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秘密  作者: 湖灯
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T神社

S高の入学試験が終わった時、秋月(あきづき)(ほの)()には確かな手ごたえと不安があった。

手ごたえのほうは、先ず結果は大丈夫だろうというもの。

不安のほうは、長野から高校受験直前の一月に引っ越してきたばかりで、新たな環境に、そして高校生活になじめるのか心配だった。

一応、高校を選ぶ際に重要視したのは、自分の学力に合わせた形だったが、なるべく色々な中学校の生徒が集まる学校のほうが、自分のように引っ越してきて知り合いが居ない者にとっては馴染やすそうだと思い、ここを受験することにした。

S高は県下有数の進学校で、しかも鉄道の駅からも近く交通の便利な立地条件も重なり県内の多くの中学校から生徒が集まっていて条件としては良かった。

しかし・・・本当にそれで良かったのだろうか?穂香は四月から始まる高校生活を急に憂鬱なものに感じS高からの帰り道、途中のT神社にある公園のベンチに腰掛けて一人悩んでいた。

この神社は歴史もあるようなのだが、その日は訪れる人も少なく閑散としていた。

空の色は鉛色でまるで、穂香の気持ちをそのまま空のキャンパスに描いたようだった。

長野のように雪が積もっている所は無かったが、それでも寒いんだなと思った。

『ワン』という犬の鳴き声に驚き、鳴き声のした左手を見ると、隣のベンチに小さな犬を抱いたお婆ちゃんが座っていた。

そして、その向こうのベンチにも受験生らしい男子が座っていて、犬の鳴き声に驚いて振り向いたのだろうか、こちらを向いたときに目が合った。

どこの高校を受けに行った受験生かは分からないが、彼も屹度自分のような悩みを抱えているんだろうな…と、その男子の目を見たとき感じた。

暫くそこに居ると鉛色の空から雨粒が落ちてきた。雨粒は直ぐに勢いを増し大粒の本格的な雨に変わった。

朝の天気予報では雨が降るようには言って無かったので傘を用意していなかった。

「まあ!」

隣のベンチから声がした。

向こう側に居た男子が、持っていた折り畳み傘をお婆ちゃんに貸してあげているのが見えた。

「僕は、駅に行くんで大丈夫です」

「でも、あなた・・・」

「もし駅に行く事があれば、落し物として届けて貰えれば名前が書いてあるので、また僕のところに戻ってきますから」

そんな会話が聞こえてきた。

お婆ちゃんは恐縮しながらも、男子から傘を受け取り何度もお礼を言っていた。

男の子は、お婆ちゃんに傘を渡すと足早に穂香の前を通り過ぎ公園の階段を駆け下りていった。目の前を通り過ぎるその男子を見上げた時に向こうとも目が合ってドキッとした。目の前の階段を駆け下りて行く男子を目で追っていたが、神社の階段を降りれば直ぐに屋根のある商店街だということに気がついて穂香も男子の後を追うように神社の階段を駆け降りた。

下について商店街のアーケードに入り先を見ても、長いガランとした平日の商店街にはもう、さっきの男子の影は見えなかった。



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