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秘密  作者: 湖灯


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第三者会議

 俊介の異変に対して、真っ先に口を開いたのは直美だった。


 直美はすぐに穂香のところに来ると阿久津俊介の授業態度が元の‘ぐうたら‘に戻った……。


 いや‘ぐうたら‘以下になったことを告げた。


 穂香も、その日の俊介が授業中ノートも取らずに居眠りをしていたのは気になっていたが、珍しく早く登校して来たことと、財布を忘れたことなどから、何か家庭の事情でもあったのだろうと気を揉んでいたものの、それは今日一日限りのことだと、自分に言い聞かせ心を落ち着かせていた。


 それよりも、この日二年生になって初めて阿久津くんと、少しだけだけど話ができたことと、穂香にとっては大胆すぎる行動をしたことで生まれた、少し頬の熱くなるような嬉しい満たされた気持ちの余韻を楽しんでいたかった。


「穂香!阿久津くんと今朝何かあった?」

 唐突に発せられた直美の言葉に驚いた。


「え!?何かって、何が?」


『今朝…』今朝駅での出来事…。


 まさか阿久津くんが、今朝の出来事を誰かに話すとは思えなかったので、朝駅で起こったことを誰かが見ていて、それを変な噂にでもしているのかと焦った。


 どうせ噂になっているのなら隠していると余計に変に思われるといけないので直美に今朝の出来事を正直に話した。


 直美は怪訝そうな顔でな顔で「そう…」とだけ告げると、何か考え事をしながら席に戻って行った。





 三時限目が終わった頃に、あの激しかった雨は止み、空には青空が見えていた。


「三木!」


 階段の踊り場で三木は森村直美に呼び止められた。


 直美とは同じ中学からS高に入った仲だが、人見知りで運動が苦手な自分に比べ、社交的で行動力があり、しかも自分より背が高いこの同級生のことが中学時代から苦手だった。

 こんな奴を敵に回したら自分など‘ひとたまりもない‘と、なるべく接点を持たないように避けていたが、不意に向こうから声を掛けられてしまい驚いた。


 直美は今日の俊介の授業態度について話し、何か変わったことがないか聞いてきたが、何も心当たりがなかったので


「知らない」とだけ答え、その場から逃れようとすると「親友のピンチなんだぞ!」と、直美にえらく叱られてしまった。 


 そして直美から昼休みが終わるまでに俊介の周辺で起こっているらしい‘異変‘を調査し報告するように命令された。



 昼食が終わって、直美に指示された屋上に向かう三木博文の足取りは重かった。


 一応俊介から悩み事は聞いていたが、他愛もないことだったので、そのことについて直美に攻撃されるのが厭だった。


 屋上の扉を開けると直美のほかにもう一人背の高い女子がいた。


『山岡沙希だ!』


 直美が魔法系モンスターなら、この沙希は戦士系モンスターだ。

 魔法から身を守るマントも打撃系の武器から身を守る盾も持たず、のこのこやって来てしまった自分には勝ち目がない。


 一瞬逃げてしまおうか?とも思ったが、おそらく既に結界が張られていて逃げ場は塞がれているだろう。

 何が起きようが観念するしかなかった。


「どうだった?」


 直美の質問に、俊介から聞けるだけ聞いたことを一字一句そのままに話した。

 変な小細工をすると隣の戦士が‘天空の刀‘を振り下ろしそうだった。

 話し終わると直美は探偵のような態度で三木の周りをゆっくりと回りながら


「なるほど…つまり阿久津俊介は今朝駅で、ある人物に傘代を要求した……だが、そのことについて、その‘ある人物‘から自分、つまり阿久津俊介が‘金をたかってきた‘と思われてしまったのではないかと、疑念を抱き、借りたことを後悔している。と、言うわけか…」


