抗議の連絡帳
*秋月穂香目線
ーーーーー『抗議書』ーーーーー
今日一日見た限りでは、とても私は阿久津くんの友達にはなれそうにありません。
もしも大輔が私の知らない阿久津くんの良い所を知っているのなら教えてください。
今日は都合三回も阿久津くんを見ました。
一回目は一時限と二時限の間の休憩時間。
二回目は昼食時間。
三回目は下校時間。
兎に角、阿久津くんはクラスで全然目立たないし、女子からも話題にされず、どうしてこのような人と私が友達にならなければいけないのでしょうか?
もしも何か理由があって阿久津くんを、私の友達として推薦するのであれば、その理由を教えてください。
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大輔は穂香からの連絡ノートを読みながら笑っていた。
これは相当怒っているな。
文面の中で穂香らしいと思ったのは、本来『彼』と言う表現を使えば良い所を全てわざわざ『阿久津くん』と書いてあったところ。
彼と書くと恋人同士を連想させる『彼氏』と混同してしまうことに抵抗を感じたのだろう。
しかし『抗議書』とは穏やかでないな。
大輔は、とりあえずこの『抗議書』に対する返信は少し見送ることにして、あたりたりさわりりのない近況を書いておいた。
それにしても俊介も嫌われたものだな…
俺からみると、正直で誠実で今のところ勉強はサボっては居るもののナカナカ頭の回転も良い興味ある人物なのだが。
女子は実に厳しいと思った。
おそらく女子が付き合う上で重要な要素は、ファション性とか他人からの評判や印象なのではないだろうか?
確かに、その点から見ると落第としか言いようがないのが今の俊介だ。
男から見れば及第点でも、女から見れば落第点というのは、このことなんだろう。
翌日ゲーセンに行ってみると俊介は今日も来ていた。
いつもどおりゲームやアニメの話をしていた。
話の中で気がついたことは、興味を持っていることについてよく知っていることと、以外に話が上手いということ。
自分の興味のあることについて知識をひけらかす話し方をするわけでもなく。
相手の話も良く聞くし、その話から相手の知識の深さを探り、同じレベルの話を心がけている。
もちろんところどころにハイレベルな箇所もあったが、俺がついてこないと分かると直ぐに話を切り替えてくれる。
逆に俺のほうが詳しい話をするときは、面倒くさがらずに興味深く聞いてくるところも話をしていて気持ちよかった。
このくらい会話がスムーズに進むのならクラスでも人気者になれるのではないかと思うが、実際の俊介はクラスでも目立たず、特定の友人としか話をしない。
実に勿体無いと思いながら話をしていた。
穂香の方から迷惑めいた抗議書を送りつけられてみたものの、俊介の方は一体どんな反応を示すのだろうと気になったのでチョッと悪戯心で探ってみることにした。
「俺の知り合いで、俊介と同じS高に通っている秋月穂香という子が居るんだけど、知っている?」
すると俊介からは、俺の予想を超えた答えが返ってきた。
「秋月穂香…?知らないなぁクラスが違うんじゃないかな」
この返事に大輔は心の中で「えっ!」と叫びたくなるくらい驚いた。
頭もよく容姿も良い穂香のことだから『知り合い』と言っておけば直ぐに食いついて来ると予想していたが、この阿久津俊介と言う男は一体何を考えて学校に通っているのか!?
俺の定義で考えれば、高校生という多感な時期、男子は女子を、女子は男子を恋愛の対象として見て、将来訪れる男女関係への予行演習をする場でもあると思っていたから。
その点で穂香は誰もが憧れる恋愛の対象としては恥ずかしくないものだと思っていた。
まして同じクラスメートなのに知らないとは意外を通り越して呆れるほどだった。
…いや、待てよ。
…そう言えば穂香の方も自分が推薦するまで同じように俊介の存在を知らなかったではなか。
‘似た者同士‘
このフレーズが浮かんだ時、何故か俺はウキウキする何かを感じずには居られなかった。
「たしか、二年A組だって言っていたんだけど…君は何組?」
俊介は少し考え込んでいたが
「俺も二年A組なんだけど…居たかなぁ…」
「身長は普通くらいで長めの髪をいつもポニーテールにしている子で、大きな目をした色白の美人タイプなんだけど…」
俊介は、また一通り考えて言った。
「やっぱり分からない。もっとも同じクラスだからと言って全員の名前と顔を知っているわけではないからな、特に女子は」
この回答には更なるカルチャーショックを受けた。
二年生になってもう二ヶ月も経っているのだから普通なら自分のクラスメートの名字くらいは、ひととおり知っているだろう!
意外な回答を、それも極当たり前の様に連発してくる阿久津俊介と言う存在に、さらに興味がわいてきた。




