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最強騎士、ロールを奪われる

「通常のコボルドスカウトとは違った意匠だったか。 しかし……」


ロープを身に纏ったコボルドが消滅するのを見届けてから剣を鞘に収める。


他愛のない相手、コボルドスカウト以上に脆い相手だったが、最後に見た奴の瞳だ。

あの瞳を見たあの時、何か奇妙な違和感が胸に宿ったのを感じる。

その違和感がどのようなものだったのか確かめようにも、今となっては空を掴むような手ごたえだ。


もう少し生かしておけば何かしらの重要な情報を得られていたか?


────────────────────────────────────────

パーティチャット


シデン :サテンさん、大丈夫ですか!

ストーラ:おい、生きてるのなら返事してくれ!

シデン :どうしよう、サテンさんがどこかに行っちゃったよ!

ストーラ:くっそ、メンバー情報に制限かかってやがるのか。面倒くせぇ!

シデン :HPもMPも見れない! サテンさん、生きてるのなら返事して!


────────────────────────────────────────


気が付けば、耳飾が僅かに揺れ動いて二人の会話が脳裏に浮かぶ。

小隊通話魔法(パーティチャット)は、森林地帯を進む時に使っていたものだ。

瞬時に情報共有が出来、会話の履歴が残るという小隊行動には最適な魔法だ。


私はむしろ履歴を覗く側だったが、こうして扱ってみると実に便利であることが分かる。


────────────────────────────────────────

パーティチャット


サテン :ああ

ストーラ:よかった、無事だったか。

シデン :ううぅ、サテンさぁぁあん! 無事でよかったぁ!!

ストーラ:危険な目にはあっていないか?

サテン :ああ

ストーラ:そうか、それならどこかで合流したいが……王国は見えるか?

サテン :あ

シデン :どちらかというと海岸に近い?

サテン :ああ

ストーラ:分かった、そんじゃあテッド村で合流するか。

シデン :急いで向かうからね! 待っててね!

サテン :ああ


────────────────────────────────────────


頭の中で意識的に"きーぼーど"とやらを連想し同じ文字を二つ使って返答する。


"きーぼーど"とやらの形状と概要は大まかに教えてもらったが、

今のところ使える単語が「あ」くらいなもので二人には迷惑をかけてしまっている。

「ああ」が肯定、「あ」が否定として定義していなければ先の会話でも通じていたどうか……。

いずれ、暇がある時にはきちんと勉強しなければ。


「さて、テッド村は目と鼻の先か」


王国領土の最東端たる海岸が目に映る。

海は見慣れた青ではなく、血だまりのようにどす黒い赤に染められている。

テッド村の周囲には暗雲が立ち込めていて、ここからでは村の様子は伺えないほどに暗い不気味だ。


……故郷の風景が変わってしまうというのは中々に心が痛むものだ。

帝国生まれのスリーやフォウが帝国領地を奪還する為に、

皇位継承権を捨て王国の傘下へ入るという選択をしたのもなんとなく理由が分かった気がした。


「……感傷か。 ガーディアンたるもの、気落ちしている場合ではない」


頭を振って雑念を払い、私はテッド村に向けて歩を進める。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ようこそ、ここはテッド村だよ! 漁村で名高いテッド村は王国随一の漁獲量を誇るよ!」


