私の夫は貧乏育ち
朝。
私の朝は早い。
お風呂に入り、椿油で髪、体をコーティング。
風呂乾燥機能を使いながら無線ドライヤー。
髪、身体にタオルを巻き、朝食作り。
夫はまだグースカピース。
玄関中脇まで一旦ゴミ出し、皿を並べ、大きな大きな皿に適当に肉、野菜を盛り付け、味噌汁を鍋ごと置く。
夫はグースカピース。
夜中パソコンばっかりいじっているのだ、そりゃこーなる。
後15分は寝かしてあげられる、お腹が上下している、可愛い。
メールチェック、お湯を沸かす。
そろそろ起こさねば!
妻「こおら、もう、おーきーてー」
夫「ぷにー、嫌だー、後1時間ー」
妻「もう、会社大丈夫なのー?もう7時だよー!」
夫「ううんぢっぐじょー、大丈夫じゃないんン」
妻「うふふ、ほおら、おーきーてー」
夫「はーいいー〈ムクリ、ゴシゴシ〉」
妻「朝御飯出来てますよークスクス」
夫「おーはーよー」
妻「はいはい、ほら、顔洗って、歯を磨いて」
夫「はーいいー」 トイレに向かう。
妻「さてと、今の内に、着替え、着替え(夫の)」
着替えを用意したら、私は夫と入れ替わるように、お風呂に入り、椿油をシャンプーで流し、温まる。
夫「ご馳走さまでした」
風呂場「ゴミ出しお願ーい」
夫「えー」
妻「お願いしまーす」
夫「えー」
妻「お願いします、旦那様々仏様」
夫「えー」
妻「今日はこれでもだめー?」
夫「うーん」
妻「じゃあ・・キス3分で手を打とうじゃないか!」
夫「えー」
妻「じゃあ5分?」
夫「えー」
妻「・・」
夫「えー」
妻「何も言ってないじゃん!クスクス」
夫「行ってきたよー」
妻「早!ありがとうー」
夫「タオルー」
妻「ありがとうー」
夫「コーヒー」
妻「今日は砂糖無しでー」
夫「はーい」
妻「クスクス」
夫「まーだー?車ー」
夫は免許を持っていない。
妻「はーい」
元々私と元彼が住んでいたのだが、あの糞馬鹿男が性病貰って私に感染した事で浮気が発覚、交際歴は6年だった。
元々ヒモ男に縁があるらしく、昔からなよなよした男が好きだった。
徹底的に性病検査をした。
治る性病で良かったと神様に感謝した。
それからは、神様を拝みまくり、先祖の墓参りをしまくり、風水を実践した。
そして、福の神みたいな男が雨宿り中に現れたのだ!
その時の私の顔は、ヤバかった事だろう。
あの時の私の顔は少し怖かったと夫は今でも時々ネタにする。
私はある会社の普通の課長だ。
夫は小太りで肌がスベスベで背が低くて可愛い。
私の方から交際を申し込んだ。
夫はトイレ専門の清掃業者のいち社員。
子供はまだ居ない。
私達は交際して!僅か2ヵ月で結婚してしまった。
夫は童貞だった。
それも、勿論結婚を意識した材料だった。
私色に染めるつもりだった。
だったのだが・・。
〈ガチャ〉 着替え、バスタオルを巻き、風呂からリビングへ。
夫「〈バリバリズズーズズー〉」 コーヒーと餅煎餅を食べてる。
妻「(見て!この姿!かんわいいい!!)」
夫「早くー〈プンスカ〉」
妻「は、はい旦那様(私が染められてしまった気が・・良い!それでも!良いいんン!)」
防音賃貸マンションを出た。
月に15万払っている。
7割が私、3割が夫が払っている。
そんな生活が続けば妊娠は当然だった。
私は妊娠したら退職という選択は仕方なかった、情報が早い会社だったから、引き継ぎは早めして、何とか円満退職だった。
ある程度の安い賃貸マンションに引っ越した。
アパートは沢山ある。
しかし、小さな子供と一緒に住めるアパートは少ない。
ファミリー向けのアパートはどこも満室。
運良く丁度出ていくファミリーが居たからそこを借りる事が出来た。
本当に運が良いと思う。
産む前に幼稚園には予約済みだった。
すんなり入れられた。
しかし、ここからが大変だった。
毎朝ギャン泣きする息子。
夜中もギャン泣き。
買って買ってのだだっ子。
それでも貯金を崩しながら、バイト生活。
良い大学と、海外留学、年に1月くらいは海外旅行を息子にさせてあげたくて、バイトを2つ掛け持ちして頑張った。
夫は口や態度ではいつものだだっ子だったが、ちゃんといつの間にか動いてくれていた。
感謝、感謝の日々だった。
ある日、夫の母親が入院する事になった。
私の両親は事故で居ない。
その分夫の両親には出来るだけ孝行をと思っていたのだが、夫は頑なにそれを拒んだ。
事情は解らないが、仲は良くないらしい。
そんな夫はどうするの?と聞いた。
夫「手術しても助からないって、少し延びるだけだって、だから、放っておくよ」
妻「お義父さんは?」
夫「あいつをお義父さんなんて呼んで欲しくない、僕も父とは認めない、何度も話したろう?あいつは・・孤独死がお似合いなんだ」
妻「・・」
以前この話題で喧嘩になり、最終的には私が謝った。
夫にとっては譲れない信念なんだと思い知ったのだ。
解ってくれないなら、離婚する。
夫に。
あの癒しの象徴である夫にあそこまで言わせるなんて。
余程の外道だったのかと、納得した。
