選んだ道は、星空の下
こんばんは、神崎です! お久しぶりになってしまいましたけど、8話目の公開です!
もうちょっとで、彩良と詩音の夏が終わろうとしていますが、あと少し見守ってあげてください★
映画が終わって、流れ出すエンドロール。
周りでぽつぽつと携帯を取り出す人たちの姿が見えたから、慌てて携帯の電源をつけると、後ろの方から席払いみたいな声が聞こえたけど、そんなのにかまってられなかった。
だって、30分も前に詩音から着信があったから。
不在着信で、立て続けに4,5件。
詩音がそこまでしてくることなんて、滅多になかったから。
それに、あんなメールが送られてきた後だったし……!
だからそれに出られなかったことがすごく悔しくて。それを取り消せるわけでもないのに、わたしはすぐにシアターを出て電話をかけ直した。
だけど、すぐには繋がってくれなくて。
『おかけになった番号をお呼びしましたが……』
そんなメッセージが流れてくるばかり。
もしかして、何かあったのかな? それでわたしに助けを求めてきたのかな!? なんでそれに答えられなかった、わたし!? もう何かあったの、手遅れなの!??
もしそうなら、もう何をしたって遅いのに、それでも何度もかけ直す。数コールして出なかったらもう1回、もう1回、もう1回。そうやってかけ直して、やっと通じた電話の向こうの詩音の声は、どこか不機嫌そうで。
『……なに?』
「ぁ、」
どうしよう、咄嗟に言葉が出ない。
落ち着け、声を出さなきゃ。
「ねぇ、さっきのどうしたの!? あの、えとさ、その、」
『あ、あれ? 別に何でもないよ? ただそういう文章思いついただけだから、気にしないで? そんなのいつものことじゃん。今日に限ってどうしたの? こっちは大丈夫だから、彩良ちゃんは手島くんと仲直りしてきなよ』
どこか突き放すような詩音の声が、痛い。
だって、そんなんじゃなかったじゃん。
「気にするよ、何かあったかなんてわかっちゃうんだよ!? だってわたしたち、ずっと一緒に――」
言いかけた言葉が、萎む。
電話の向こうから、詩音の声とか息遣いとかに紛れて、詩音じゃない人の声が聞こえたから。ちょっと低くて、でもたぶんわたしたちと同じくらいの歳なのかなっていう男の人の声。
「ねぇ、詩音。いま誰かといるの?」
『それってさ、いちいち彩良ちゃんに言わないといけないことなのかな? 別に私は私でいいんじゃないかな。――あんまり待たせちゃ可哀想だよ』
通話を切る前の詩音は、今まで聞いたことないくらい冷めた声だった。
「詩音、ねぇ詩音! 待ってよ詩音……!」
「大丈夫か、彩良?」
後ろから聞こえてきた、心配そうな手島くんの声。振り返った顔が心細げで、泣きそうにも見えて。
そうだ、手島くんを不安にさせたくなくて、今まで一緒にいたのに。詩音だって、そう言ってたし……。それに、もうあんなに気まずい空気を手島くんとの間には――。
「なぁ、彩良。大丈夫だから、無理しなくて」
そう言った手島くんの声はどこか明るく聞こえた。でも、それが演技だっていうことはその顔を見ればわかって。
「行ってあげなよ。たぶん、今行かなかったら後悔するからさ」
だけど、手島くんの言葉は、たぶん今のわたしが1番ほしかった言葉で。
「ごめん!」
だから、躊躇している時間も惜しかった。たぶん、ずっと傷付けていたんだと思う、それでも。
それでも、手島くんの言う通り、きっといま詩音のところに行かなかったら、そのことをずっと後悔することになりそうな気がしたから。
もうすっかり陽が沈んで暗くなっているいつもの道を、切れた息もそのままに、ただ走り続けた。
星の綺麗な夜空に見下ろされながら着いた詩音の家。
明かりはついてるのに、インターホンを押しても反応はなかった。