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守護者と殲滅者の邂逅

「……サタンか、そいつは誰だ?」


「ごめんね、お父さん。 僕のお客さん連れてきちゃったよ」


「……そうか」


「うんうん、ありがとありがと。 ごめんね、お父さんちょーっとだけ無口なんだ」


鍛冶屋としての仕事場と売り場を一体化した見慣れた空間の中、

見慣れぬ自己主張の激しい紅玉(ルビー)のような艶と色味を帯びたテーブルに案内される。


父上様の反応は予見していた通りのものだった。

そうであって欲しくはなかったという嘆く気持ちはあるが、

今は目の前のサタンを名乗る少年から目も心も離せない状況だ


この村で、唯一知らない存在が父上様の息子を名乗っているのだから無理もない。

それに先ほどから、サタンは笑みを浮かべながらこちらを凝視している。

端的に言えば、気味が悪い。あのトゥエルブだって、ここまで気味は悪くないだろうに。


どうぞとサタンから差し出された紅茶を受け取りながら、

対面に座る彼の気味の悪い視線を妨げるように本題を切り出していく。


「それで、私を見繕うとの事でしたが」


「ああ、僕ってさ。 弱い奴を見かけるとね、ある程度は強く育てたいタイプなんだよねぇ」


「……?」


「つまり、お姉さんが滅茶苦茶弱そうって話。 まず服装が初期装備って段階で弱そう。

 前のアーカナ大森林ならそれでいけたかもしれないけど今はバージョンアップしてるんだよ?

 よくここまで来られたよね。 運がいいのか、悪いのか。 次に、その剣」


言葉の嵐とでも形容する口の早さでまくし立てられる。


その剣と指し示されたのは鞘に収められたアダマンタイト製の片手剣だ。

煌びやかな白き金属アダマンタイトを白の鍛冶師と名乗る我が父上様に比肩する伝説の鍛冶師が作り上げた一品だ。

美しき刀身は魔物の血で汚れる事はなくその白さと輝きを保ち、その鞘と柄の意匠は王国中に威光を示す誇り高さを兼ね備えている。

私が守護者(ガーディアン)になって王から直々に賜れた剣で、私の命と言っても───


「どこで拾ったのか分からないけどガーディアンの武具ってめっちゃ雑魚いの。

 分かるかな、見た目だけの武器なんだよ。

 貴族が豪奢に着飾る宝石みたいに魔法的な使用も物理的な攻撃もできないのと一緒ってこと。

 ガーディアンはステータスが最高値に設定されているから強いわけであって、

 その武器を使っても君は最強にならないわけ。

 まぁ、でも耐久力は無限だから壊れない武器として使い道がないわけでもないけどお前が持ってても無意味。

 せめて、ブロンズ製の武器くらいにしないとこの先やっていけないよ」


「……」


「それでレベルもーって、ステータスもスキルも見えないじゃん!

 うっわ、あの好き勝手GM(ゲームマスター)、そんなところまで制限してんの?

 どういう割り振りか見たかったけどしょうがない、とりあえずレベルは8ね。

 レベル8までやってきたって事は結構なモンスターを倒したってことだよね。

 そんで何で初期装備に雑魚武器なわけ? 馬鹿じゃん、強くしたくなるわけじゃん?

 そういうわけで、僕が君に直々に装備を見繕ってあげるわけ。

 話理解できた? 理解できなくてもとりあえずこれ装備してって」



テーブルに叩き付けられるように置かれたのはブロンズ製の片手剣とブロンズ製の軽鎧一式。

それを着ろといわんばかりに身を乗り出したサタンが睨んでくる。私は睨まれるがままに軽鎧を身に付ける。


亜麻布の服の上からでも着られるブロンズ製の軽鎧は、腕の可動域を阻害しない作りになっていてその上で軽さと硬さを程ほどに両立している。素晴らしいと評価してもいいかもしれない。


