、このゲームにはですね、あまりにも凶悪な効果のために禁止された魔法が数多くあるんですよ。禁術?禁法?まあ、どちらでもいいですか。いいですよね、禁断の魔法って響き、ロマンって奴がありますよね」


すらすらと言葉を重ね隙をさらすソラモン。絶好の機会のはずなのに手足が動かない。

これは恐怖だ。守護者(ガーディアン)たる私が、災厄種(ドラゴン)や数多の魔物と剣を斬り結んできた私が、たかが痛みに怯え怯んでいる。目の前の魔物に怖じ気づいている。


【おいおい、最悪の処刑者様と最高の聖職者様がこんなところで膝を屈するのか?】


無様だな、とトゥエルブが嘲笑う幻聴が聞こえる。

その軽妙で人でなしの声で、私の心に多少の奮起する気持ちが湧いてくる。


そうだ、せめて、ストーラやシデンにこの危機を知らせなければならない。小隊通信魔法(パーティチャット)を───起動せずにソラモンを睨む。


「ふふふっ、流石に一度やればお分かりですか。今チャットで発言しようとしてましたよね? この世界において、チャットも魔法の一種、すなわちそれは私のユニークスキルの餌食となるんですよ」


三角や四角等の図形を複数組み合わせて作られた魔方陣、それらを無数に展開してせせら笑う。


「ユニークスキル『始源の(ワン・オブ・)魔術師(マジシャン)』。魔法であるのならば全てを操作することができる魔法の神といっても過言ではないスキル! 魔法の抵抗も許さない、他者の魔法行使も暴走させて無効化する、そして私はこの世界に存在するありとあらゆる魔法を行使する。これであなたとの戦力差というものがお分かりでしょう? そう、あなたはソラモンというこの世界で最強の魔術師と戦おうとしているのです!」


「ハハ、ハハハッ」


そんな自信ありげなソラモンの言葉に、乾いた笑い声が漏れる。


「おや、何が面白いので?」


「お前の話が長すぎて、下らなかった」


「──では、禁術の実験体になってもらいましょうか」


ソラモンの手に不気味な魔力が光となって集まると、光は波となり私の身体を覆う。

瞬間、私の全身が抵抗できずに浮かび上がると、天井に磔となる。


「ぐっ……?」


私は痛みを覚悟し身を縮こまらせる。しかし、不思議と痛みはない。

磔にされている圧迫感はあるものの、むしろ心地よい浮遊感が全身を包む。


「フフフ、これが世界を破滅させたと言われる禁術、『浮遊歩行魔法(フロートウォーク)』!!

 私も魔導書の注釈を見た時には心底恐怖した魔法ですよ! さぁ、苦しんで見てください!

 どうですか、世界を滅ぼす魔法のお味は!?」


ソラモンが得意げに小躍りを始めると、顔の蛇も乱舞するかのように踊り狂っている。

幸い、禁術を使用したという事に浮かれているようで、こちらの様子に気付いていない。


今ならやれる。

──もうあの痛みは味わいたくない。


腕は動く、剣を投げて当てればこの魔法も解除されるはずだ。

──痛いのはいやだ。このまま騒がずにいよう。


「……ッ」


邪念が邪魔をする。弱気が私の前進を止めようとする。

私は、私に失望した。私がこんなに弱虫だなんて知らなかった。


──仕方がないことかもしれない。体中に熱を帯びた棒を突き刺され内臓を抉るような不快感と目の前が真っ白になる程の衝撃。一度体験すれば、二度も三度もやられたくはない。


──天井から落ちて、あそこにあるボロ雑巾のように黙って蹲っていればいい。


ああ、そうかもしれない。 あのボロ雑巾のように、黙っていれば死んだと思って攻撃をしないかもしれな──



「……ぁ」


"それ"を視認し"それ"が何かを知覚した瞬間、意識が鮮明になった。

痛みで麻痺していた思考を跳ね除け、全身に力が入る。


そして、胸の中から自らを焼き焦がすかのような憤怒を覚えた。


怒りが口から吹き出しそうになり、こらえるため歯を噛みしめる。

歯が軋みをあげ、頭に血が上るのを感じた後、全身を包んでいた浮遊感がなくなる。

天井から落下し、床へ無様に叩きつけられる。


「うーん、これが世界を滅ぼした魔法でしょうか。 ただ空中浮遊して落下して終わり?

