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近くて遠い声

こんばんは、漓莉です♪ すっごくお久しぶりになってしまいました! 遅くなってすみません~(;>_<)

5話目です、よろしくお願いします!!

『あのさ、こないだのことちゃんと謝りたいっていうか……。今度の金曜日、会えない?』


 詩音しおんのことを考えていた頭が、少しだけ白くなる。


 手島てしまくんから突然かかってきたその電話に、たぶんわたしは「うん」と答えたと思う。その答えに、電話越しに聞こえたちょっとだけ緊張した呼吸音。

『じゃあさ、金曜の夕方5時に、駅前で待ってるから』

「……うん」

 なんだろう、この感じ。

 いろんなことが急に起こりすぎて、現実味が感じられない。なんだろう、これ。明晰夢? 体は自由に動くけど、全然実感がなくて。

 あまりいいとは言えない夢の中みたいにふわふわした感じでちょっと話して、通話は切れた。


 そこでようやく、夢から覚めたような感じがして。

 戻ってきた現実感と一緒に、一気に体が重くなった。


「はぁ…………」

 重くなった胸の中身を吐き出すように、思わず溜息をつく。

 ……どうしよ。

 詩音の様子がおかしくて、それでも何があったのか聞き出せなくてもやもやしてるのに、更に手島くんからこんな連絡が来るなんて。


「あー」


 思わず上げた声は、もちろんどこにも届かない。胸にたまったものをどこかに吐き出してくれるわけでもない。

 意味がない。

 無駄な呼吸でわかったのは、段々夕方になってきてるということ。


 頷いちゃった。

 うん、って答えちゃった。


 それを取り消したりなんかきっとできないから、悩んでも意味がないんだけど。

 だけど、もしかしたら。

 詩音なら何か言葉をくれるかも知れない。

 何だか抑えられない気持ちに任せて通話をかけたわたしは詩音が出るまでの間、思わず考え込んでしまった。だって、かけてどうするのかよくわからなかった。

 どんな答えを期待してるんだろう?

 わたしは、詩音にこのことを伝えてどうしたいんだろう?

 どうなりたいんだろう?


 詩音に、何て言ってほしいんだろう?


 答えを出すよりも前に、詩音の『はいはーい』という眠たげな声が聞こえてきた。お、お昼寝中ですか、詩音ちゃん……。

「あ、もしもし?」

『うん、どしたの彩良さらちゃん?』

 軽い調子の声が返ってきて、何とか少しだけ軽くなった気持ちでわたしは詩音に尋ねた。


「あのさ、今週の金曜日手島くんから会おうって言われたんだけど……」

『あ、そうなんだ。喧嘩したって話聞いてから心配してたけど、うまく仲直りできるといいね』

「…………うん」

『ん、やっぱり不安?』


 そういうことじゃない。詩音の言葉にそう返したくなった。

 もちろん、不安がないわけじゃない。喧嘩とまではいかないけど、ひどいこと言ったし、きっと手島くんもかなり怒ってた。

 だから、手島くんと会うのはもちろん不安だ。

 だけど、そういうことじゃない。


 何て言ったらいいかわからないけど、不安とかじゃなくて。

「そういうわけじゃないけどさ、えっと……何もないの?」

『えっ?』

「――、何でもない。えっと、とにかく、そういうことだから」

『そっか、うん。頑張ってね』


 そんな軽い――だけど本当にわたしを励ましてくれてるんだってわかる声を最後に、通話は切れた。


 でも、それに対する思いはあまりなかった。それよりも……。

 わたし、さっき何て言おうとした!?

 詩音が『うまく仲直りできるといいね』と言ってくれたとき。変な寂しさがあって、それと一緒に、ある思いが生まれていた。


 わたしが手島くんと会うこと、何とも思わないの?

 止めてくれないの?


 そんなことを言いそうになっていた自分が、よくわからない。何でそんなことを……?

 戸惑っている間にも、時間は過ぎていく。こんなときばかり時間が進むのは早くて。


 訪れてしまった金曜日。

 それまでの間、詩音からは何もなくて。


『うまく仲直りできるといいね』


 手島くんが駅の改札からこっちに向かって来ても、詩音のそんな声が頭を離れなかった。

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