それから夫の望み通りにお義父さんは孤独死した。
自殺だった。
夫は簡単な葬儀を済ませ、その日はぶっきらぼうだった。
私は放っておいた。
夜中、夫のパソコン部屋で泣き声が聴こえて来た事は秘密だ。
それから妊娠2人目が発覚。
気をつけていたのに。
成るときは成るものよ?と先生からは笑われた。
どうしようか、悩んだ。
糞馬鹿男とか、ただの契約結婚した男との間に出来た子供なら、簡単に中絶出来たと思う、しかし。
愛してるのだ。
最愛の人との子供は、身勝手に、自分勝手にいとおしい。
私は二人目発覚話と同時に産む決意話を夫にした。
夫はただ、そうかと言い、今晩話があるから、リビングに19時に居て欲しいと私に伝えて来た。
絶対に居て欲しいと言ってくる夫に、私はただ黙って頷いた。
19時。
リビング。
テレビを消す。
静まる空気。
もうすぐ2歳の息子は赤ちゃんベッドであうあう回るオモチャを見ている。
妻「・・話って?」
検討はつかなかった、だから余計に怖かった、別れ話しか浮かばない。
私は震えていた。
夫「・・」 夫も震えていた。
妻「言ってくれなきゃ解んないよ?・・んねえ?」
夫「・・君を・・騙していたんだ」
妻「・・」 手で顔を覆う、涙が溢れる。
夫「本当にごめんなさい、僕は何て事・・」
妻「う、うえええん、うえええんなによお!馬鹿あ!あああ」
夫「これを・・」 通帳。
妻「・・和解金?」
夫「?へ?・・」
妻「離婚なんて嫌だああ!福ちゃんと一緒に居るう!ずっと一緒にいい!一緒に居るのおあえええん!」
夫「?・・あ!・・違う!違うよ!違う違う!全然違うから!離婚しないから!」
妻「〈ピタ〉ふえ?」
夫「この通帳を見れば解るから」
妻「?・・」手に取り、見る。
妻「!?」 795368247円
夫「僕も働いてたし、君も働いてたから、幼稚園にも入れたし、それで何とかなるかなって思ってたんだ・・でも・・二人目が出来て、君が!・・」
妻「・・」
夫「・・君が・・産むんだって、どんなに・・苦労する事になるって解ってるのに、・・産むんだって・・そう言う君を見て、隠してるつもりはなかったんだ、ただ、必要じゃないお金は悪い事も呼び寄せるから・・でも、そんな君を見て、覚悟が違うなって、じゃ、僕も、このお金を使いこなして、君と、子供達を守る覚悟を決めなきゃって・・そう思ったんだ、隠してた事は謝るよ、本当にごめんなさい、でも、君が変わってしまうんじゃないかって、怖かったんだ、本当にごめんなさい」 土下座。
妻「・・ぐす、じゃ、離婚しない?」
夫「しないよ!〈ガバッ〉」
妻「まだ!」
夫「・・はい」 土下座。
妻「浮気は?」
夫「しないよ!〈ガバッ〉」
妻「まーだ!」
夫「・・はい」土下座。
妻「うひひ、ふふふ、ご、ごほふん、・・私に惚れていますか?」
夫「・・はい」
妻「どんなところ?」
夫「いつも世話を焼いてくれて、優しいところ、です」
妻「んひひひ、・・他には?」
夫「僕に、命令しないところ」
妻「他には?」
夫「・・解らないよ」
妻「ほーかーにーはー?」 背中に胸を乗せる。
夫「・・甘い香り」
妻「んふふ、ほーかーにーはー?」
夫「目の下のホクロ」
妻「他には?」
夫「・・僕を好きなところ」
妻「他には?」
夫「解らないよ」
妻「他ーにはー、ほーかーにーはー?」
夫「君じゃなきゃ〈ガバッ〉」 抱き締める。
妻「え〈ドキ!〉」
夫「解らないよ、でも、君じゃなきゃ駄目なんだよ、料理とか、子供とか、性格とか、全部、全部そうだけど、そうじゃないんだよ、そうじゃないんだよ・・そうじゃないんだよ・・解らないんだよ・・解らないんだよ・・解らないんだよ、解らないんだよ」
この時は、人生で一番泣いたと思う。
夫も泣いてた。
息子もギャン泣きしてた。
家族みんな泣いていた。
10年経った。
あのお金は1000万しか減っていない。
私達は共に働き、共に支え合っている。
子供達は元気だ。
私のこの体験が必ず誰かの役に立つからって言われたので、インタビューに答えてます。
人生は人との出逢いで変わる。
それも劇的に。
でも劇的に変わってからも人生は続いてゆく。
そこでもきっと岐路にあなたは立つだろう。
だから、結局は、最後は自分で決めなきゃいけない。
劇的に良い方向へ変わっても、そこでも自分で決めなきゃいけないなら。
結局人生を決めるのは、あなた自身だ。
私の場合は、あの時、産むという決断をしなかったら、どうなっていただろうと時々思う。
きっと、私には想像もつかないルートイベントが発生していて、離婚してるかもしれない。
誰にも解らない。
それは誰にも解らないのだ。
でもこれだけは解る。
きっと、誰にも解らないけど、良い未来へと進める人は、結果的に進める、進めた人は。
愛と、感謝の道を選んだ人だという事。
多分、きっと、この世界は、人生は、そういう事なんだと私は思っています。
以上です、えへへ。
筆者「ありがとうございました、末永く、お幸せに」