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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

相合い傘

作者: 環すのこ

「紬、折角早く帰れるんだからどっか寄ってかない?」

「ごめん。天気悪いしパス。それに、一応テスト期間だから家帰って勉強する」

「真面目ちゃんかコンニャロー」


日菜が私を抱きしめて、髪の毛をわしゃわしゃしてきた。


「ちょっ……セットが……」

「アハハ。じゃあね」


言うが早いか日菜は教室から走って出ていった。

日菜とはもう小学校からの付き合いだけど、高校生にもなったんだからいい加減落ち着きというものを持ってほしい。

私は手櫛で髪を整えながら玄関へ向かう。



期末テストが一週間後に迫った。

今日からテスト期間で部活が禁止になる。

部活に入っている人達は、早く帰れるのが嬉しいのか日菜みたいに寄り道して帰るみたいだ。


私と日菜は軽音部に入ってる。

日菜はギターとボーカル。私はベースをやってる。

学校祭でライブできたらやる。みたいなとてもゆるい部活。



外に出ると朝から降っていた雨は止んでいなかった。

まだ降ってるのは窓見て分かってたけど気が滅入る。

思わず溜息を吐いてしまった。


「溜息を吐くと幸せ逃げるよ」

「わっ……理恵先輩」

「『わっ』て……流石の私も傷つく」

「ごめんなさい。驚いちゃって」


理恵先輩は軽音部の先輩。

部活以外であまり会えないので驚いた。


「どうしたんですか」

「後輩がボッチで寂しそうだったから出来る先輩としては一緒に帰ろうかなと」

「わー嬉しい。流石、理恵先輩」

「棒読み……」


嬉しい。凄く嬉しい。

部活禁止だからテストが終わるまでずっと会えないと思ってたから。



でも頑張って棒読みする。

じゃないとバレちゃいそうだから。



私の気持ち。


「まあ正直に言うと、私の傘が盗られちゃったんだよね」

「手に持ってるじゃないですか」


理恵先輩の手にはしっかりビニール傘がある。


「これ、私のじゃないんだよ」


見ててと言って理恵先輩は傘を開く。

よく見ると骨が1本折れていた。


「多分、学校来るときに骨が折れちゃったから、私の持ってったんじゃないかな。迷惑な奴だよ。全く」


理恵先輩は傘を閉じた。


「駅の近くにコンビニあるでしょ? そこまで私と相合い傘をしてくれると助かるんだけど……どう?」




夢。これは夢だ。

だって理恵先輩と相合い傘するなんて。

でも痛いくらいバクバクいってる心臓と、理恵先輩からする柑橘系の良い匂いがこれは現実だと告げている。

心臓にとても悪いので、少し離れる。


「こら。離れたら濡れちゃうでしょ」


理恵先輩はグイっと私の肩に手を回す。

近い。とっても近い。


「これで離れられないでしょ」

「わかりました。もう離れません。なので、それ止めてください」

「照れるな照れるな」

「照れてないです!」

「そんなに顔真っ赤にして説得力ないよ」

「暑いからです!」


体全体が熱いけど、理恵先輩の体とくっついてる部分は特に熱い。


私の気も知らないで。


「ところで日菜は? 一緒じゃないの?」

「日菜は寄り道して帰るらしいので別行動です」

「紬は寄り道しないで偉いね」

「別に……そんな気分じゃなかっただけです」

「そういえばさっき溜息吐いてたね……悩み事? 良ければ相談乗るよ?」


理恵先輩とテスト終わるまで会えなくて憂鬱だったって言ったら理恵先輩はどんな反応をするだろう。


私の想いに気付いちゃうかな?

気付いてほしい気持ちと気付かれたくない気持ちが私の中をぐるぐるしてる。


「雨降ってるのに寄り道したくなかっただけです」

「分かる。雨は出かける気力を削ぐからあまり好きじゃない」


でも、と理恵先輩は続ける。

「こうやって紬と相合い傘出来るんだったら雨も悪くないかもね」


ドキッとした。

心臓が痛いってレベルじゃない。激痛だ。


「あっコンビニ着いたね。紬は外で待ってること! これは先輩命令ね!」


そう言って理恵先輩はコンビニに入っていった。


私は入り口わきに移動する。

そして、顔を手の平で隠して、うずくまる。


ズルい。卑怯だ。

そんなこと言われたらもっと好きになっちゃう。


「うわー……」


嬉しいやら恥ずかしいやらで言葉にならなかった。



「お待たせ。はい、これ」


理恵先輩はいちごオレを差し出す。


「お礼。ありがとね」


ベース弾いているときはとてもかっこいいのに。

いちごオレが好きっていう可愛い面もある。


新入生歓迎会で理恵先輩達がライブしてるのを見て、理恵先輩に一目惚れした。

楽器やったことないけど、理恵先輩と接点が欲しかったから軽音部でベースを始めた。

どんどん理恵先輩のことが好きになっていく。


「さっきからちょっと気になってたんだけどさ。髪の毛ぼさぼさだよ? 可愛いんだから身だしなみに気を付けなきゃ」


理恵先輩は胸ポケットから櫛を取り出して梳いてくれる。


「よし。これで完璧! じゃあ帰ろっか」


理恵先輩は歩き出す。

10mくらい歩いて追いかけない私を止まって待ってくれている。


私は理恵先輩に聞こえないように小さく呟く。


「バカ……アホ……たらし……」


気に入っていただけたら、ブクマ登録や感想、評価などしていただけるととても嬉しいです。


また、前作の『秘密』もよければ見ていただけると嬉しいです。めっちゃ雰囲気違いますけど。

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