ブロンズ製の篭手や足鎧も同様だ、握る指や足回りは軽やかで全く邪魔になっていない。


「良い装備だ、これを作った職人にはさぞ高名な鍛冶師なのだろう」


「どうも、僕が自作した物だから当たり前だけどね。

 あとそのアダマンタイト製の片手剣、僕が処分しておいてあげるから渡して」


「剣はいらない。 アダマンタイト製の片手剣こそが私にふさわしい」


「はぁっ? お姉さん聞いてた? だから、それは弱いんだって」


「聞いていた。 意味の分からない言葉もあったが概ねあなたの主張は理解した。

 だが、弱かろうが強かろうが、私はこの剣で守りたいものを守り信じる道を切り拓きたい」


サタンの赤く鋭い瞳を、こちらから睨む。

ブロンズ製の武器とアダマンタイト製の武器のどちらが強いかの正当性を求める話ではなくなり、

最早これは私の矜持とサタンの矜持のぶつかり合いだ。


例え、今ここで淡い朱色をした伝説の剣を渡されようが、私はこのアダマンタイト製の片手剣を迷いなく取るだろう。

なぜならば、この剣はガーディアンの証であり、誇りであり、これを手放せば信じてくれていた民たちも裏切ることになるからだ。


そんな私の睨みの意図を汲んだのか、サタンは溜め息を吐きながら身を乗り出していた体を椅子に預ける。


「はぁっ、とんだ頑固者だ。 こだわりみたいな一時の感情に支配されて後で絶対後悔するやつ。

いーよいーよ、分かった。だけどね、とりあえず出した物は受け取ってよね。

 一度渡した物を無碍にされるのは嫌いだから、受け取らないなら処分するしかないし」


「……そう言われてしまえば使わないにしろ、持っていかなければ剣に悪い」


「あぁ、もうせっかく楽しくなりそうだったのに萎えたよ。 さっさとそれ持ってって帰ってよ」


私がブロンズ製の片手剣を背中に背負うと、

サタンは手で追い払う仕草をしながら視線は明後日の方向を向いている。


愛想の良い少年という初対面の印象は崩れ、今では生意気な少年のような振る舞いだ。

猫を被っていたか。いや、最初から隠す意図はなくて最初は本当に親切だったのだろう。

途中から口が悪くなって、何かイライラしているようなのはいささか気になるが。


「いや、尋ねたい事が二つだけある。 貴様は何だ、この村では見かけた事はないが」


「うるさいなぁ……。 僕と君の会話は終わりだよ、終わり。 

 そんなに色々と知りたければ、テッド村の海岸を進んだ先にある洞窟の中に入ってみればいいんじゃない?」


「洞窟? そんなもの聞いた事もないのだが……」


「いいから、帰って! よ!」


テーブル席から立たせられると背中を押されて、無理やり移動させられる。

少年とは思えぬ力に驚きつつも、いつの間にか家の外にまで追いやられる。


「あと一つ、この村に他の冒険者は見かけたなか──」


「そこの洞窟にいるよ!」


壊れそうな勢いで家の扉を閉められる。私の家なのに。

質問には律儀に答えてくれる辺りは、根は悪い奴ではないのかもしれない。


「……何か色々とありすぎて、感傷に浸る暇もなかったが」


そっと耳飾に触れる。ストーラやシデンから連絡は来ていない。

今動けばすれ違う可能性もあるが、今はあまりこの村には居たくはない。

暢気に散歩をするほどの余裕は、状況も守護者(ガーディアン)の職務としても許されないだろう。


それならばやる事は一つ。


「サタン、もしここに二人の冒険者が来たら、私は洞窟にいると伝えておいてもらえないだろうか」


『うるさい、ばーかぁ! 分かったからさっさと僕の前からいなくなれ!』


やはり、とても律儀な少年だ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「はぁっ、もう! ようやく、ここまで来た冒険者第一号がまるで雑魚な上にロールプレイヤーとかさ!

 強者ぶってる虫たちを圧倒的力で蹂躙したいのに! 本当萎える!」


石と鉄の匂いが充満する味気ない仕事場、

その片隅に用意したルビーウッドテーブルに足を放り出しながら、

この胸に充満するムカムカする気持ちを抑える。


「そもそも、なんで守護者(ガーディアン)役割(ロール)を僕が引き継がないといけないわけ?

