ミネ キョウコ
どうにかしてミネ キョウコと近づきたい
最近、ミネの事ばかり考えている気がする。
ミネ キョウコを初めて見たのは僕がまだ高校一年、入学したてだった去年の夏だ。
レポートの資料を探しに図書室へ行ったその日、程よく冷房のきいた図書室は外が恐ろしく暑かったからか、いつもより快適な気がした。
どうせ放課後、やることもない。そう思って少し目を瞑った。目が覚めて、時計を探して宙を泳いだ目が、彼女を見つけた。
まっすぐ伸びた鼻筋、人に媚びない強い彼女が見えてくるような目尻、そんな強さを全く見えなくしてしまう優しい口元。僕に気付いて微笑んでいる。
思わず目を逸らしてしまった。
帰り際、ドアを閉めながらそっと彼女を見る。
夕焼けになる前、まだ柔らかい太陽の光を浴びた彼女の黒い髪は、宝石のように輝いていた…
かなり記憶が美化されていると自分でも思う。
それからは、教室の外に出る度目が彼女を探していた。
彼女のクラスを見つけ、そのクラスの人達の会話に聞き耳をたて、彼女がいる教室を横切るときは彼女を探す。
ストーカー気質と言われたら否定できない、恋愛をしたことがない僕の精一杯。
でも、一年近く経った今僕が知っている事は彼女の名前(漢字は知らない)とよく読んでいる本だけ。
周りのみんなは「コイバナ」に夢中。好きな相手の話、その子が好きな人の話。みんなで本当か嘘かもわからない話で盛り上がっている。僕もそこにまじることができたら、とても楽だろう。でも、僕はそこで自分の話をする気にはなれなかった。初めての恋、ミネ キョウコへの想いは自分で暖めたかった。
今度、彼女が読んでいた本を買ってみようか。
まともな小説を読みきった事がない僕が、まだ話したことのない彼女との話題作りのために本を買う。
真面目に考えたら可笑しい話だった。財布をカバンに投げ、ベッドの上で一人苦笑いをして電気を消した。
外では雨の音がしていた。