先を行く秒針
こんばんは、神崎 漓莉です♪
かなり間が空いてしまいましたが、4話目です!!
詩音……、どうしたんだろう?
あの日――手島くんとの喧嘩(と呼んでいいのかはわからないけど)と、そのことを詩音に話してから数日が経った。
気が付くと、もう8月後半だ。
もうそろそろ近付いてくる夏休みの終わり。
2学期始まってすぐに控えた文化祭の準備だったり、否応にも現実をつきつけてくる残りの課題だったりで、何となく気持ちが「夏休み」から抜け出してくるこの時期に、わたしはそういう周りの慌ただしい変化についていけずにいる。
ここ何日か、詩音に会えていない。
もちろん、夏休みなんだからそれぞれ色々予定を立てて、都合が合わないことなんていくらでもある。前に2週間くらい会えなかったときもあったし、それでも連絡をとったりはできたから別に寂しいとかはなかった。
もちろん、それは今だってそうだし、今は遊びに行った出先で写真を撮ってSNSにアップしたりしてるから、前よりも様子がわかるようになっている。
写真の詩音はとても楽しそうで、だから心配とかそういうのはないんだけど、ただ、気になってることがあるだけ。
詩音本人に聞いても、『え、そんな言い方してたっけ?』なんて言われておしまいになるようなことなのかも知れない。本人からしたら、そういうことなのかも知れないけど……。
でも、何か気になる。
『そうだよね。やっぱり、迷惑……だよね』
手島くんのことを友達以上に見られなくて、そんな彼との関係を変えるなんて急にできやしない。
そういう愚痴をこぼしたときに、それまでわたしの言葉に耳を傾けて励ましてくれていた詩音の口調が変わった。
あの寂しそうな口調が、何日か経った今でもどこかに引っ掛かっている。
その後に『でも、できるだけ早く仲直りした方がいいよ! 後になると気まずくなるし』といってその話題を終わりにされてしまったからそれ以上何も言えなかったけど。
詩音にも何か悩んでいることがある。
それはわかった。昔から一緒にいたから、何か様子がおかしいことはわかる。
でも詩音は、そのとき何も言わなかった。その後も何回か連絡を取ったりしたけど、大体が楽しいことばっかりで話が始まるから、そんな流れを断ち切ってしまうのがいやで、ついこの間の話を振るのを躊躇してしまう。
もしかしたら今日、文化祭の準備とかで会えたら話せそうな気がしたんだけど……。
「ねぇ、今日詩音って来てないよね?」
「え、あの子はいっつも彩良ちゃんと一緒でしょ? 彩良ちゃんが知らなかったらウチらじゃわかんないよ~」
……まぁ、そういう感じだよね。
詩音は昔わたしが思わず声をかけてしまったときと同じように、ううん、もしかしたらあの頃よりもっと、友達付き合いが苦手な子になっている。といっても、内気だとかそういうことじゃない。むしろ人と話すのはかなり好きみたいだし、気を引くのも得意……なんだと思う。
でも不自然に隙が多かったり、その気はないと言いつつも男子の気を引きがちな詩音のことを面白く思わないクラスメイトだって少なくない。
だから、詩音と関わるのは大体わたしだけ。
必要な連絡事項までわたしが言うまで知らなかったなんてことがあってからは、もう既に知っているかもしれないようなことでも、念の為に言うようにしている。あ、そういう感じだから詩音とセット、みたいな感じになってるのかな……。
何か悩んでそうなときに何もできずにいる、こんな情けないわたしなのに……。
そんなことを考えながら、お昼ちょっと過ぎまでクラスの何人かで集まって、今日の準備は終わった。
友達と別れて、1人になった帰り道。
学校近くのコンビニのイートインコーナーで軽めの食事をとりながら、詩音から何か連絡が来てるかの確認をする。見てみると、朝に交わした挨拶でやり取りが止まったままだったから、適当に何か連絡をしようと思って、文面を打つ。
『やほー こっちは終わったよ! なにしてる?』
変に気まずい感じにならないように簡単な文面だけ入れて、送ろうとしたとき。
ちょうど同時に来た着信で、その操作が遮られる。
ん、なんだろう?
詩音との間に割り込まれたような、ちょっと嫌な気持ちになりながらも出てみると、携帯の向こうからは聴き慣れた――でも最近聴く気になれずにいた声。
『もしもし、彩良?』
「あ、手島くん」
『なんつーか、久しぶり』
「うん、久しぶり。で、どうしたの?」
『いや、どうしてるかなって』
「どうって、まぁ普通かな」
『そっか……』
そんな探り探りの、気まずいやり取りがしばらく続いた後。
すぅ、という少し息を吸い込むような音が電話越しに聞こえて。
『あのさ、こないだのことちゃんと謝りたいっていうか……。今度の金曜日、会えない?』
テーブルに置きっ放しになって溶け始めたアイスコーヒーの氷が、かちゃ、と音を立てた。