夜の静かなリビングで……
こんばんは、神崎です!
第9話「夜の静かなリビングで……」公開です!
あと少しとなりましたが。。。お付き合いください♪
詩音の家に着いたけど、インターホンを押しても何の反応もない。
「し、詩音……?」
まさか、本当に何かあったんじゃ……!? 夏の暑さだけじゃない汗が出てきて、また何回もインターホンを押してしまう。もうすっかり夜になった今、そんなに賑やかでもない住宅街。
かなりうるさいはずなのに、中から人が出てくる気配はない。
「どうしよう……、あっ、そうだ!」
そういえばだいぶ前、詩音が今よりもっと孤立してしまっていた頃に合鍵を交換したんだった。
『これで何かあっても彩良ちゃんに助けてもらえるね』
『そんなこと言ってないで、もっと気を付けてよ……。ほんとに何かあってもわたし何もできないからね?』
『はーい』
ただの軽口だったはずの会話を思い出して、自分が恥ずかしくなる。
こんなんじゃ、わたしがしてたのはただの心配してるふりでしかなくなってしまう。もしかしたら詩音は、わたしに助けを求めてたのかも知れないのに……!
それに、たぶん詩音がいなくなったら、この世界から色と音が一気に消えちゃう気がする。
そんなの嫌だ。
どうしてだろう。
小さい頃は、よく周りから浮いて、時には虐められたりもしていた詩音が心配だから一緒にいて。いつしかそれがわたしの役割だから……なんて思ってたくせに。
いつの間にか、わたしの方が詩音なしじゃだめになってるような……。
よくわかんないけど、それでも、こんな何もわからないままで取り返しのつかないことがあったりしたら、絶対に後悔する。それは、何となくわかるから。
「詩音、入るよ……?」
それでもやっぱりどこかやましくて、声をかけながら家のなかに入ると、近くの部屋から明かりが漏れていて。
それと一緒に、詩音の楽しそうな話し声が漏れていた。
電話越しで聞こえていたのと同じ、低い声と一緒に。
何でだろう、こんなに胸が苦しくなるなんて思わなかった。こんな気持ちになんて、なるはずないのに。どうしてか詩音のそんな声が気になって。その相手とか、どんな状況なのかとか、そんなことばかり考えて、頭がぐるぐるになって。
「詩音?」
扉を開けた先には詩音と、詩音と楽しそうに話している、少し年上なのかなっていうくらいの男の人がいた。少し遊んでいそうな、それでちょっと怖そうな雰囲気の人。
「え、詩音、だれ、その人?」
「んっと……、さっき友達になった大輔くんだよ?」
「えっ、さっきって?」
「さっきはさっきだよ。あ、彩良ちゃんデートどうだった? 手島くんとうまく仲直りできたの? もう心配しちゃったよ、さっき通話かけたのだってそれだからね?」
話を変えたいとき、何かを隠したいとき、詩音はいつも人差し指と中指をクロスさせる。出てるよ、小さいときから変わってない……たぶんわたししか覚えてないような癖が。
……………………。
「あのさ、詩音」
「ん?」
「悪いんだけど、大輔さん、だっけ、帰してもらえないかな? どうしても駄目なら、少しの間だけ外で待っててもらうんでもいいから」
口の中が渇いて、まぶたが少し震えてるのが自分でもわかって。
だけど、詩音とふたりだけになりたかった。わたしが、それにたぶん、詩音もそれを望んでる――なんとなく、それがわかったから。
「んー、彩良ちゃんって時々さ、……。いいや。ごめんね、大輔くん。また今度、いっぱい遊ぼ?」
「えー、じゃ今日は終わり?」
「うん、今日はおしまい。大丈夫だよ、いつでも会えるんだからさ」
詩音は、昔からよく使ってる外行きのの笑顔で大輔さんを半ば押し出すみたいに家から出した。ばいばーい、と可愛い声で言ってから振り返った顔は、どこか疲れたような無表情で。
だけど、それも一瞬でまた笑顔に変わる。
「それで? 話って何かな、彩良ちゃん?」
あぁ、ほんとに。
わたしは、たぶん全然詩音のことわかってなかった。
いつから詩音がわたしにも外行きの笑顔を向けるようになってたのか、それもちゃんとわかってないんだから。
泣きたくなってきた。
泣きそうになりながら、それでも何かを伝えたくて、その瞬間思ったことを口走っていた。
「わたしね、詩音のこと、……好き、かも」
聞こえる心臓の音と、詩音の「ふーん」という声のあと。
「じゃあ訊くけど、私のどんなとこが好きなの?」
少しだけうざったそうで、だけどどこか弾んでいるような声が、静かに返ってきた。