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第三章 闇の魔術師との戦い

 晴彦は夢を見た。

「戦いの時が来た。雅志と、花田美奈子を連れて、三日後の午後五時、教会に来い」と夢でお告げがあった。


「とにかく、雅志と美奈子に連絡だ」


 夢を見た日の午前中、二人にメールする。二人のアドレスを訊いておいてよかった。


「午後三時、駅前のモスバーガーに集合」


 そして約束の時間。晴彦が店の入り口で待っていると、雅志と美奈子がやってくる。

美奈子は水玉のワンピースを着ている。制服姿よりおしゃれだ。


「忙しいところ呼び出してごめんね」と晴彦が言う。

二人とも、だいじょうぶだと言ってくれる。


三人がオーダーする。晴彦は「ぼくはコーラのM」

雅志は「おれはてりやきチキンバーガーとアイスウーロン茶のM」

美奈子は「わたしはアイスカフェラテ」


 それぞれ注文をしたものを持って、テーブルに着く。


「で、いったいどうしたんだ」と雅志が訊く。

「実は、今朝夢を見たんだ」と晴彦が応える。

「どんな夢?」と美奈子が質問する。

「『戦いのときが来た。三日後の午後五時、教会に来い』というお告げ」


 晴彦と雅志が、今までのことを美奈子に説明する。


「夢の中でわたしの名前がでてきたのね?」と美奈子が訊く。

「そうなんだ」と晴彦が応える。「ねえ、花田さん、きみの家に『アルハザードのランプ』ってないかな?」


「『アルハザードのランプ』ですって? そうねえ、それかどうかわからないけど、この前お父さんが骨董市で買って来た古いランプならあるわ」


「たぶんそれが『アルハザードのランプ』だよ」

「それがどうかしたの?」と美奈子が訊く。

「それを使えば異世界に行くことができるんだ」

「へえー、そうなの。原山くん、なんでも詳しいのね」

「えへへ」と晴彦は鼻の下を指でこする。


「わかったわ。じゃあ三日後の午後五時にその教会に行けばいいのね」

「うん、お願いします」と晴彦が頼む。


「よし、花田、おまえはもう帰っていいぞ。おれはちょっと晴彦に話があるからな」と雅志が言う。

「わかりました。それじゃあ」と美奈子は帰る。


雅志が晴彦に言う。「なあ晴彦、おまえ花田と仲がいいそうじゃないか」

「えっ? なんでそんなこと知ってるの?」

「おまえが保健室登校しているとき、保健委員の花田が、ノートのコピーを持っていっただろう」

「どこからその話を知ったの?」

「男子の保健委員からだ」


「それで?」と晴彦が続きを促す。

 雅志は、「おれ、花田のことが好きなんだ。おまえ、仲を取り持ってくれないか」と晴彦に言う。

「いやです」

「なんでだ」

「ぼくも花田さんのことを好きですから」

「なんだと? 本気で言ってるのか」

「本気です」


「うーん」雅志が考え込む。


「そうか、わかった。じゃあおれたちは恋のライバルだな」と雅志が言う。

 晴彦も、これだけは負けられない、と真剣な表情になる。


 そして三日目の午後五時。三人は待ち合わせをして教会へ行く。


 晴彦が青色の魔石を使って、結界をつくる。『透明』の魔術で、外から見えなくする。


 まず晴彦、そして雅志が結界に入り、美奈子がおそるおそる後につづく。


「さあ、ランプを貸して」と晴彦が言う。


「異世界へ乗り込むぞ」と晴彦が念じると、だんだん三人の姿が透明になっていく。


 しばらくして、ほら穴のようなところに出る。

「ここが異世界なのかしら」美奈子が言う。

「どうやら『闇の魔術師』がつくったダンジョンのようだね」と晴彦が応える。


 まっすぐ進んで行くと、分かれ道に出くわす。


「どっちのほうへ行ったらいいんだ」と雅志が訊く。

 晴彦が「ぼくが気を集中して、行き先を探るから」と言い、神経を一点に集中させる。

気の流れが感じられる。


「こっちだ」晴彦が先導する。


 すると、ダンジョンの途中に、宝箱が置いてある。

「なんだろう、この宝箱。『闇の魔術師』がつくったのかな?」と雅志が尋ねる。

「うーん、わからないなあ。どうやって開ければいいんだろう」と晴彦が応える。


 宝箱を仔細に見る。ボタンが三つあって、それぞれの横に英文が書いてある。


You did it.

That's right.

No problem.