暗雲の中を突き進んでテッド村の入り口までやってくれば、目の前に村の番兵である小柄な男性が現れ大声をあげる。正直に言えば、驚いた。

どうやら暗雲はテッド村周辺を覆っているだけで、中にまでは垂れ込めていないようだった。


「ああ、なんだモンドか、無事でよかった。 だが、まるで初対面かのような物言いはどうした?」


モンドは私が生まれ私が育った時からこの村の番兵だった男だ。

守護者(ガーディアン)と番兵では地位も力も比べるべくもないが、

一糸乱れぬ直立姿の背中を見て人々の守る盾になろうと考えさせられるきっかけとなった御仁だ。



「ようこそ、ここはテッド村だよ! 漁村で名高いテッド村は王国随一の漁獲量を誇るよ!」


「からかっているのか?  素顔をさらすのは久々だが、私だ鍛冶屋の娘のサーティンだ」


「ようこそ、ここはテッド村だよ! 漁村で名高いテッド村は王国随一の漁獲量を誇るよ!」


「分かった、降参だ。 いい加減に冗談はやめてくれ。

 私がそういう類はあまり好かないのも知っているだろう」


「ようこそ、ここはテッド村だよ! 漁村で名高いテッド村は王国随一の漁獲量を誇るよ!」


「……モンド?」


()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


背筋に怖気が走る。

何かが、違ってしまっている。決定的に。

モンドがこちらを見ている。だけど、それは見ているだけだ。

ただ、私の言葉に反応して返すだけだ、私の言葉の意味なんて理解していない。


「これは……っ!」


モンドが守る入り口を走り抜けて、テッド村の中に入る。

村の中はいつものように賑わいを見せている。だけど、何かが違う。


【よっ、サーティンちゃん。 今日も兎肉入荷してるよ!】

「ようこそ、冒険者さん! この村唯一の雑貨屋だよ!

薬草から兎肉までなんでも揃ってるよぉ!」


【サーティンお姉ちゃん! お友達がいじめてくるの!】

「あっ! 冒険者のお姉ちゃん! 実はメイ、お願いがあるの」


【そろそろ兎肉に飽きて、魚が食べたくならない? ………そっか、飽きないかぁ】

「冒険者さん!いらっしゃいませ! 新鮮で取れたての魚がありますよ!」


私が一介の冒険者であると皆が口を揃える

まるで、サーティンという人物が初めからいなかったように皆が振る舞う。


恐怖は走る速度を押し上げる。

恐怖は未来を予見させる。


村の入り口から、その場所へ一直線に向かう。

漁村であるテッド村に似つかわしくない、煤にまみれた石壁の家。


我が家の経路が、これほどまでに長く重苦しく感じたことはなかった。

頭の中では嫌な想像ばかりが浮かんでくる。どうか、どうか無事でいて欲しいと祈る。


人にぶつかりそうになりながら、村を駆け抜ける。

今だけは村の人々の明るい笑顔が別の意味が込められているように感じられる。


数多の強敵を討ち果たした守護者(ガーディアン)にまだ恐ろしいと感じる心があったのだと、

当たり前のように接して欲しい人間を望んでいたのだと思い知らされる。


そして、大きくもない村を駆け走り、ようやく私の帰るべき場所が見えた。

私の帰るべき場所の前に───知らない人間が立っていた。


「おっと、冒険者さんですか? 王国随一の鍛冶屋へようこそ。 僕は」


知らない人間が抱えていた箱を下ろして、恭しく挨拶をする。

小柄で金髪、年若い少年のようにしか見えない童顔も可愛らしいというよりも"可愛らしく見せている"ような印象を受けた。


「僕はこの鍛冶屋の息子の、サタンというものです。 以後お見知りおきを」


貴様は誰だ、と問うのならば簡単だ。

だけど、その質問を封殺するかのようにその赤い瞳が私を射抜いてくる。

値踏みするように、味見するかのように、じろりじろりと私の全身を眺めてくる。


「わぁ、初期装備でここまで来たの? ほら、中に入って入って、僕が見繕ってあげるよ」


すでに恐怖は感じていない。 今はただ、ただ呆然と。


己の役割を見失った事実を受け入れるしかなかった。


──────────────────────────────────────


某SNSサイト 過去ログ


ござる忍者は最高でござる@エデオン楽しいけど明後日まで仕事でいない勢

『いやぁ、エデオンは今日が初めてだったけど楽しいでござるなぁ!

 でもNPCの反応が雑すぎるでござる。 噂じゃ、AI搭載らしいでござるのに。

 あと忍者の職業はいつごろ解放されるのでござろうか』


正義こそジャスティス@PKKギルド「ゼロの従者たち」ギルド長

『中の人などいない、わけではないがNPC同士のやり取りは充実しているぞ。

 最序盤に訪れるテッド村のNPCなんかはお互いを名前で呼び合ったり会話をして、

 アイテム取引をしているのを見たことがある。


 ただPCが関わるやり取りとなると、AIの思考レベルによっては様々なのだ。

 ガーディアンは高度なAIが積まれて、こちらの反応にも臨機応変に対応してくれる。

 だが村人程度なら村の名前を連呼するとか、その程度の反応しかできんのだ。


 ロールプレイがやりたいのならNPCになって、街娘とか役割(ロール)をもらうしかないだろうな。


 あと忍者の実装は開発者に頼め、要望を出せば大抵はノリノリでやってくれる』


天変地異@夫婦でエデオン勢

『説明お疲れさん。だけど初心者相手に長文ぶつけてどうすんだよ……。

 忍者さんにはダイレクトメールでまとめサイトのURLを送ってやるよ』


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