 【ガーディアンが思いの他ストーリーに関わりがあったから】じゃないよ!そういうの事前に調べろよ!

 ほんと、中途半端なんだよ、あの魔王」


黒髪冒険者が口を付けなかったお茶を啜りながら、

内心のイライラを言葉にして発散する。


……だが、よくよく考えてみると僕の今の立ち位置って、ただ冒険者に助言したNPC(ノンプレイヤーキャラ)だよね。

流石にそれは魔王に叱られる。今の美味しい仕事をやめさせられるのは困る。

あいつも洞窟に行くって言ってたから一応根回しはしておこう。


指を鳴らす簡易詠唱で、映像通話魔法(ビデオチャット)を起動する。

四角い画面が浮かび上がり、こことは違う場所を映し出し、お目当ての人物の顔がドアップで見える。


「おーい、ソラモン。 今大丈夫?」


「おわっ、サタンさんじゃないですか。 突然映像飛ばしてくるのやめてくださいよ!」


腐敗と汚濁を凝縮させたような赤緑色の鍔の広い三角帽子を被り、

顔らしき場所には人の皮のような仮面とその下には無数の蛇が蠢くのが見える。


「うわっ、相変わらず気持ち悪い」


「気持ち悪いって毎回言ってるじゃないですか! これでも結構気にしてるんですよ!」


「うんうん、せめて僕みたいな人型形態があればよかったのにね」


「うぅぅ、プロトタイプだからって扱い雑です! プリーズ、ギブミー! ヒューマンフォーム!」


からかうの面白いなぁ。

ずっとこうしていたいけど、責任をこいつに全て押し付けるのだからさっさと本題に入ろう。


「で、実はそっちに冒険者一人を向かわせたんだ。 お前もご老体の悲鳴を聞くのは飽きた頃合だろうから、後輩として贈り物をしたわけだよ」


「いやぁ、確かに飽きはしてきたんですけどぉ。 それ、サタンさんが役割放棄してるだけじゃ……」


「はぁっ? 僕の思いやりを無碍にするつもり? 殲滅者(デストラクター)の先輩として敬ったつもりだったんだけど?」


「はっ!? サタンさん、私の事をそう思っていてくれたんですね! 

 ごめんなさい、サタンさんを疑ってしまって。ご好意に感謝します!」


「そうそう、じゃあ、後はよろしく」


「はい、このソラモン。 殲滅者(デストラクター)としてプレイヤーに苦悶と痛快を与え、この世に生まれた事を後悔──」


映像通話魔法(ビデオチャット)を切る。

長々と会話して、真意に気付かれるのも面倒だった。

だが、これで後はソラモンが上手くやってくれるさ。


「とりあえず、二人の冒険者が来たら、そいつ等を値踏みしようかな」


────────────────────────────────

GMからのバージョンアップのお知らせ(一部抜粋)


……

・ガーディアンシステムの廃止。

 プレイヤーを守護するガーディアンシステムの廃止されます。


 上記廃止に伴い、ゲーム本編及びクエスト進行に関わる重要NPCが含まれていたためにキャラクターの差し替えを行いました。


・デストラクターシステムの導入

 プレイヤーを虐殺するデストラクターシステムが導入されます。

 

 デストラクターはガーディアンと同等のステータスとスキルの設定がされています。

 また高度なAIが搭載されており、プレイヤーとの会話も可能となります。

 

 発見されれば死ですので、死を回避するための無駄な会話をお楽しみいただければ幸いです。


・チャット機能の制限。


 パーティチャット以外のエリアチャット及び個人チャットは10メートル範囲の名前の知る者同士でしか行えません。


 上記制限実施に伴い冒険者集会所に掲示板設置いたしました。




・ユーザーインターフェイスの制限。


 ステータス、HPやMP等の他者のデータに閲覧制限を設けました。


……


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