「きっとどれかのボタンを押すと箱が開くんだろうけど……」晴彦が考え込む。

やがて、「そうだ!」と顔をあげる。


「どうした、わかったのか」と雅志が訊く。

「きみの名前はたき・まさしだよね」

「いまさらなにを言いだすんだ」

「それをアナグラムにするんだ」

「アナグラムってなに?」

「文字の順番を入れ替えること。『た・き・ま・さ・し』を入れ替えると『き・さ・ま・し・た』となる。『きさました』つまり『貴様した』でYou did itが正解だよ」


「すごーい、晴彦くん」と美奈子が感心する。

「なるほどね、おまえの頭の回転にはついていけないよ」と雅志は言い、正解のボタンを押す。

 (きし)んだ音がして、宝箱が開く。


 中には「マント」が入っている。

「これはなんだ?」と雅志が訊く。

「これは『防御のマント』だね。敵の魔法攻撃を防いでくれる」と晴彦が応える。

「すると『闇の魔術師』がこの宝箱をつくったのではなくて、別の魔術師がつくったんでしょうね。誰かが戦いに来た時に備えて」と美奈子が説明する。


「花田、おまえもなかなか詳しいじゃないか」と雅志が言う。

「晴彦くんにファンタジー小説を借りて読んだから」と美奈子は応える。


「で、この『防御のマント』は誰のものにする?」

「もちろん、たき・まさしのアナグラムで解いたものだから、滝くんのものだよ」と晴彦が言う。

「じゃあ遠慮なくもらっておくよ」


「さあ、そろそろ『闇の魔術師』の部屋に近づいてきたよ」と晴彦が言う。

 みなが緊張した面持(おもも)ちになる。


 やがてほら穴は、一部屋分くらいの広がった場所につながる。


 部屋には祭壇があり、一人の男が座っている。

「ようこそ、わが魔術師の部屋へ。お待ちしていましたよ」

「おまえが『闇の魔術師』か。いったいなんのために僕たちを呼び出した」と晴彦が尋ねる。


「わたしはこの異世界からそちらの世界へと通じる道をつくろうと思っているのでね。まずは実験段階として、きみたちがこの異世界に来ることができるかどうか、試したのさ」


「悪いが、わたしの正体を知ったきみたちには、消えてもらう」

闇の魔術師はそう言うなり、雅志に向かって攻撃魔法をしかけてくる。


雅志はマントで体の前面を覆う。魔法がはねかえされる。

「な、なんだそのマントは」

「やっぱりおまえじゃなかったのか、このマントをつくったのは。ありがたく使わせてもらうぜ」


 雅志が闇の魔術師との距離を詰める。


 今度は晴彦と美奈子がいるほうに向かって魔術師が「炎の矢」の呪文を唱える。

 晴彦たちはダメージを受けるが、赤色の魔石を使って回復呪文を唱える。二人のケガがみるみるうちに治っていく。


 雅志がその隙を狙って闇の魔術師の首先にナイフを近づける。

「おまえにうらみはないが、おれたちを攻撃してくる以上、おまえには消えてもらう」と雅志が言う。


 魔術師は「わたしを殺してもかまいませんが、わたしを殺すと自動的に「爆風」の魔法がこの部屋全体にかかりますよ。それでもいいんですか」と言う。


(おど)し文句のつもりか。覚悟!」


 そこから先はスローモーションのように晴彦の目に映った。

 雅志のナイフが闇の魔術師を刺す。首筋から血しぶきがあがる。

 部屋全体が爆風に包まれる。

 雅志は「防御のマント」で体を覆う。

 晴彦は美奈子にかぶさり、自分の体を使って美奈子を守る。


「わあっ」「きゃあっ」晴彦と美奈子が悲鳴をあげる。


 あたり一面は煙に包まれる。晴彦は気を失った。




 晴彦が正気に返ったのは、病院のベッドの上だった。


 晴彦の母親と、雅志、美奈子がベッドのそばにいる。


 晴彦の母親が「晴彦、きづいたのかい?」とそっと声をかける。

「うーん、ぼくはどうしたんだ」


「町はずれの教会で、わたしと雅志くんの意識がもどったの。でも晴彦くんは意識を失っていたから、わたしが救急車を呼んだのよ」と美奈子が説明してくれる。


「気がついてよかったな、晴彦」と雅志も言う。


「晴彦、おまえは最後まで花田のことを守った。それにひきかえ、おれは自分の身の安全のことしか考えなかった。花田へのおまえの愛情がよくわかったよ。おれは身を引くことにする」と雅志がちょっぴり悔しそうに言う。


「なんの話?」と美奈子が目を(まばた)かせる。


「いや、こっちのこと」と晴彦と雅志が一緒に応える。


「花田、これから晴彦のこと、面倒見てやってくれ」と雅志が言う。


 美奈子が「えっ?」と少し顔を赤らめて応える。


 雅志が晴彦に「でもおれたちの友情は変わらないぜ」と言った。


 晴彦は「うん、そうだね」と力強く応えた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

いかがでしたでしょうか。

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