 直美は三木の正面に立つと、顔を覗き込むようにして


「でも、何故傘代を借りた?朝の土砂降りの雨なら、その‘ある人物‘の傘に入れてもらってもおかしくないし、むしろ相合傘は彼にとっても好都合……」


 三木が直美の言葉の中から‘相合傘‘の部分を復唱してしまったため、直美は話を打ち切った。


「相合傘ってことは、相手は女子なんだ」

 三木は思っていることを思わず口にだして言ってしまうと、直美と沙希が詰め寄ってきた。

 直美はまるで不良のように三木の制服の肩に手を乗せると「誰にも言うなよ」と念を押して沙希と屋上から出て行った。


 三木は直美の態度に驚いてしばらくその場に立ち尽くしていたが、二人の影が見えなくなると、今の状況を整理する余裕ができてきた。


 直美の話からすると


 ‘ある人物とは女子生徒‘

 ‘電車通学‘

 ‘俊介と、ある人物との関係が危機‘

 ‘二人の関係は、未だ始まったばかり‘


 だと思った。



 そして次に三木は直美より先に、この問題を解決させ、あの生意気な女子の鼻を明かしてやろうと思った。


 向こうは‘ある人物‘と俊介の両方を知っているが、こっちはまだ片方しか知らない。

 しかし、直美が用心棒のつもりで連れて来た沙希のおかげで‘ある人物‘を特定することは意外と容易だ。


 おしゃべりで社交的な直美だけなら‘ある人物‘を特定することは困難だったろう。

 しかし気の強い山岡沙希を用心棒として連れて来たのは‘うかつ‘だと思った。


 連れて来たということは、二人に共通した友達に的が絞れる。

 そして山岡沙希はスポーツこそできるが、部活以外の友達は少ないし敵も多いので、敵関連を外した中から共通の友達を探せばいい。

 その共通の友達の中から電車通学という条件を満たす人物こそが、問題の‘ある人物‘なのだ。


 ここまで考えるとすぐに‘ある人物‘の候補が上がった。


 候補は二人。


 鈴木麻衣子と秋月穂香だ。


 二人とも電車通学だったし直美と山岡沙希の両方と仲が良い。


 もしも直美が昼休みに用心棒として、この二人のどちらかを連れて来ていたら三木も‘犯人‘を捜そうという気にはならなかったかもしれない。


 なぜなら鈴木麻衣子の場合だと、いつも穏やかで敵を作らない性格なので、いかにもこの手の相談事を受けそうに思えたし、秋月穂香の場合だと本人の自覚はないもののS高のマドンナ的存在で、三年と一年からも人気があり、ひょっとしたら、その関係から相談事が舞い込んでくる可能性もある。

 

 同じ二年生の男子で行動力のある者たちはすでに撃沈してしまったらしいので、二年生は外せる可能性もあるが、こうなると捜索範囲が広くなりすぎて、もはや特定は困難だ。


 こんなことを考えながら屋上からの階段を降りて教室に戻った。


 俊介はいつものように寝ていた。起こして白状させようと考えなかったのは、もしも自分が当事者だったら聞きだされることは厭だと思ったし、少しの間探偵気分を味わってみたかったからだ。


 チラッと窓のほうを見ると鈴木麻衣子と秋月穂香が、おしゃべりをしていた。


 いくら何でも、あの言い寄ってくる男子をことごとく撃沈してきた秋月穂香に話しかける勇気を俊介は持っていないだろうし、三木自身もそんな勇気は持っていなかったので的は絞られた。


 ‘ある人物‘の正体は『鈴木麻衣子だ!』


 的を絞ると三木はすぐ行動に移った。


 内向的で勉強以外何の、とりえもないと思っていた自分にしては驚く行動力だった。


 三木は本田の机に行くと鈴木麻衣子に千円を返しておくように頼んだ。

 なぜ、本田に頼んだかというと彼は鈴木麻衣子と一年の時、同じクラスだったからだ。


 最初は渋っていた本田も理由を話すと「俊介のためなら仕方ないな…」と、素直に引き受けてくれた。


 隣で聞いていた進藤が「鈴木とかぁ…」と、喜んでいた。

 肝心の千円は昼食後でみんな持ち合わせが少なかったので、それぞれ出し合った。


 あとは鈴木麻衣子が一人になった時に実行するだけだ。


 三人はチャンスを待った。



 五時限目の始まる前、つまり昼休みの終わりに、鈴木麻衣子は席を立ち教室を出た。

 本田はこのチャンスを見逃さなかった。


 麻衣子が教室に戻ってくるのを待ち伏せて「これ阿久津俊介の借りていた分」と、小銭の千円を渡すと麻衣子は一瞬ぽかんとした表情を見せたが、すぐにニッコリ微笑み「あぁ!」と思い出した様子で受け取った。


 本田は「阿久津がありがとうって」と、俊介の好感度を上げておこうと言葉を付け加えた。


 教室に戻ってきた本田は指でミッションの成功の合図を三木と進藤に送った。



 三木は俊介に千円を立て替えて返したことを告げると、ちょっと俊介は慌てた表情になり、どうだった?と様子を心配してきたので


「ニッコリ笑って受け取った」と言っておいた。


 実際あの鈴木麻衣子なら、そうすることが充分予想できたので俊介を安心させるため、そう言っておいた。

 窓際の一番後ろに座る直美をチラッと見ると驚いた表情で、こちらを見ていた。


 三木は直美のその表情を見て『してやったり!』と思った。


 あの生意気な中学時代からの同級生を初めてギャフンと言わせた充実感に、直美に気づかれないよう机の下の、膝の間で小さなガッツポーズをとった。




 HRが終わったあとで三木は再び直美に屋上に来るように言われた。

 口調は珍しく優しい口調だったのできっと、事件解決の立役者に、お礼でも言いたいのだろうと思い意気揚々と階段を昇って行った。 


 屋上に上がると直美のほかに山岡沙希、鈴木麻衣子、そして本田がいた。


 雰囲気は、とても‘お礼‘という感じではなく、トラブルの匂いがぷんぷん漂っていて三木は罠にかかったような気がした。


 そんな中、森村直美が開口一番「なんで余計なことをするの?!」と、怒った表情で食いついてきた。


 三木はちょっとムッとした表情で『円満に貸し借りの解決をして何が悪い!』と言いたかったが、そんなことを言うと状況がさらに悪くなるのは見えていたので口に出さないで黙っていた。