 もしかして、別の近い道がある? 興味は尽きませんが別の魔法を調べている方が有用かもしれ──」


「──おい、ソラモン。 その"死体"はなんだ」


私は無様に転がっていた身体を震える四肢を使って起き上がり、ソラモンの言葉を遮って強い口調で尋ねる。

ソラモンの顔の蛇が威嚇するようにこちらを口をあげる。


「おや、まだ喋れるんですね。 その強靭な精神に免じてお応えしますと、別に"これ"は死体ではありません」


ソラモンがボロ雑巾を掴み上げる。


否、ボロ雑巾にされた老人だ。


「洞窟に入ってきちゃった初めての人間ですよ。 初めての相手でしたから、かなり加減したのですが私の魔法4発でこれですよ。 激痛に耐えきれなくなったのか、なーんの反応もなくなっちゃいました」


そういって、ソラモンはゴミを捨てるかのように老人を投げ捨てる。


「まあ、実験体1号ってところですかね。 あなたもすぐに彼の後を追わせてあげますから心配しないでください」


流れるような詠唱と共に再びソラモンの白杖から雷撃が放たれる。

肉を焼き尽くすかのような痛みが絶えず全身を貫く。


"だが、そんなものは今はどうだっていい"


「"我が民に危害を加えたな"」


守護者(ガーディアン)として授かった王命である『民に危害を加える者を討伐せよ』。

その命令が私を突き動かす。肉体が苦痛を感じようとも前進をやめない。


視界は赤く染まり、敵対者であるソラモンを睨みつける。

身体中に力が漲り、精神も猛り狂い、俯瞰している私がそれらを束ね制する。


「おや、人間は痛みでショックで死んでしまうと言われているのに、本当に強靭な精神の持ち主ですね。では白雷よりも上の魔法を見せてあげま───」


一閃。


戯言めいた隙を見逃がさず、間髪入れずに剣でソラモンを切り裂く。

だが、妙な感触と透明な板のような何かが砕け散るだけで肝心のソラモンには傷一つ入らない。


「速っ! びっくりした! ステータスが相当高そうとは思いましたが、私ですら反応が遅れる速度ってなんですか! 事前に神域(サンクチュアリ)魔法(アーマー)かけてなかったら一撃もらっていましたよ!」


神域(サンクチュアリ)魔法(アーマー)。ワンの御老体に聞いたことがある。

あらゆる攻撃を一度だけ無効化することができる魔法。


確かに厄介だ。


「しかし、残念でしたね。あなたがどんな攻撃を行おうとも、『始源の(ワン・オブ・)魔術師(マジシャン)』による権限で重ね掛けした神域(サンクチュアリ)魔法(アーマー)の前───」


だが。


種が割れれば、大したことはない。


────────────────


 サテンはスキル『剣々多々』を使用!

 攻撃力が極めて低下する代わりに、次の攻撃がDEXに応じた攻撃回数になる。

 

 サテンの攻撃!


────────────────


一閃足りねば、二閃。

二閃足りねば、三閃。

三閃足りねば、斬れるまで斬り続ける。


それが私の剣術。


「───ではどんな───」


斬る。


「───攻撃も───」


斬る。斬る。斬る。


「───無効化───」


斬る。斬る。斬る。斬る。


「───するの───」


斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。


「───DEATH?」


数えて100001回目の攻撃で、斬撃がソラモンの身に届く。


攻撃の威力を度外視したガーディアンの剣撃(ごりおし)

しかし、その攻撃で最強の魔術師の身は大きく切り裂かれ、辺り一面に真っ青な血を広げる。


「いいいいいい、痛いぃいぃいい!!!!?わ、私の身体が、き、きら、斬られて!?わ、私の痛覚、痛覚がなんで働いて!?? い、いや、違う。なぜ、攻撃がと、届いて!?!?」


慌てふためき、斬られた箇所を抱きしめるように蹲るソラモン。

先ほどの私のように痛みで身悶えし、叫び声をあげながら愚かしく地面に伏せる。


「"民に危害を加えた愚かな魔物よ"」


一撃を入れて殺せなかった者がいたというのは生まれて初めての経験だった。

だから、これはソラモンへの敬意であり慈悲である。


剣を両手で持ち、罪人の首めがけて振り上げる。


「や、やめ、やめてぇ!!! 殺されたら痛みで私のデータが破損して!! こ、殺さないでくだ」


「"安らかに死せ"」


白蛇の魔術師は、死体も残らずに四散した。



※※※※※※※※※※※※※※※

『痛覚刺激』

殲滅者(デストラクター)のスキル。

ダメージに応じて痛覚のフィールドバックを大幅に上昇する。

これは殲滅者(デストラクター)自身にも適応される。



始源の(ワン・オブ・)魔術師(マジシャン)

魔術師の(マジシャン・オブ・)始め方(ワン)というユニークスキルを現ゲームマスターが改造してソラモンに授けたスキル。

ありとあらゆる魔法を管理するものであり、他者の魔法の発動を阻害する、魔法詠唱のゼロ秒にする、魔法のレジストを不可能にする、重ね掛け不可に設定してある魔法も重ね掛け可能にするなどゲームの根幹を覆すスキル。

その能力でゲーム開発者がお蔵入りにした魔法も使用できるが、

肝心の用途はゲーム開発者が記載した仕様書(まどうしょ)の範囲内のみでしか理解できない。

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