僕はオタクじゃない。
ツイッパー【ついっぱー】
140文字以内の「ツイル」と称される短文を投稿できる情報サービスで、
ツイパ社によって提供されている。「ミニブログ」「マイクロブログ」
といったカテゴリーに分類される。
艦娘くえすと【かんむすくえすと】
色々な戦艦を女の子に擬人化したブラウザゲーム。
「ねーアイツほんとキモいよね。ああいうのって二次元の女の子とか好きそう。
うわーキッモ、ありえねー」
女子の声…多分、ボクのことであろう声を聞き流しながら、僕は急いで学校の校門を出た。
すれ違う女子が、たまに笑う。
それは純粋な笑いっていうよりも、何かを見下すような笑い方だ。
というか、まさしく今の笑い声は僕を見てなのだろう。
慣れっこだ。
別にボクも仲良くしたいとは思わないし。見下すなら見下せばいいさ。
制服のポケットからスマホを取り出すと、僕はツイッパーを開いた。
『Albert:女子からオタクキモイって言われたんだが…女子ってなんでああいうこと言うのかね
理解できない』
僕を笑った女に言ってやりたかった言葉を、僕はツイッパーに投稿して
憂さ晴らしをした。
いや、別に気にしてないけど。慣れてるし。
投稿してすぐに、誰かからリプライ―返事みたいなもの―が届いていた。
『maronsan:@Albert アルっち大丈夫か?(´・ω・`)そういうのってホントうっとしいよな(´・ω・`)」
リプライの相手は、ボクがツイッパーでもかなり親しい相手だった。
このmaronsanってヤツは、本当に気が利くし面白い。
とにかく最高のネット友達だ。
ボクがmaronsanからのリプライを見ている間にも、もうひとつ、同じ人物から返事が届いていた。
『maronsan:これでも見てオチツケ(´・ω・`)つhttp://gazou.31337.114514.japg』
その一文とともに、画像が添付されていた。
「ほう…」
思わず、リアルで声を出してしまった。
その添付された画像は、今大人気のブラウザゲーム『艦娘くえすと』のイラストだった。
その中でも大人気の「ムサシちゃん」の画像だった。
いや、「ムサシちゃん」と言っても僕がつけているのではない。ゲームの中でのキャラ名が既にそうなのだ。
僕はどこかこっ恥ずかしくなって、思わず心の中でつぶやく。
『Albert:@maronsan 艦くえの画像か カワイイ女の子だな。ありがとう』
僕は画像を速攻で保存して、ツイッパーのタイムラインを眺める。
やはり、リアルよりもこちらの方が居心地がいい。
いや、決して僕自身がオタクというわけではない。むしろ一般人といえるだろう。
アニメは見るけど、その辺の萌え豚みたいに~カワイイとか言わないし。
ゲームばっかするけど、一般人だってゲームはするし。
にゅちゃんは見るけど、最近の若者だって見てるさ。
僕はオタクではない。一般人。ちょっと根暗というか、真面目なだけだ。オタクみたいな
キモい存在ではない。決して。
「ッ!?」
それは、僕の不注意だった。
スマートフォンの画面に夢中になりすぎて、目の前が見えていなかったのだ。
そのせいで、誰かとぶつかって尻もちをついてしまった。
「痛たた…」
ふと、ぶつかったであろう相手を見る。
高校の女子生徒が、僕の目の前で尻もちをついていた。
あの制服は、高宮高校…僕がいる高校と、同じ――。
最悪だった。
よりにもよって、同じ高校の、しかも女子生徒だ。
どうすればいい。とりあえず、問題になる前に謝らないといけない。
落ち着け、女子相手でも普通にやれば、キモいとは思われないだろう。
とにかく、謝ればいいのだ。動じず、普通に。普通に。
「あ、あの…その、ご、…ごめん、なさい…前み、見てなくて…すいませんでした…」
「ああ、ゴメン。こっちもスマホ見てて。これ、あなたのスマホ?」
僕の手元にあったはずのスマートフォンは、いつの間にかぶつかった女子生徒が持っていて
僕に差し出してくれた。
「あ、あの、そ、そう…です」
僕は女子生徒からスマートフォンを受け取ろうとしたその瞬間、あることが頭を過った。
今、スマートフォンが映し出しているものは、何だ?
「――!」
僕は思わず、女子生徒からスマホを乱暴に…奪うようにして受け取ると、そのまま走りだした。
最悪だ、最悪だ。
あの艦娘くえすとの画像を見られてしまったかもしれない。
めちゃくちゃオッパイが強調されていた画像だ。あんなモノを女子がみたらどう思うだろうか。
間違いなく、キモいと思われるだろう。
僕はあまりの恥ずかしさと、情けなさ、恐怖。様々な感情がごちゃごちゃになって、まるで起爆剤の
ようになっていた。
とにかく、自分のマンションへと、僕はそのまま走り続けた。