 直美は続けて「お金を返して終了じゃ、いけないのよ、まったく分かっちゃいないんだから」と、今度は呆れた口調で言った。


 一方的に聞き役に回ってしまったが、話によると、どうやらこれをきっかけにして一気に二人をくっつけてしまいたいというのが直美たちの考えのようだった。


 三木は膨れっ面のまま「それじゃあ鈴木さんが直接俊介に、告っちゃえばよいじゃないか」と、反論すると女子たちは一瞬おのおのの顔を見渡したあと噴出すように笑い出した。


 小さくなっていた本田が三木の耳元で、「相手が違うんだって」と囁いた。



 山岡沙希が「相手が麻衣子ならみんなこうして心配なんかしやしないわ」と思ったままのことを喋ってしまうと、麻衣子は「まあ」と少し驚くような顔をしていたが、確かに鈴木麻衣子ならば、のんびり屋ではあるが自立心も強いので心配はなさそうだなと三木も思った。


「じゃあ…誰?」


 三木は自分の推理の、どこが違っているのか確認したかった。


「首を挟んでしまった以上仕方がないけど、これは私たちだけの秘密ということを守れる?断じて他言無用よ!」


 偉そうな態度の直美の言葉に三木も本田も同意するしかなかったが、次に直美が発した‘ある人物‘の名前を聞いて仰天した。


 その名前は「秋月穂香!」


 まったくのノーマークだった。


 なぜあの可憐な秀才、秋月穂香と俊介が?

 接点のひとかけらも見当たらない。


 友達を悪く言うつもりは毛頭ないが、成績なら自分のほうが断然上だし、人気という点では本田や進藤のほうが上、棋道部のメンバーの中で俊介が選ばれる基準を考えると背の高さ以外なく、その点にしたって特別背が高いわけでもなく、言ってみれば標準タイプだ。


 その俊介と秋月穂香が……。


 これには三木だけでなく本田も驚いていた。


「いったい、どういうこと?」


 三木は直美に聞き返した。

 直美は急に、いたずらっぽく笑みを見せると


「まだまだ、これからだけどね」と他の女子たちのほうに同意を求めるように振り返り、それから三木と本田に向かって説明を始めた。


 確かに秋月穂香は女子たちも認める容姿の持ち主で、それに頭もいい、誰でもうらやむような人物だがたった一つ欠けているものを挙げるとすれば、それは恋愛感情なのだという。


 言われてみれば男子から憧れの的と映る彼女なら、とっくの昔に付き合っている彼氏がいそうなものだが、そんな相手を見たことも噂で聞いたこともない。


 しかも同級生のうち勇気のある者たち何人かは、手紙や言葉で告白したが、体よく断られてしまった。というのが、もっぱらの噂だ。


 故に三木たち男子の間では秋月穂香は男子に興味がない、いや実は逆に女子のほうに興味があるのではないかと囁かれることもあったくらいだ。


 それにしても『まだまだこれから』とは、一体二人の関係はどこまで進んでいるのだろう。


 三木と本田は同時に同じ考えが浮かび、お互いの顔を見合わせた。


「これはキセキなんだよ」


 ぶっきらぼうに沙希が言うと、直美が補足するように


「今まで学校生活の中で特定の男子を見ることがなかった穂香が、どういうわけか、あの阿久津俊介を見るようになったのよ」


「しかも、授業中にも」


 麻衣子が付け加えた。


 明らかに特定の男子が気になるようになった穂香の様子に感づいてしまい、そして穂香の性格なら、そのまま放っておいてしまったらなにもないまま時がたち、その感情は過去という時の流れにかき流されてしまうだろう。


 そして、この先一体どうなるか分からないが友達としてせっかく芽生えた感情を応援してやりたい。というのが女子たち三人の共通した考えだった。


「そんなのただのおせっかいじゃないか!」


 本田が言った時、いつも落ち着いていて‘のんびり屋`と言われている麻衣子が珍しくすぐに強い口調で反応した。


「私たちは見守りたかっただけなのよ!昼に本田君が間違って私に返したお金を穂香に渡した時、一瞬だけだけど穂香が寂しい表情に変わったのが分かったわ。いらないおせっかいをしたのは、そっちのほうなのよ!」


 落ち着いた話し方だったが明らかに非難が込められた口調に本田はしゅんとなってしまった。


 隣で聞いていた三木も、いらぬおせっかいをしたものだと思った。

 鈴木麻衣子の、このようなきつい話し方を初めて聞いたとき、そう思った。


『ただのおせっかいじゃない。女子は真剣なんだ』と感じ、そして秋月穂香同様に俊介だって全く同じではないのか?いつも俺たちとゲームやアニメ、ライトノベルの話ばかりしている俊介が、たかが金を借りただけであそこまで落ち込むのは異様だ。


 関わり合いになった都合、女子は女子同士、男子は男子同士の立場で二人を応援してみようと思い、その旨を提案した。


 本田も同じ意見だった。

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